第120話 しのぶちゃんの家

翌週の土曜日、突然四葉おばさんがハイラックスに乗ってやってきた。

外で庭草の伸び具合を見ながら、いつ草刈りをするべきか、とか考えながらデッキでぼんやりしてたときに、突然大きなピックアップトラックが入ってきたので驚いてしまった。

車から降りてきた時に険しい表情をしてたので最初はちょっと驚いたというか、怒られるのかと思ったし。


それから竜の話について詳しく聞かれ、冬美叔母さんの話をすると安心した表情になったのだが。


「大竜様との話はついたみたいね。でも、こっちでは大変なことになったから。

ちょっと説明にだけきてくれる?」


と言われてしまい、四葉おばさんの家に連れて行かれてしまった。

家はいわゆる田舎の大きな家というところで、大きな馬屋には家族分の車が停まっていて、トラクターや巨大な謎の機械がたくさん並んでいる。

家の前には池があり、カラフルな鯉とか泳いでいるし。


我が家の庭よりは狭いけど、家が5軒くらい立ちそうなくらいの広さの庭があり、我が家の4倍くらいの広さの家が建っている。


昔ながらの瓦屋根。大きな飾りがいくつもついたお城みたいな屋根をしてる。

シャチホコとかついてるし。


これまた大きな玄関に案内されて中に入るとすぐに床の間があって、障子についた擦りガラス窓からそこに何人もの大人の人が座っている人影見えた。


「連れてきました」


と言って四葉おばさんが先に上がっていき、私がその後ろをついて上がっていくと、

長テーブルが床の間に置かれ、その両側に老人と2人と男の人の3人座ってる。

床の間には仏壇があり、その上にはご先祖様の写真が飾られていて、仏壇の周りには何かよくわからないものがたくさん並んでいた。なんかの剥製とかどこかのお土産っぽいのとか色々。


