第134話 佐藤くんとしのぶちゃん
「本当に美形ですよね」
しみじみと、佐藤くんを見てしのぶちゃんが感想を呟く。
周りをぐるぐる回りながら
「こんな同級生いたらドキドキして話しかけられませんよ」
そう言いながら割と失礼なくらいジロジロ見てるけれど、佐藤くんは契約者、精霊みたいなものだから気軽に接近できると言う。
「人間の男子と、こういう存在は明らかに気配が違うんですよ」
今は私が、しのぶちゃんの様子を見てくると言って打ち合わせに来てる段階で。
これから佐藤くんとしのぶちゃんが戻って、佐藤くんの男の色香で誤魔化してる間に私が竜と話をつけてくるという設定になってる。
しのぶちゃんは、私が竜と話をつけたら佐藤くんに合図送るから、その後交代で竜と話してもらうようにと、そんな打ち合わせだ。
「でも、なんで佐藤二郎なんですか?名前からして美形男子のイメージないんですけど」
としのぶちゃんが佐藤くんに聞いてる
「前の前の契約してた方が佐藤さんで、長男と長女がいた方だったんです。
それで、私が男子の姿で現れましたので「二郎」と呼ばれたのが始まりですね」
「あれ?でも私の父の時は姿ケモミミ少女だったのでは?」
「それは、お父様の趣味ですから」
父の趣味って、何?
「今の姿は、さくらさんの趣味?」
「そういう事です」
「面食いですね」
しのぶちゃんがニヤニヤしてるが、実在しないような美形だからこそ価値があるんじゃない。
これが禿げて小太りで小汚いおっさんとかだったら、タンデムしてバイク乗りたくないし、呼び出したくないでしょう?
と話すと忍ちゃんも納得してくれた。
「男は見た目大事ですよね」
などと言ってるけど。
しのぶちゃんは私の家にくる時に佐藤くんと出会い知り合いになってて、ジュース奢ってもらったという感じではるなっちたちに会ってもらうようにしてる。
「腕くんだりしていいですか?」
「そこまで親密にしてるとはるなっちがガッカリするからだめ」
「はるなさん、佐藤くんに気があるんですか!」
すごく驚いた表情で言う。
どうやら、私と同じではるなっちは男などに興味なく、ただひたすらにバイク(HONDA)にだけ興味を向けてる変な女学生だと思ってたらしい。
それで、こないだ家であった時の話をすると
「それは興味深いですね。では、はるなさんの反応がおもしろそうなので適度な距離感でいきたいと思います」
完全におもしろがっている感じだ。
いや、私も見たいけどまずは目的の竜をなんとかしないと。
佐藤くんたちが戻った後、私は一人龍のところに近づいて行く。
人気のないダム湖のほとりに、見上げるほどの巨大な竜が上半身?を伸ばしてこちらを見ている。
鱗の一つ一つが緑というか深い青色のように煌めいていてとても美しい。
毎回思うけど、竜って鉱物のようであって生き物の生命感もあって。とても美しくて見惚れてしまう。
でも、自分を飲み込むほどの巨大な口と牙が見えてくると、美しさだけではない「根源的な恐怖」のようなものも感じられてしまう。
食べられることはないと知っていても、ガブっとこられたら体半分になっちゃうし。
「お前が、先の精霊の主か」
そう言って顔を近づけてくるが、トラックが近づいてくるくらいの迫力がある。
巨大な金色の目がじっとこちらを見る。
虹彩が微妙にオレンジの光も入っていて、瞳は黒曜石のように真っ黒く美しい。
龍の体はどこも綺麗よねぇ。
なんて思っていると
「わしとしばらく遊ばないか?」
急にナンパしてきた
「遊ぶとは?どういうことです?」
そういうと、小さい前足で顎の下を支えながら、
「わしも、ここしばらく若い娘と接しておらぬで女性性の力が不足しておってな。
その力が十分でないとここの水量を支えられなくなってしまう。
そうなると、主たちも迷惑じゃろう」
なるほど、何気なく「自分と遊んでくれないとお前たちが困るぞ」アピールをしてくるわけか。
佐藤くんから教えてもらったことに「若い女好きの竜は自分と遊ばないかとか言ってきますが、龍の「少し」は人間の「数年」なので、一度遊びを許可してしまうと数年は人間界に戻れなくなりますよ」と恐ろしいことを言われたことがある。
竜にも幼児が好きとか男児が好きとか好みは色々あるらしいが、ここの竜は女子高生くらいが一番好きらしい。
昔話で生贄に10代の娘が捧げられるのって、こういう理由だったのかしら。
たまに神隠しなどがあり、数年して戻ってきて記憶がないとか、そんな原因の一つに竜と遊んでたというのもあるらしいと。
怖っ
ここで消息不明になったら、確実に「ダム湖に落ちた」という話になってとんでもない捜索活動が行われて多くの人に迷惑かけてしまうわ。
私の生い立ちとか、ワイドショーのいいネタになってしまうし。
とりあえず、ここでは竜に対しては、今は遊べないけど次回来た時に遊んであげると約束をするといい、と佐藤くんに教えられたのでその通りに話を持っていく。
ただし次回は無い。
竜を騙してるような感じで心苦しいけど、佐藤くんから竜にとって数十年とかは人間にして数ヶ月程度の感覚なので「なかなかこないな」程度で待ってくれますと。そして気づいた時には「人間の寿命が短いの忘れてた」くらいの感覚だから気にしないでいいと言われた。
しかし、ここの竜はあの手この手で「今遊んでくれないと困る」という誘いをかけてくるが、断固拒否し
「今日はどうしても外せない用事があるんですが、すごい龍神様がいると話に聞いていたので挨拶だけに来ました、またすぐ帰らないといけないからごめんなさい」
とか言って龍の誘いを逃れるようにして。
佐藤くんからのテレパシー的な手伝いもあって、なんとか竜を言いくるめて。
なんかしょんぼりなってしまったけど、次来た時に遊びましょうと言って帰ってきた。その際に約束と小さなツノのかけらを貰ってしまったけど。
それは薄水色に輝く半透明の石のような、金属のような不思議な物質でできている。
なんか、騙してるようで悪い気がするけど、多分2度とここにはこないから
と心に思いながら、はるなっちたちのところへと戻っていく。
後ろから見られてる視線が痛いわ。
そして3人と佐藤くんがいるところに行くと、なんか面白い感じになってた。
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