第136話 夜のひととき
割と時間がかかったので、あまりゆっくり温泉に入ることができなかったけど、それよりも外にいるカンガルーの大群にヒナっちはテンションアゲアゲだった。
はるなっちは佐藤くんについて、私としのぶちゃんに根掘り葉掘り聞いてくるのでかなりウザかった。
好きになったらその対象についてとことん調べないと気が済まないタイプなのね。
それがバイクのような無機物ならいいけど、人間相手なら適度な距離感というのがあろうと思うんだけどなあ。
今後、はるなっちに男ができた時のことがだいぶ心配になってくるわ。
温泉回でも特に入浴シーンはなく、気持ちよく温泉で汗を流して家まで帰ってきたのだけれど、温泉から帰ってくるまでに結構また時間がかかってしまう。
もうすっかり黄昏時で、一日中外を走り回っててみんな疲れ果ててる感じ。
昼間は江川さんご夫婦が滞在してくれていたけれど、私たちが帰ってくる前にはすでに近くのホテルに移動したということで、冷蔵庫にバーベキュー用の肉と野菜を入れてるから使っていいよ、とみどりさんからの伝言もいただく。
すっかり買い物に行く時間がなかったから、とても助かる。今度みどりさんに料理をまた教えてあげないと。
疲れてるならテントは明日にしたら、と私が言うけど、はるなっちとヒナっちは
「いいや、テントを張る」
と言って庭の向こうのほうにテントを張ったり木の間にハンモック吊るしたり。
「焚き火燃やしてもいいの?」
と聞いてくるので
「焚き台とか使って延焼しないようにきちんと火の番できるならいいよ」
と許可を出すと、二人はそれぞれ自分のテント前に焚き火台を出して準備をしている。
心配になったので近くに水道のホースと水を入れたジョウロと、燃えさしを入れる薪ストーブで使ってる黒い灰入れとかそういうのを用意してあげたりして。
「薪は持ってるの?」
私が二人に聞くと
「その辺から拾ってきたの燃やせばいいと思ってたけど」
とヒナっち。
「松ぼっくりとか燃やしてる映像見るから、そんなんでいいわよ」
とはるなっち
「そんなの焚き火でもなんでもないじゃない。
拾ってきた木はまだ乾燥してない可能性もあるし、針葉樹は煤が出てすぐ汚れちゃうよ。松ぼっくりとか燃やしてたら煤だらけになる」
と言って、私が火を燃やす際のノウハウを伝授する。これは薪ストーブを使っていたから身についた知識なのだけれど。
まだ薄明るいうちに我が家の薪を持ってきて、それに斧を入れてさらに小さく割る。
「バドニングとかしたいのよね」
と言ってフルタングのナイフをはるなっちが持ってきてたけど
「そんなひ弱なのだと薪に使ってる太さの紅葉樹は割れないわ。私が少し斧で割るから、それから奈良バドニングしてもいいかも」
と言い、私が斧で薪を細かく割り、節のないところをはるなっちがナイフでガンガン割って楽しんでいる。
ナイフとか使うと刃が傷んでしまいそうだけど、その辺は問題ないのかしら。
私だったら、勿体無いからもっと丈夫な斧とかナタとか使うけどなぁ。
などと言うと
「手持ちが少ない状態でやるのがいいのよ。ナイフ一本で焚き火から料理からしていくのって楽しそうじゃない」
「完全にYouTuberに汚染されてるじゃん」
「だって、日常生活じゃあナイフとか使わないじゃない」
「そうかもしれないど。ヒナっちもそういうのしたいの?」
「バイクで旅しながら、一人焚き火を囲みコーヒーとかパーコレーターで入れたり、ウイスキーとか飲んだりしたいって思ってるから。
今のうちにナイフの使い方とか覚えておきたいよね」
「キャンプで日本一周でもする気?」
「20歳超えたらしたいな、って思ってる」
こんな美人さんが一人でキャンプしながらツーリングとか、危ないとついつい思ってしまうけど。
日本なら問題ないのかしらね。移動中はヘルメット被ってるし。
薪を適当に渡してから、今度はバーベキューの準備に移るのだけれど。
ここはしのぶちゃんがとても手際がよく、炭の準備、火をつける準備、肉野菜の準備などなどをささっと行ってしまう。
「手慣れてるのね」
「田舎は、親戚が集まるとすぐ外で肉焼いて食べる習慣があるから。ゴールデンウィークとかはどこもかしこも庭でバーベキューやってますよ」
小さい時から、毎年の習慣で。春秋の連休と夏休みは必ず庭でバーベキューパーティーという話。
確かに我が家以外の、近所の別荘からも話し声とか、なんか焼ける匂いとか漂ってくるわね。
流石に焚き火で肉を焼いて個別に食べる、とかは二人も言わないわけで、夕食はみんなで江川さんたちが買ってくれた肉と野菜と、パック飯をチンして食べることにした。
「肉には白米よ」
と言いながら丼にパック飯を2つ注ぎ込んでるけど、ヒナっちは割と米派なのね。
はるなっちは「肉の時に米はなくてもいいわ」と言うので、肉と野菜を焼いて食べてる時は炭酸飲料だけでいいのだとか。
私は、まぁごはんとおかずって感じだから白米がないと落ち着かないかな。
「冷凍庫にこんなのあったのでチンして持ってきましたよ」
と言って、しのぶちゃんは冷凍焼きおにぎりを持ってくる。
これもどうやら江川さんが置いていってくれたもののようだ。
至れり尽くせりでありがたい限りです。
しのぶちゃんはそのおにぎりに焼肉のタレを塗って網で焼いてる。
なるほど、その手があったか。
肉は近所のスーパーで売られている「赤牛焼肉セット」なので結構お値段が高いものと見受けられるけど、そこにウインナーと鶏肉などもあって結構なボリュームがある。
「焼くだけ焼いて、余ったら明日の朝ごはんにしましょう」
などと言ってたけど、全部食べてしまう勢い。
その後二人は外で焚き火しながらコーヒー飲んで寝るとか言ってたので私としのぶちゃんは家の中に入ることにして。
くれぐれも焚き火の後始末は忘れないようにと釘を刺しておく。
二階の寝室の窓から二人のテントが見えるのだけれど、なんか焚き火を囲んで楽しそうに話をしている様子。
火を囲むと心が穏やかになる、そんな話もあるから友情を深めるのにはいいのかもしれないわね。
私は日常生活がソロキャンプみたいなものだから、わざわざテント買ってキャンプしたいという気持ちにはならないけど。
家族と普通に暮らしていると、一人の静かな時間と一人の空間というのが欲しいと思うのかしら。
とりあえず、しのぶちゃんが出てくるまで、私はガレージに置いてあるスーパーフォアを磨くことにした。
明日も、またみんなで一緒にツーリング。
あ、そういえは龍の話をしのぶちゃんからまだ聞いてなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます