第119話 竜へのお礼?

佐藤くんとしのぶちゃんは二人でどんよりとした表情になっている。

詳細をしのぶちゃんに話したところ、さっきまでの明るい表情が一気に暗くなってしまい。


「私、自分との竜ですら結構な代償取られるのに。阿蘇そのものの竜だとどんな贄が必要になるのか想像がつきません」


などと言われてしまう。

親に相談しても話が大事になりそうだし。

とか色々ぶつぶつ言っているけれど。


まぁ、ここで話してても仕方ないので私は佐藤くんを人型に戻してしまい。


もう見えないから関係ないわ!

と気分を切り替え


「とりあえず、この話は私の父の家方に持っていくから心配しないで」


と言って安心させることにした。

あのできる人っぽい冬美叔母さんに相談すれば問題は解決するでしょう。


その日は北山レストハウスに行きはるなっちたちと合流。


「とりあえず「倍喰丼」食べましょう」


となって、みんなで食事しながら別れた後の話をしていく。

はるなっちたちは一度役場に連絡を入れて、その人たちを誘導してから二重峠に向かったと言う話。

私たちは竜と話したとかそんなことは一切語らず、上の方でバイクで入ってこようとした人とかを止めてた話をする。

あのあと、私たちが道路を登っていくとバイクが数台下りてきたので、頭の上でバツを出し、戻っていくようにゼスチャーで伝え。

止まってくれた先頭の人に「この先崩落してて進めませんよ」と言って先の広いとこでUターンを促す。


あとはミルクロードからの入り口で写真撮ってた人達にも「この先崩落してますよ」と伝えて、なんかそんなことしてて時間を食った話をする。

どっちも道路誘導で疲れた疲れた、とそんなこと言いながらガツガツ倍喰丼を食っていく。

赤牛丼なのだけれど、なかなか量もあって味も美味しいわ。


疲れたから、早めに帰りましょうか。

となって、その日は北山レストハウスで解散。


その夜に弁護士の小泉さんに電話して、竜の話で冬美叔母さんに相談があるのですが。

と言うと1時間後なら時間があるので、その時に繋ぎましょうと言われる。


待ち時間の間にしのぶちゃんにメール出して、四葉おばさんにちょっと聞いてもらうようにしたら。


そのあと電話がかかってきて。


「なんか家が大変なことになってる。今から白龍さんのとこに行くって言ってます」


と言われ


「さくら姉さんのこと侮ってたって言って焦ってました」


「侮るってどういう意味なのかな?」


「大それたことはしないと思ってたみたいです。私たちからすると、阿蘇の大竜様に人間がお願いするとか恐れ多くて考えたことすらないんですよ。

それに対しての見返りがどんなものが良いのか、大竜様の性格や好みがわからないので触れてはいけないものとして扱ってきてました。

だから、さくら姉さんもそんな大竜様に軽くお願いとかするなんて思ってなかったんですよ」


そういう話は先にしておいてほしかったわ。

私はつい数ヶ月前に、この道に入ったばかりなので全くよくわかってないのだから。


「こちらは白龍様経由で話を聞くみたいなので、なんかわかったらお知らせしますね」


「ごめんね、なんか迷惑かけちゃって」


「いいえ、こういう予想外のこと起こるとなんかワクワクして楽しいですよ」


と言ってくれるのはありがたい。

が、何か母の実家にまで迷惑をかけてしまってるみたいで申し訳ない。


佐藤くんを呼び出して話を詳しく聞くと、

種子島の時も錦江湾の時も、佐藤くんがいっとき自由行動してた時に色々各方面へと便宜を図り、下準備をしてからのあの流れだったと聞かされてしまった。


「契約だけなら、僕が常々阿蘇の竜とは話をしてたので問題なかったんですよ。ただ、そこにお願いを入れてしまったのが失敗でした。

もう少し話をしておくべきでしたね」


と言われ、龍についての勉強が改めて行われる。


火山とか、特に活動の活発なでかい山にはたいてい「大龍」と言うのが住んでいて、それは山一つを取り囲むくらいの大きさがある超巨大な竜の姿で出てくるという。

阿蘇は阿蘇山に大竜、そして周りの外輪山に複数の峰にそれぞれ龍が住んでいるというところ。


九重連山とか雲仙・普賢岳などにも大竜が住んでるらしい。


