第66話 進展

九州の雪解けは早い。

あれだけ積もっていた雪も、1日で道路は溶けてしまい普通に車もバイクも走れるくらいになって、雪は土のあるところ、水田や庭先に残っている程度。

雪が降って休校になったのは1日だけだった。1月の中旬とかだったら、そのまま凍りついて2日くらいは道路が危なくなってた可能性はあるとか言われたけれど、2月になるとそこまで気温は下がらない。

1月は数年に一度マイナス10度以下になることがあって、その時はダイヤモンドダストが見えると聞いたこともある。

けれど、今年は運よくそこまで冷えることはなく、凍結による交通障害は起こらず済んでいるからよかった。


2月になると3年生はほとんど学校に来なくなる。大学受験の二次試験に向けた学習を行う人たちがきてたりするくらい。


高藤先輩は推薦入学してるので余裕で自動車学校などに行ってるらしい。


らしいというのは、今日我が家に夕方来てくれると連絡があったから。

阿蘇自動車学校からそのまま来るという話だったので学校終わりに家で待つことにした。母の実家についての話らしい


はるなっちも一緒に家に来て、話を聞くと言うので一緒に家で待つことにしたけれど、


「まだスーパーカブに乗ってるの?」


「冬はこれの方がいいもの。足元も上も風が来ないから寒くないし。

ネイキッドで通学してるあんたなんかめちゃくちゃ寒いでしょ」


「もう慣れた」


「私は、まだ冬の間はスーパーカブよ」


はるなっちは、まだしばらくスーパーカブが通学の相棒らしい。

CB400SSの方は、まだ練習中とか言ってるけど、スーパーカブ用ではない、なんか謎の部品が我が家に届いてきてるからいずれまたカスタムとかするんだろうな。


しばらく、はるなっちと400SSについての話で盛り上がっていると、外からドッドッドとSRのエンジン音が聞こえてきた。


ガレージを開けて高藤先輩を招き入れる。


すると、高藤先輩はSRを薪ストーブの近くに止めて、また写真を撮り始める。

我が家に来るとまず写真撮ってるのよね。

それだけ絵になる風景があるってことなのかしら、いつも見てると慣れてしまうけれど。


一通り、高藤先輩の写真撮影が終わってから、3人でダイニングに集まる。


「従姉妹にはあった?」


「遠くから見ただけです」


従姉妹についての話は、はるなっちはすでに知っていて。

以前も「ほら、あの子よ」とわざわざ連れていってくれたことがある。割と活発そうな雰囲気で、身長も私と同じくらいあるのかしら。


陸上部に所属してて、走るのが早いらしい。

成績は中位で、大学は運動部推薦を狙ってるくらい短距離走、中距離というのかしら400とかが得意なのだとか。長距離もいけるらしく高校の駅伝大会では1年なのに選手に選ばれたとか、なかなか逸材であるらしい。


そんな情報はどこから来たかというと、はるなっちの従姉妹も1年生でこの学校に来てるらしく、そこ経由で知ることができてたりするらしい。

はるなっちの従姉妹と同じクラスなのだそうだ。


「その展開面白いわね」


「田舎だと良くある話なのだけれど、桜は元々こっちの人じゃないのに従姉妹と同じ学校になるとか、珍しいわよね」


「従姉妹って知ったのがつい先日だから、お母さんについて高藤先輩が調べていかないなら永遠に知らなかったかも」


世の中そんなものであろう。


高藤先輩がその従姉妹の両親について色々と話してくれた。

赤牛の肥育を主に行う家らしく、広大な土地に牛舎をいくつも作り、大々的に牧場経営をしているという。


「あの辺の農道の脇に畜舎がいくつもあるでしょ?あれ全部そうだって」


「あの牧場は地元でも有名よ。オーナーはアメリカで牧場主になるつもりで渡米して修行してたとかで。そのノウハウをそのまま日本で生かしてるって話」


アメリカ帰り、とか聞くだけでなんか凄そうな気がしてきた。

そこに嫁いだのが、母の妹さんらしい。


それで大津家の事業に乗って赤牛の販売が広がり、その牧場は多くの地元の人たちを雇って雇用を生むくらいの貢献をしているのだとか。


「それだと、大津さんのお母さんは成功したロックスターと結婚してるわけだから、一族にとってなんら不名誉ではないと思うんだけどね」


「ロックは不良とか思われてるんじゃないですか?」


「昭和世代はそうかもしれないけれど。

そこで、何かその辺の話ないかと探ってみたらこの大津さんのお母さんの妹さんと会うことができてね」


と言って、高藤先輩は話し始めた

いや、なんでこの人行動力があるのか。


そもそも、出会うキッカケになったのはあのデザイン会社の社長さんらしく、高藤先輩は大学に入ったらそこでアルバイトをさせてもらうことを約束し、ちょくちょく出入りしているという話。


そこで、熊本 大津家の家系についてちょいちょい調べていたら、

お母さんは4人姉妹の3女

長女、次女は熊本市内で婿をとって家業を手伝い、妹さんが阿蘇に嫁に行き、その子が従姉妹として今の高校に通っている。


長女と次女との関係は、会社の時でも全く話題に上らないほどだったので、社長さんは姉が存在してないのだと思っていたくらいで、大津家は長男次男、長女次女の4人兄弟姉妹だと思ってたとか。

妹についてはたまに話に出てくるので存在を知っていたという。

雰囲気的に妹との関係は悪くないと思ってたらしく、それで連絡をとってくれることになり。それから高藤先輩が阿蘇であって話をして、今日に至るということだった。


「なんで、高藤先輩そんなに探ってくれるのですか?」


「面白いじゃない。ドラマとか漫画にありそうな話だし。

いずれまとめて、大津さんの許可が出たら出版とかしてあのロックスターの真実とか本が出せたらいいかなって思ってるのは秘密だけど」


と言って笑って


「半分冗談だけど、物語としてもしりたくなるのよ。  

私の好奇心を満たしてくれるし、大津さんの役にも立つし、みんないい関係になれるから気にしないで」


半分は本気なのか。

でも、これくらいしてくれたなら出版も面白いかもしれないかな。


でも、オチが何もついてないけれど。


「大津さんのお母さんの妹さん、今度会ってくれるって言ってるけど、会う?」


またいきなり話もってきたなぁ

父の時もそうだったけど、打ち合わせなしでいきなりだから不意打ちも過ぎると思う。


「そこまでしていただいて、会わないって言えないですよね」


「別に会わない選択もありよ。向こうの笹原さんも直接会うのはちょっと気まずい感じみたいだったから」


「なぜです?」


はるなっちがそこで入ってくる。

目が無駄にキラキラしているぞ。


「葬儀の時にきちんと話ができなくて、それでちょっと会うのは気が引けてたという話。色々あるのよ。

でも、大津さんが会うと言うと会ってくれるみたいだから」


これは、私が会うと言わないといけない方向ではないか。

従姉妹、叔母さん、ちょっと興味あるし母の話も聞いてみたい。


迷うことはないのだけれど、なぜ私と会うのに気が引けてたのかも気になる。


「その辺は、あってから聞くことができるわよ」


そうなると、会わないわけにはいかないのではないか。


高藤先輩がいずれ出版する本のためにも、ここは会って話をすべきであろう。

会わない理由はないのだから。






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