「その子が二葉さんの娘さんか」


最初に口を開いたのはゴツい感じの男の人で、40歳後半くらいの木綿のシャツに身を包んだいかにも農家って感じの人物だ。

手は太く体つきもガッチリとしていて、声も太い。

ヒゲを伸ばしているのは薄くなってきた頭を補うためだろうか。


「とりあえず、そこに座ってもらうといい」


とは右側に座っていたご老人、見た目は細長い感じで頭の左右にうっすら白くなった毛髪が張り付いている感じ。

顔つきは割と精悍な様子なので若い頃はカッコよかっただろうと思う。

その隣に座っているのは恵比寿様のような恰幅のいい人物で、見た目はダルマさん。

ふさふさとした髭を蓄え、頭はスキンヘッドで体も顔もまん丸だから。


長テーブルの一番端っこに座ることにする。

同時に、襖が開いておばあさんがお茶を持ってきて皆の前に並べて行った。

様子を見ていると、このお婆さんはさっきのガッチリした男性のお母さんのようで、細長いおじいさんの奥さんらしい。

見た目がシャキッとしていて、おじいさんの奥さんには見えないくらい若々しい。

いや実際若いのかもしれないけどおじいさんが80歳くらいなら、お婆さんは60歳くらいに見える。


髪染めてるからかなぁ


とか余計なことを思いながら、置いてもらったお茶についてお礼を言うと


「急に呼び出して御免なさいね」


と言ってニコッと笑ってくれた。

可愛い人だ


みんな険しい顔してるので、勝手に私が癒される。


四葉おばさんもおばあさんについて行って、何か向こうで食事とか何かの用意とかし始めてる感じ。

私は、おじさんとおじいさんたちに囲まれて一人になってしまった。


「大竜様はお怒りになってないのだな?」


いきなりおじさんにそんなこと言われて


「ヒャ、は、はい!」


驚いて変な声出たわ。


「お慰みのために、君は何かしたのかね?」


今度は細いおじいさん。


「私は、何もしてません。父の実家の方で手順を踏んでいただけると言われました」


牛2頭をどうするのかよくわからないし。私はその先の話聞いてないし。


「全く、大ごと起こした割には部外者じゃな。そちらの竜の扱い方はかなり大雑把に見えるがだいじょうぶかの」


ダルマさんが髭を扱きながらそんなこと言う。


「君は何をしたのか分かってないかもしれないが、今回大竜様が贄を所望したのは、百年ぶりくらいの話なのだよ」


「それで、わしらも対応について経験者がおらぬで、白龍様直々にお伺いを立てることとなったが。白龍様は大竜様のことについてはあまり語ってくれぬ。

大竜様の機嫌次第では我々の白龍様にも多大な影響が出るゆえ、早く結果が知りたかったのじゃ。

それで、急に呼び出した次第じゃ」


そう言われても、私はあまり良く知らなかったりするし。


「しかし、春間家はだいじょうぶなのか、このような若い娘にあとを継がせようとしているが」


「あそこは代わりがおるで、何かあったら別のものを当てようと考えておるのではないか?」


「それはあり得るの。今は様子見で適しておるのかどうか確認してるのかの」


勝手に3人で話が盛り上がっている。

その後、いくつか阿蘇の竜神についてと、私の契約してる佐藤くんについての話も聞かれたので、知ってる限り答えていくと。


「なんじゃ、しのぶよりも竜についての知識も何もないではないか」


「これでは契約者に操られてしまうぞ」


「しかし、我々にはどうしようもないだろう」


どうやら、この3人はしのぶちゃんのお父さんとおじいさん。ガッチリしてるのがお父さんで細い人がおじいちゃん。

ダルマのおじいちゃんは近所にいる別の竜を祀る家の人で、おじいちゃんの妹が嫁いだ先の家とか。


なんか、一族会議のとこに連れてこられたってことなのね。


その3人で、竜についての知識がどうとか。

古来より龍神様がどうとか。

白龍様と大竜様の関係がどうとか。

何か、みんな難しい顔して話してるから私が悪いことしたのかって気分になるし。

緊張して、お茶一杯では喉がカラカラになっちゃう。


そのタイミングで、四葉おばさんとしのぶちゃんが入ってきた。

しのぶちゃんは私を見て「ごめんなさい、話が大きくなっちゃって」と言って横に来てくれる。

ああ、しのぶちゃんと出会えて、ちょっと心が軽くなったわ。


四葉おばさんが


「今度の一件、私たちが話してても何も解決しないでしょう。

結果がわかったんだから、もう桜ちゃん家に返してあげていいんじゃないの?」


「いや、その件でちょうどお前に話をしようと思っていたのだが。

その子を白龍様と合わせてみてはどうだ?」


「春間家のものを白龍様に合わせるだと?」


「そのようなことは、この500年、家の記録にはないぞ」


しのぶちゃんのおじいさんと、ダルマおじいさんがそんな事を言う。


「いや、この子には大津家の血も入っている。であれ白龍様もあってくれるだろう」


「しかし、それを行うことで利益があるのか」


とダルマおじいさん。


「利益ならあるでしょう。春間家のやり方を知ることができる。それは今後我々が長く龍神様と生活する上で、重要なことではないですか?

今まではそのような関わりをうむきっかけが無かったので」


しのぶちゃんのお父さんがダルマおじいさんにそんなことを言う。

そういえば、お母さんがお父さんと結婚したことで大事になったと言う話は聞いたけれど。それはこんな「今まで無かった出来事が起こったから」だったのよね。話で聞いてただけだと大事の実感はなかったけど、こうやって直に話を聞いているとおじいさんたちの緊張感が伝わってきて、私が生まれたことが結構大変なことだったのではないか、と思ってきてしまう。


そして、また今度は四葉おばさんも交えて4人で会議が始まり、時々

「奈々はるおばさんに電話入れてみれや」

とかここにいない人まで巻き込んで一族の話が進んでいる。


私はしのぶちゃんと取り残されたようにテーブルの端っこに座っていて。


「すぐ何かあると、一族が、とか家が、とかなるんで面倒なんですよ。

田舎の本家って、絶対嫁に行っちゃダメなとこです」


「でも、この家しのぶちゃんが継ぐんじゃないの?」


「そうなんですよねぇ、お婿さんで気の利いた人が来てくれるといいんですけど」


もうこの年で結婚について考えているとは。

本家恐るべし。


そして、なんか話し合いの結果が出たようで。


「今度、四葉が山に入るときに同行してもらうことになった」


としのぶちゃんのお父さんに言われてしまった。

いや、私の都合はどうなの?


と思ったけれど、佐藤くんの声が頭の中に響いてきて


「これはいい機会です、ぜひ一緒に行きましょう」


と言われてしまった。

これは、冬美叔母さんに伝えておいた方がいいのかなぁ。








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