第121話 地震と竜と

その日の夜、割と大きな地震が起こった。

家の中にあるものが倒れるほどではなかったけれど、阿蘇山一体で震度4とか5とかの揺れがあったからみんなびっくりしてる。

普段は火山性微動とかそんな地震程度しか経験してないから、揺れた時はとりあえず何もないガレージの方に逃げてしまったし。


はるなっちとしのぶちゃんからはすぐに無事の確認メールが。

遅れてニュースを見たらしい江川さんとかヒナっちと高藤先輩からもメールが来てた。

どうやら、揺れたのは阿蘇市の一部と南阿蘇村だけのようで火山性の地震だろうという話。


今日は四葉叔母さんが山に入って白龍さんと話をする日だったはず。


しのぶちゃんとこで「一緒に山に入るといい」と言われたのだけれど。以前確執がああったとか、嫌がらせがあったとか話を聞いてたこともあったので、一応冬美叔母さんにその話をすると


「行ってはいけません」


と言われてしまった。なんとなくそう言われる気はしてたのだけれど。

理由は竜とかそういうものではなく、人間の面子というか、家の関係性においてという面倒臭い話をされてしまった。


要は、春間家は地方の竜使いからの要請を受けることはしておらず、むしろ春間家から地方への要請を行う立場である。

なので、地方の竜使いからの指示で春間家の人間が動いてしまうと、今後の活動に支障が出るとかそんな話。


大人って面倒臭いのね。

しかし、私は春間家の方の人ってことになってしまったのかしら。


佐藤くんもその話を聞いてガッカリしていて。

「人間の世界は効率とかそういうものを無視して事を進めるので、僕達からみると不思議でしょうがないですよ」

と言ってた。


なので、一緒に山に入る話は丁重にお断りして、今日は家で控えていたところで地震が来た。

放課後にはるなっち、ヒナっちがやってきて勉強して帰って行った後。夕食を食べた後くらい。


まだ余震がたまに来るので一人だと心細いわ。


こんな時の佐藤くん


「とりあえず居てくれると安心するから」


と呼び出しておく。


「僕はそういう仕事のためにいるのではないですが」


そして、佐藤くんを呼び出したことで、精霊の動きが見えるようになってしまい。

地震のせいかわからないけど、精霊たちがいつもと違う動きをしているのに気づいた。

阿蘇の山を中心に、それを取り囲むように集まっているように見える。

中央火口丘の方を見ると、阿蘇の大竜が何か身をゆっくりとくねらせているのが見えている。


いつもは寝ているだけなのに、今日は活発に動いてる。

もしかして、地震の原因はこれ?


「ええ、大竜が動くと地震が起こるのです」


と佐藤くんが教えてくれる。

なんて迷惑な。


「春間家の仕事は、そういう竜が思いがけない動きをしないように監視すること。あるいは贄を欲しがっている場合は、被害の及ばない形で、あるいは定期的に贄を与えることで予想外の動きをしないようにすることなどを行なっています。

急に竜が「贄が欲しい」と人里を徘徊したりしたら、大きな天変地異が起こります」


あの時、ラピュタの道で大竜がちょっと動いただけで、下が大雨になっていたのを見ると確かにそうかもしれない。

地震が起こるわ雨が降るわ、それこそ龍神様がお怒りになっているって感じになるのね。


「今回の地震は、春間家が行なっているので国の関係各所には伝わっていたでしょうから特に問題はないでしょう」


「でも、一般庶民は知らないよ」


「竜に餌やってます、とか言っても誰も信じないでしょう」


確かに。


佐藤くん曰く、今回は冬美叔母さんが言ってた「贄」を与える儀式を行なっているという話で、それによって喜んで大竜が動いているので計画的な地震という話になるらしい。


そういえば、大地震が起こると人工地震説とか出てくるんだけど。

こういう竜の話とか聞くと、人間が計画的に引き起こしてる可能性もないわけではないのね。

龍を悪用したら国の大都市を災害で壊滅させることもできるわけだ。

そりゃ、なんか重要な仕事って言われるわけよね。


「都市部で直下型とか起こったら大変です。それを防ぐために、地方の方で地震が起こるようにしてる場合もあるので、地方の大津家などの龍を扱う家から中央は好かれてないとこもあるんですよ」


