第125話 白龍の嫁の役割と

はるなっちからの電話は、「これから大観峰行ってソフトクリーム食べよう」という話だった。

昨日の今日で、ちょっと疲れてるとこもあったけど四葉おばさんとの話の中で、モヤモヤすることもあったのでちょうどいいかもしれない。


救助を待つ間、四葉おばさんに白龍についての話を聞いていた。

白龍という存在と、それを守る意味とかそういう感じかしら。


この白龍様と言われてる存在とコンタクトを初めて取ったのが、四葉叔母さんが嫁いだ先の家、しのぶちゃんの実家だ。


初代がそこで竜と契りを交わした結果、竜と話ができる子が生まれるようになったという。

お母さんの実家の大津家はもっと前に熊本に住まう竜との関わりを持っていて、お城作ったり街を作ったりするときに竜の力、意向を聞きながら行っているのだとか。


しのぶちゃんの実家とか、他にも玉名や菊池、八代、人吉など色々と龍を祀る家があって、そこと婚姻関係を結びお互いの血を絶やさないようにして行った結果今のようになったと言われている。

元々大津家が全体をまとめていたわけではないのだが、春間家のような「中央の竜つかい」と関わるには代表者が必要となってくる。

そこで、大津家が春間家と交渉するために熊本の血縁になっている竜使いをまとめ始めたということらしい。


「大津家が熊本で力を持ち始めたのは、明治時代以降なのよ」


と四葉叔母さんは言ってた。

血縁を作って繋いでいく過程で油断すると血が濃くなり子孫が生まれなくなる危険があったため、家同士で細かく婚姻の系譜を調べて記録してあり、それをまとめているのが大津家だったため、交渉相手に選ばれたとかなんとか。


女児の長女が基本的に跡を継ぐのだけれど、四葉おばさんの旦那さんのように「嫁を取ることで」家の龍を引き継ぐことを行うのは、この血が強くならないようにしつつ、血が薄くならないようにするという意味がある。


「結婚相手自分で選べないんですか」


と私が聞くと


「恋愛と結婚は別なの。結婚は家族を大事にしてくれる相手とつながることが大事。その点、家を守っている人達というのは、家の評判とか今後の将来とか考えてるから無謀なことしないし。お金はあるしそれなりに権力もあるから、結婚相手としては理想的よ」


などと言われてしまう。

大人になると、そういう感覚が出てくるのかしら。

確かに、恋愛で盛り上がって結婚して「結婚前と違った」とか言うよりは、最初から期待値がない状態でお互いの関係を強めていこうとする方が、お互いいい関係になりやすいのかもしれないけれど。


私は無理だなぁ。人から結婚相手決められるのって。


白龍と対話できるのは、四葉おばさんとしのぶちゃん、あとはしのぶちゃんのおばあちゃんだけで、男連中は対話できないらしい。

女子だけの秘密を持っているので、この家では女子が強く、家の方向性もおばあちゃんが大体決めていると言う話。

前回のおじさんたちの会合みたいなのは「夫や男衆が家を盛り立ててくれているので顔を立てている」だけで、重要なことは竜と会話できる女性たちが裏で切り盛りしているらしい。

財布の紐も握っていると言う話を聞かされると、しのぶちゃんのお父さんがあれだけ立派に見えるのは裏でお婆さんとか四葉おばさんが操っているからなのか。


「大津家は交渉役が男、実務が女、という感じ。だから女はみんな大切にされるから、今お嫁にきた家でも居心地はいいのよ」


と言う。

竜という存在は、特に何もしない存在で、人間に対してもそこまで興味がないらしい。


「じゃあ、なんで嫁に行くとかそんな話が?」


「竜は長く生きる存在で、寿命というものが無いようなものなの。

無限の時間を生きる人も、たまには暇潰しがしたいと思ったんじゃないかしら。

だから今でも、今日も白龍様との話は国内情勢とか、海外の話とか、色々とインターネットで調べた内容とか新聞の内容とかをお話しして。

それに対しての質問に答えてる感じよ」


「今年のイネの作付けとか、牛の出来とかそんな話しないんですか?」


「その日常会話の中でポロッと話してくるのよ。

例えば、海外で牛肉の値段が上がってて、その理由は穀物の相場が高くなってるから、って話をすると。

昨年はイネの実りが良かったので藁が多く得られただだろう、今年も稲は天候に恵まれ順調に生育するから国内の牛を多く供給することができるだろう。

とかそんな感じ」


「直接今年のコメはどうですか。とか聞かないんですか?」


「例えば、さくらちゃんと会話するときに

今月は銀行口座に遺産どれくらい振り込まれます?

とかいきなり聞かれるようなものなのよ、そんな人と会話続けたいと思う?」


「思いません」


「私たちは、白龍様の興味をひきつつ会話を行い、お互い良い報交換ができるようにしていくことが役割。

白龍様とも対話していると、人間と違うスケールで生きてる存在だから悩みに対しての答えが視点が違っててね。人間社会での悩みとかも外れていって私も楽になるのよ」


白龍との対話、嫁に選ばれることは何も悪いことではないのか。

色々と儀式が面倒臭いとしのぶちゃんは言ってたけど、それ以上に良い結果が得られるから、代々ここの人たちは白龍との関わりをやめてないわけね。


「白龍の嫁になる、とか大変なのかと思ってましたけど。

話を聞いてると、楽しいとこもあるようで安心しました」


「しのぶのこと心配してくれてたのかしら。

あの子は、もうちょっと勉強頑張ってもらわないといけないから、今後も面倒見てあげてちょうだい」


と言われてしまったが。

なんか勉強見る相手がどんどん増えてるような気がする。


はるなっち、ヒナっち。それにしのぶちゃんかぁ。


今回山が崩れたのは、数百年ぶりに白龍がはしゃいで飛び上がったので、脆くなっていた部分が壊れてしまったという話。

だから、別に白龍が怒ってたりもしないし、機嫌を損ねてもいないのだとか。

ただ、男衆や関わる人たちが心配するので色々なことを行っていたという。

意外と真相はこんな感じなのかな。


しのぶちゃんの今後白龍との関わりはそう問題なさそうだけれど。

私の方は今後どうなるのかなぁ。


しのぶちゃんの家のように、周りから形が決まっていて、それに合わせて行動する方が楽な気がする。

そのための儀式だったりするんだろうな。

私の場合は「まぁやってみて、失敗したらなんとかするから」的な、私に自由にしていいと言われているけれど、失敗したら今回のように地震とか来たりするし。


周りの経済的であったり、人的なサポートが手厚いのはいいんだけど、しのぶちゃんの家みたいに親が教えてくれたりする方が、私は嬉しいけどな。


今日の会話の内容を思い出しつつ、ツーリングの準備をしているとはるなっちのCB400SSのエンジン音が聞こえてきた。



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