「錦江湾の竜は桜島の竜よりデカかったじゃない」


「あれは、錦江湾が本体で桜島が阿蘇山の外輪山的な扱いになっているんです。

だから、桜島の方が小さい雄竜で錦江湾が大きな雌竜なんです」


「大竜って雌なの?」


「竜は基本そうですよ」


「え、じゃあ種子島の竜は?」


「あれは鬼界カルデラを維持している屋久島に大きな竜が巻き付いてたでしょう。

あれが雌の大竜で種子島のはさっき見た緑の竜と同じ程度のものです」


屋久島の白い竜って、そんなにすごいのだったんだ。

大昔から九州の人口が全滅する規模の噴火をしてるところには、メスの大竜が基本的には存在していて。

それを取り囲むところに、ひと回り小さな雄竜が複数存在していると言う話。


「そう考えると、九州ってめちゃくちゃ竜がいるとこなのね」


「北海道も多いですよ」


「あそこは土地が広いから。密度で言うと九州最強じゃないの」


「だから、あなたのお母さんにお父さんのような人が九州に住むわけです」


それはわかったとして


「阿蘇の大龍から贄を請求された人の話って聞いたことない?」


「昔はありましたけど、火口に牛とか人を投げ込んだりする話はありますよ」


「もっとこう、餅とかお菓子とかそんなのはないの?」


「たとえば、アリに金平糖をあげると喜んでくれるでしょうけど、さくらさんにたとえば皿洗いしてくれた俺にと金平糖一粒で「お礼です」とか言われたら、どう思います?」


「ちょっと常識について話し合いたくなるわね。むしろ何もない方がいいかもしれない」


「それと同じですよ。もしかしたら中途半端な見返りはない方がいいかもしれないし。金平糖でもないよりマシかもしれないし。せめて飴玉程度のお礼はしたほうがいいのかもしれないし。

そこが、はっきりわからないから困るのです」


「佐藤くんこういう時にいるんでしょ?」


「あの、お礼は飴玉でいいでしょうか?とか聞かれた方がイラッとしませんか?」


「確かに」


「こちらから気を利かせて、人間としての出来うる誠意を見せることが大事なのです」


「そう考えると、佐藤くんって意外と役に立たないのね」


「精霊は手順を踏んでもらわないと力を発揮できないんです」


「どこかの公務員みたいなこと言うのね」


そんな話をしていると時間になったので小泉さんから冬美叔母さんに引き継いでもらう。内容について簡単に話すと、向こうでいきなり笑われてしまい


「いや、ごめんなさいね。

面白い子だとは思ってたけど、いきなりそんなことするとか思わなかった」


いや、私何にも教えてもらってないし。と思ったけど


「阿蘇の大竜ね。彼女はそれくらいの頼みだったら牛2、3頭くらいで満足するから大丈夫よ」


それで大丈夫って言う話なの?


「今は火口に放り込むわけにはいかないから、適切にこちらで儀式行ってあげておくから気にしないで。ただ、その分の経費はあなたに行く予定の遺産から引いておくけどいいかしら?」


私にはハイとしか言いようはない。


「今度から、竜や見えない存在にお願いするときは注意して。

なるべくお願いはしないように、お願いではなく指示、あるいは対等の関係としてのやりとりなら良いです」


と言われたので、先の緑の竜の時のような時はどう対処したらいいのかを聞いてみると


「大竜と契約する姿を目の前で見せつけるだけで十分だったのよ。

もし緑の竜の邪魔を排除するためであれば、

大竜と契約している自分の言葉に従わないなら大竜の面子が壊れるが良いか

という言い方で大竜と自分の言葉が同等であると印象つけるといいわ」


それは虎の威を借る狐のようなものでは。


「竜に直接話をするよりはいい方法なのよ」


竜そのものにお願いをするのではなく、竜の権威を借りて脅すやり方が基本なのだとか。


そして、また会って食事でもしましょう、と言われて電話が終わる。


よかった、怒られるわけではなくて。

しかし、大竜との関わりは今後注意していかないと。


こっちの方の話は割とすんなり終わったけど、しのぶちゃんの家の方はどうなんだろう?








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る