龍使いの確執、というのは竜の都合ではなく人間の都合だったのね。

それにしても、喜ばせてるのに地震が起きるとかすごい迷惑だわ。


それで、いつも反対側の外輪山にいる白龍を見ると、なぜか姿が見えない。

よく見ると空中を飛んでいるのだ。


佐藤くんに教えられるまま周囲を見渡すと、外輪山の全ての山々に竜が立ち上り、中央火口丘の大竜へ何かアピールしているように見える。


巨大な竜の周りを小さい竜が踊りながら飛んでいるようなかんじ。

こういうの、何かで見たことあるなぁ。


メスにアピールするために多くの雄が集まってくる。


これって、交尾とか?


「竜は繁殖はしませんが、複製を作ることがあります。

その際に必要なのが雄龍と雌龍です。今回は珍しく雌の大龍が動いたので雄がこのさいとアピールしているのでしょう」


「ラピュタの道の緑の竜はすごいビビってたじゃない」


「いきなり来られたら驚くでしょう。それも、ちょっと対応間違うと食われそうな大きさだったら」


確かに。雄竜から見ると、雌龍ってうどんとロケットくらい大きさが違うものね。


ということは、今は雄竜たちは雌龍の記憶に残るようにと、飯食って気分が良くなっている今こそ好機、と言わんばかりにアピールしているということね。

女性に食事を奢ってナンパするのと基本的な思考はオスは人間も竜も変わらないのね。


「竜たちも色々あるのね」


「知っていくと、もっと面白いと思います」


そんなものなのかね。

それもあるけど


「竜のこともだけど、佐藤くんについては全く知らないんだけど」


「僕のこと話してませんでした?」


すらっととぼけている。割とこういうキャラが最後のボスキャラになったりするのよね。


とラノベ的思考で考えていると、携帯が鳴った。


しのぶちゃんからで、さっき電話したばかりなのに。

と思いながらスマホを取ると、


向こうからは啜り泣くような声が聞こえてきて、只事ではないと思い耳に当てるのではなく声をスピーカーに切り替えて音がよく聞こえるようにすると、


「お母さんが、お母さんが山で遭難したの!」


と半泣きの状態でしのぶちゃんが話してくる。

白龍様に話を聞きにいく儀式には数人の家の関係者が一緒に行くのだけれど、一人だけ岩場に造られた祠に入らないといけないらしい。


そこで、四葉叔母さんが儀式で同行した人達と別れて岩場に入ったところで地震が起き道が塞がれてしまったとか。

儀式にはスマホも何にも持っていってないので連絡がつかなくなり。

応援を呼ぶために同行した人から連絡が来たということ。


「それで、さくら姉さんだったら竜から話を聞いたり、契約者から話を聞くことで何か、わかるんじゃないかって思って」


声から必死な様子が伝わってくる。

佐藤くんを見ると、


「近くに行けばわかります」


と答えてくれる。


「わかった、すぐ叔母さんのところに行くから、場所教えて」


と私が言うと、すぐに地図が送られてきた。

場所は、清水峠の裏からちょっと入った道って感じかしら。


「わかった、佐藤くんとこれから向かうからちょっと待ってて」


と言いながら、ライダージャケットにライディングパンツ、それにブーツを用意していく。

夜間走行になるけど、大丈夫かしら。


「そんな時に、僕を頼ってください」


佐藤くんがそう言って胸を張る。

そういえば、バイクのタイヤを地面に貼り付ける、こけないようにする能力持ってたわね。




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