第126話 久々のツーリングは原尻の滝へ
はるなっちがやってきた時に、ちょうど佐藤くんが外にいて鉢合わせになってしまった。はるなっちの視線が庭先にいた佐藤くんに釘付けになる。
しまった、佐藤くん片付けるの忘れてた!
「じゃあ、さくらさん。僕は帰りますから」
と言ってそそくさと佐藤くんは立ち去り事なきを得たが。
佐藤くんもタイミング悪い時に山から戻ってきたものだわ、
はるなっちをガレージに迎え入れると、ヘルメットを取った瞬間
「誰あれ、めっちゃ美形じゃん」
偉く食い気味ではるなっちが話しかけてくる。
異性に対してこれだけ反応するのが珍しい。
「うん、いや、近所の人」
苦し紛れの言い訳
「何しにきてたの!」
「か、回覧板届けにきただけだよ」
苦し紛れの理由を言う。
「じゃあ、特にあんたの特別な人ってことではないのね」
特別な関係ではあるが、多分ここでは違う方の意味合いだろうと思い
「たまに話す程度よ」
「いいなぁ、あんな美少年と会話できるとか羨ましいわね」
「そうでもないよ」
「ほんと、田舎に住んでるくせにあんたの周りは田舎くさくないのよ」
そう言われても私の責任じゃないし。
「珍しいね、男子に興味持つの。いつもバイクの添え物程度にしか見てないのに」
「美形は別よ。世の男子が全て美形だったら最高なのに」
そらそうだろう。と思ったけれど、はるなっちはかなりの面食いであることがわかった。
「性格がいい田舎の芋学生と、性格悪くてDV気味な超美形だったらどっちがいいの?」
「美形に決まってんじゃん」
はるなっちの将来が心配になってきた。
今回は久々に二人でツーリングする。
今日はちょっと変わったところとして「原尻の滝に行くわよ」と言われる。
ルートは二重峠から大観峰ルートを進み、産山に抜けてから国道57号線に入り、そして目的地へと向かう感じ。
Googleマップで見ると大体2時間。
行って帰ってくると夕方になってしまう時間ね。
「国道通ると早いんだけど、やっぱりミルクロード走りたいじゃない?」
バイクは目的地に行くために乗るのではなく、目的地を口実にバイクに乗るのがライダーなのだ、とか熱く語ってるけど。
その気持ちはよくわかるし、私も最近は「乗ってるだけで癒される」ようになってきたし。
なんで行くかというと「チューリップフェアがもうすぐ終わるから、その前に行ってみたくて」と言う話。
ならカメラ持っていこう、と久々にカメラを専用のリュックに詰め込んで持っていくことにした。
高藤先輩が「カメラは高級品だから壊れないようにしないとダメ」と言われたので、先輩おすすめのカメラ専用リュックなるものを購入していたのだ。
でも重たいから「今日は写真とる!」と思った時しか持っていかないんだけど。
「なんか、カメラがあるといいかな、って思って私もこれ買っちゃった」
とはるなっちが小さくて可愛らしいカメラを取り出してきた。
一応一眼レフっぽい見た目だど小さい。
パナソニックのLUMIXというもので、以前高藤先輩が持ってたような気がする。ミラーレス一眼でコンパクトでそれなりに映像も綺麗。
「と言っても親戚が新しいの買い替えたから本体はもらったもので、望遠レンズだけ私が買ったの」
と言って見せてくれるレンズも小さくて持ち運びしやすそう。
「いいね、それ持ち運びしやすそうで」
「バイクもカメラも軽量がいいのよ」
はるなっちは基本そういう考えなのだろう。
私はなんか、最初から高スペックなものが周りにあるので、自分の身に余るものばかりでなんか人生勿体無い感じがとてもしてる気がする。
竜との関わりもそうだし、春間の家とかお母さんの実家とか、お金とか物とか。
お母さんと二人、普通に熊本市内のアパートで暮らしてた時期の方が幸せ感は強かったように思える。
今は、周りにあるたくさんの手に余るものに迫られ、追い立てられる感じかしらね。
だから、バイクに乗る時間は自由で解放された感じがあって、前よりも好きになってきた。
でもこれって、単に追い込まれてるから逃避行動してるだけではないのかしら。
はるなっちがエンジンをかける。
セルモーターもついてるけど、あえてキックでエンジンをかけるのだが。
「SRに負けないわ」などとよくわからない対抗心を燃やしてたりする。
セルのが楽なのに。
単気筒の鼓動のようなエンジン音が野太く響く。
そういえば、この間マフラー変えてたわね。この単気筒の音は私には耕運機とか農耕機械の音に聞こえるのだけれど、なんか人間の生活に近い音という感じで私は好き。
私はキュルキュルドンでエンジン始動。
でもやっぱり、この音が最高だと思う。
最近は、このスーパーフォアのエンジン音を聞くだけで癒されるようになってしまったし。
まだバイクに乗り始めて1年経ってないんだなぁ。
なんとなく高校に入ってからずっとはるなっちやヒナっちたちと友人としていた気がしてるけど、昨年の8月からのご縁なんだものね。
そう思うと、人間の親密度というのは関わった時間ではないのかな、と思ったりする。
まぁそれぞれが変わり者のボッチだったから、距離感の詰めかたが異常なだけかもしれないけれど。
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