第124話 白龍と人と

転がった岩は全て取り除くにはもっと大型の機械が必要ということで、横にユンボで道を削って作り、人が一人通れるほどの切り通しのような道が作られた。

ここに大型機械を持ち込むことは難しそうなので、今後はこの岩の横に作った道を整備して使っていくらしい。


四葉叔母さんは無事救出され、私はしのぶちゃんとお父さんから感謝されてしまう。

いや、私特になんもしてないんだけどなぁ。

むしろ、竜についての話をじっくり聞くことができたので、私の方こそ勉強になったし。


ただ、しのぶちゃんのお父さんからは

「今回の軽率な行動が、このような大事になる可能性も今後は考えてほしい」

とお叱りを受けてしまい。


確かに、自分の今の状況についてあまりにも無知であると反省してしまうところ。

大竜相手にはもっと慎重になって佐藤くんの意見をちゃんと聞かないと。

今回の件は私がうっかり大竜にお願いしたことが原因だったので、その場の迷惑かけた皆さんに謝ったところ、そこにいたおじさんたちからは

「大竜と話せる巫女か。初めて会うことができたばい」

となんか珍しいものを見るような目で見られ、佐藤くんも

「これが契約者なんか」

とジロジロみられたり、なぜかツーショット写真をスマホで撮影されたりして。

「家のもんに自慢しとく」

とか言われてしまったり。

佐藤くんはスマホで撮影すると輪郭がぼやけた感じで、人間の形をしてないように映ることを今回発見した。

まるで私とツーショットは背後霊がついてる心霊写真みたい。

竜を祀る家から見ても、わたしたちはそんなに珍しい存在扱いなのかしら、どっちもどっちって思うけれど。


色々と作業が終わったのは明け方近く。

しのぶちゃんから家でご飯食べていかないかと誘われたけど

「慌てて出てきたから、戸締りとかしっかりしてなくて」

と言って、家に帰ることにした。

いや、なんかまた一緒にいると怒られそうな気がするし。

もちろん、帰りは国道をぐるっと高森方向から回って帰ることにしたのだけれど。

なんか、こっち走ったほうが早く家に帰れた気がするから来る時も清水峠とか走らずこっち来ればよかったわ。


直線距離で近いと思っても、実際走ると路面状況の悪い峠道はスピードが出せないので時間がかかる。これは、はるなっちと初めて出会った道でも経験したことなのになぁ。


焦ってる時は道を誤ることもあるということよね。


その日は地震もあったので、学校は休校。豊肥線が点検のために動かないので通学できない人も多いからだそうで。


佐藤くんはそのまま乗っけてきて私は家に帰って、ゴロンと横になって、

「佐藤くんはどうするの?」

と寝ながら聞くと

「ここから大龍の様子を観察します」

と言って外へ出ていった。

窓の外を精霊たちが緩やかに飛び回る姿が見えていて、そのゆっくりとした動きをぼんやり見ていると、そのまま意識を失ってしまった。



「白龍殿に生贄を捧げるのじゃ」


そう言われ、私が選ばれた。


大地震が起こり村は山津波に巻き込まれ、生き残った家の中で最も若い娘が私しかいなかったからだ。


男たちに連れられ、山の頂にる白龍さまの元へと連れていかれる。

そこにある岩屋にいくつかの捧げ物と共に私が置かれ、皆が祈っていく


「お怒りをお鎮めくださいませ」


神主の祈りに合わせて皆が祈りの祝詞を唱えていく。

松明の火が爆ぜ、山々に人々の声が反響していった。


一人岩屋に置かれた私は、白龍さまが近づいてくるのを感じる。

地震が起こった時、白龍さまは宙を舞っていたが、私がここにきてからは峰の上に降りてきてじっとこちらを見ている。


私は、龍神さまに食べられてしまうのかしら。

怖い。

痛いのも嫌。


『むすめよ』


声が頭に響いた、驚いて目を開けると目の前には見目麗しい男性の姿がある。

高貴な家の出身なのか糊の効いた着物をまとい、松明の炎に照らされて妖艶な雰囲気もある。


「なぜここに連れてこられた?」


その男性は自分に話しかけているのだと気づき、慌てて


「白龍さまの生贄となり、この地鳴りを収めるためです」


そう言うと、男性はしばし考える素振りをして


「生贄などもらったところで、地鳴りはやまぬ。大龍が大人しくなることで収まるのだ。もう少しこの調子は続くであろうな」


「これは・・・治らないのは龍神さまがお怒りになっているからでしょうか」


「何に怒るのだ?これはじきに収まるものであり、生贄が来たからといって変わるものではない。それに誰も怒りもしてないし生贄も求めていないのに人間は不思議なことをするものだな」


人間は?

その言い回しに、目の前の男性は狐か物の怪かと思った時


「我はその白龍だ。人間が何かしているので様子を見にきたら娘が一人置かれていたので話し相手に来ただけなのだが」


「りゅ、龍神さま!」


「その神でもないので、そう言われることがこそばゆい」


そして、その白竜の化身の男性としばらく話をすることになった。

人間の営みについて、村の様子について色々と聞かれたことに答えていく。

すると、その白竜様は目を輝かせて、根掘り葉掘りと細かいところまで聞いてくる。

私が答えられないこともいくつかあったため。


「よし、では娘よ、また今度ここに来てその話について語り合おう」


「また今度?」


「おお、そうじゃ。人間の命は短いからな、娘の子孫が代々我の話し相手となれるように印をつけておこう」


そう言って白竜様は私の腹へと手をかざす。


「これで我も退屈しのぎができるものだ。

いつも大龍の相手をするだけでは飽き飽きするからな。今後は人間とも関わっていきたいと思う。

今回は私の鱗を持って帰れ、そして地鳴りは収まることと、自分が我に選ばれたと皆に伝えよ」


と言われ、手に白く美しい好物のような鱗を手渡された


ところで、スマホの着信音が鳴り響き


はっと目を覚ますと、窓から見える太陽がかなり高くなっているのに気づき、スマホの画面を見ると、はるなっちからの電話だった。


おかげでさっきまで見てた夢の内容を忘れてしまったわ。

確か、白くて美しい鱗を竜からもらった、とこは覚えてるけど。


とりあえず、はるなっちからの電話をとる。






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