第127話 チューリップと東洋のナイアガラ

目的地に到着すると、一面チューリップ畑。

駐車場にバイクを停めて、重たいバイクジャケットを脱いでバイクに引っ掛けて、軽い上着に着替えてから、まずは周りのチューリップを撮影していく

ライダージャケットは軽い亀仙人の甲羅くらいあるんじゃないかって感じで、重たくて歩くだけで肩が凝りそうになるから、観光地を移動する際はどっか置いていかないと辛いものがある。

それに一眼レフカメラとか抱えてたらさらに移動だけでキツくなるし。


遠くに見える山から手前に広がる水田と農村地帯特有の家たち、その手前にチューリップ畑って感じなので


日本の田舎の風景にたくさんのチューリップ、というのも風景的にどうなんだろう


と思わないでもないけれど、花がいっぱいあるのは綺麗で気持ちがいい。

なんでもたくさん咲いてるのはいいものね。

だから、こういう観光地で人寄せするなら季節に咲くものだったらなんでもいいような気はする。春だからチューリップなのか、田んぼがちょうど空いてるから今の時期なのか。


「チューリップもこれだけ植えてあると壮観ね」


はるなっちも喜んでチューリップの間を歩き回っているので、時折モデルになってもらって撮影してみたり。

この人、絵になるのよねぇ、本人がもっとその気になればモテモテ女子になっただろうに。


バイクオタクの可哀想な女子、という認識が私のクラスでも徐々に広がっているようだし。


多分、その中に私とヒナっちも入ってるんだろうけど。


「ちょっと、大分といえば「かぼす」よ。ソフトとか食べていこうよ」


「大分って椎茸じゃないの?」


「かぼすも有名だって、ソフトクリームに生椎茸と椎茸エキスが効いたソフトクリームとか微妙でしょう」


昔、生椎茸入りヨーグルトを食通に食べさせる漫画を読んだことがあるような気がするが。


椎茸はお菓子に合うようなものではないので、フルーツっぽい方がいいというものだろう。

大分って、かぼす、温泉、椎茸、あと関サバとかが有名なのかしら?

割と隣に住んでても「温泉と椎茸の国」くらいの認識しかないので、生活圏に入ってないとそんなものなのかもしれないわね。


かぼすソフトは美味しかった。

適度な酸味と甘さがミックスされてて


「やっぱり椎茸ソフトじゃダメなのよ、このかぼすなのよ。」


とはるなっちが力説してたが。

かぼすは焼き魚などにかけて食べると美味いらしく、メインで食べるものではないけど、料理を際立たせるとこがいいとかなんとか。


「焼き魚の大根おろしと同等の位置にいるものよね」


ソフト食べながらの会話ではないと思う。


そして目的の滝は近くまで行けるので、まず下に降りて滝壺に向かう。


「ナイアガラ?」


「行ったことないからわからないけど、縮小模型って感じ?」


幅120メートル、高さ10メートル近い岩壁から滝がいく筋も流れていて、写真で見たことのあるナイアガラとは水量も迫力も違うけど、確かに「ナイアガラっぽい」と言わしめるものはある。

ナイアガラとかつけなくても、素直に「すごい滝」という感想しかない。

屋久島で見た大川の滝の迫力スケールに比べると弱いけれど、これはこれで独特の地形から流れ落ちる感じが良いものだわ。


よくみると、滝の上の方を歩く人たちもいる。どうやら滝を上から見下ろすこともできるらしいので早速二人で歩いていき、ワイワイ言いながら滝壺を覗き込んだり写真撮ったりして。


「マイナスイオンって感じね」


などと言いながら、滝の近くにあるベンチに腰掛けて二人でちょっと缶コーヒーなどを飲んでゆっくりしていく。


「ところで、さくらはこの先どうするか考えてる?」


「どうするとは?」


「遺産とかもらったり、管理したり、将来の自分の方向性とか」


「それが、どうしたものかと悩んでて」


「親が偉大だと、大変ね」


まぁ、それもあるんだが


「親戚とかがいきなりたくさん出てきて、従姉妹も出てくるしで、そっちの付き合いをどうしていくべきかとか悩んでる」


「自分の将来より親戚付き合いが悩みの種ってこと?」


「初めてのことばかりで疲れちゃって」


「そうねえ、私は生まれた時から近くに親戚がいて、皆で集まったり食事したり普通にしてたから。特別親戚付き合いについてとか考えたことなかった」


「父の妹とか母の妹とか、そういう関係が急に出てくると。距離感が今ひとつよくわかんないのよ」


竜の話があるのだけれど、それは話してもしょうがないので


「別に、親戚だからどうこうじゃなくて。普通に接していけばいいじゃない。

自分に適切な距離感ってあるでしょ?

私とか話す時と、男子とかと話す時と、それぞれ距離違うじない。

叔母さんだから、従兄弟だから、って近くに無理して感じなくてもいいんだし。普通に、その辺の知り合いと話す程度のやり方でいいと思うわよ」


そういうもんだろうか。

親戚というだけで、近い間柄としてもっと親密にしないといけないのではないか、と思ってたと話すと


「私だって、同じ親戚でも近い人もいれば遠い人もいるし。従兄弟だってほぼ話したことないひともいるのよ。仲がいいのは数人だけだし。

だから、血縁だからって特別に考えなくて、今まで通りでいいじゃないの」


そういうもんなのかなぁ。

竜とかそういう話が絡んでて、何かそういう仲間としての強い絆とか作らないといけないのかも、とか考えてたけど。

言われてみればそうよね。


自分のペースで関わるようにすればいいってことか。

それは竜とか佐藤くんとの関係もそうよね。

人間ではないけど、同じように自分が無理して相手に合わせる必要はないのだし。


「たまに、こうやってツーリングすると、色々と悩みが外れる感じがあっていいね」


「バイクに乗ってるだけで、人生最高って思えるでしょ?」


「いや、そこまではないけど」


「さくらも、だんだんそうなってきて。エンジンかけただけで気分がスッキリなるわ」


「それ、かなり末期症状じゃん」


私の場合は、こんな感じで友人と軽い話をしている時間が、結構大事なんだけどな。

バイクに乗ってる時もいいけど、一緒に走って一緒の風景を見て、話をすることが心地いいと感じる。


「ここのチューリップ、フェアが終わったらい抜いて持って帰っていいんだって」


「食べるの?」


「多分食べられると思うけどそんなことしないわよ。球根はきちんと育ててあげれば増えるし、また何年かしたら花も咲くから、気に入った品種をもらっていいみたい」


「じゃあ、引っこ抜きにまたくる?」


「バイクでくるのは効率悪いわよ。それに、育てる自信ない」


「バラ農家しながらチューリップ農家もやればいいじゃない」


「手法が全然違うし」


などと話しながら、また滝の周囲を歩いて。吊り橋を歩いてワイワイ言って。

その辺の大学生っぽいのにナンパされかけて。


カワサキのニンジャとか書いてあるバイクに乗った数人組がはるなっちに声をかけてきたのだけれど、


まぁ、その後は何か意気消沈してトボトボ立ち去っていく様子が見られたわけで。


「あいつらバイクの乗り方とかなってないから、その話したら逃げってたわ」


とか言ってはるなっち戻ってくる。

多分何か相手の心に響くことを言ってしまったのだろう。


バイクから降りると、ツインテールに必ずしているので目立つのはあるけれど。

見た目がアニメとかから出てきたみたいな美少女だから、男子の目にも留まりやすいというものよね。


「さて、これから帰ると夕方になるわね。

帰りはちょっとご飯食べて帰らない?」


と言われて、連れて行かれたのは滝室坂にある味千ラーメン


味千ラーメンなんて、どこも同じでしょ?

と言いながら、年季の入った店に入ると。


中にはおでんが置いてあったり、定食の種類がたくさんあったり。

そもそも、店の中がラーメン屋というより山の定食屋、って感じで、地元の常連客っぽい人達が集まって食事してたりする。

パッと見たところ、ラーメンを皆が食べてるわけでもない


「ここはね、味千ラーメンって書いてあるけど、サイドメニューが豊富なのよ。

餃子定食が私のお気に入り、どう?同じの食べる?」


「うん」


よくわからない店は、常連の言うことを聞いた方がいいのであるが。

「なんでこんな店知ってるの?」


「お父さんと薔薇の農家研修行く時、大分の方もたまに行くのよね。

その時に何度か食事したことあるの。

あ、おでんも取って食べようよ」


「勝手に取っていいの?」


「串を見せればお会計に追加してくれるから」


そんなシステムだったのか。

料理が来るまでに、私は大根と卵、はるなっちは謎の練り物を二種類。

ごぼうと、餃子?が巻かれた練り物食べてるけど、おいしいのかしら。


やってきた料理は蒸し餃子がついた小ラーメン定食という感じ。

餃子定食で、蒸し餃子とか普通出てくる?


驚いて見ていると、はるなっちが


「ほら、美味しそうでしょう」


と言って笑っている。

小チャーハン、小ラーメン、それに小鉢がいくつかと蒸し餃子。しかも緑の。


食べ始めると、全ての味がよく無言で二人ガツガツ食べてしまって。


「美味しかった」


「でしょう」


と言い合って、また今度はみんな連れてきたいねと話したり。


家に帰る頃には薄暗がりになっていて、今日ははるなっちは家でやることあるので真っ直ぐ帰っていった。


友人とツーリングして、美味しいもの食べて。

なんか、竜とかそういうのもなんとかなりそうな気がしてきたわ。


そう思ってスーパーフォアをガレージに入れ、ちょっと磨いていると


「あのー、僕はまだこの体でいた方がいいんでしょうか?」


と外から佐藤くんの声が聞こえてくる。


「あ、忘れてた」


「ひどいですよ、あのまま出ていくから僕締め出されてしまいましたし。

この肉の体のある状態だと自由に空も飛べないしで、この近所の精霊と交流を深めることで時間潰すしかできませんでしたよ」


「ごめんなさいね。じゃあ解除するから自由にして」


そう言って佐藤くんを人型に戻す。

すると、佐藤くんは「ちょっと精霊と話してたら気になったことがあったので、白龍のところに行ってきます」と言い、外輪山の方へと移動したみたい。


佐藤くんとの距離感は、なんとなく掴めてきた気はするけど。

竜とか叔母さんとか、これからもっと関わって距離感つか噛まないといけないわね。

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