第60話 組み合わせ

「え、私もう大学決まってるよ」


意外そうな顔で高橋先輩が言ってくる。

放課後、バイク部の集まりで顔を合わせた時に、いろいろ調べてもらっていることにお礼を言い、受験生なのにすみません、と言ったところこんな返事をもらってしまった。

私の母のことで、いろいろと動いてもらっていることが学業に影響出てないかと心配していたのだが。


「推薦入試で崇城大学の芸術、デザインの方にすでに合格したの。

だからいろいろ大津さんのこと手伝えているんじゃない、私だって受験忙しかったらそんなことしないよ」


まあそう言われればそうなのだが。

割と、高藤先輩も自分のイベントについてはあまり人に語らないとこありそうな気がする。とりあえず合格おめでとうございますと祝いの言葉を送ると


「ありがとう。でも推薦入試とはちょっと面接してちょっとちょっと絵描いたり問題といたりしたら受かるから。評定平均だけ4.3とか4.5とかうまいこととってたら問題ないのよ」


その評定平均を取るのが難しいと思うのだけれど。


「もともと県内の私立を推薦で受けるつもりだったから、評定平均取るためだけの勉強してたのよ。定期試験の結果が中心で実力関係ないじゃない、だから数学とか苦手なのは教科書丸暗記してたらなんとかなるし。試験の時だけ覚えてたらいいんだから、終わったら全部デリートよ。記憶から消して、また次回の試験内容を暗記する、それで5は取れるくらい点数取れるから」


それができるだけでも大したものであろう。


そして、先輩は自分のこの先の就職とか仕事とか考えると、いろんなところにコネ持っとくと良いと考えてるらしく。

私の母の事を調べていくと自ずとそれらに繋がれるので楽しいらしい。調べることが楽しいという、知り合いに一人いると大変ありがたい人物である。


受験を楽にするために、入学時から高校卒業後の進路、評定平均の事を考えてる人である。

わたしもとりあえず、成績良くしてれば選択肢が増えるかなぁって勉強してた程度だったけど。

評価にための試験勉強とか考えたことなかった。全般的に理解しないといけないと思い込んでたし。

先輩と話してるといつも新しい視点に触れられる。

試験で点数取るのも効率なのね。


で、そのまま高藤先輩は我が家までやってくるのだった。


「夜になったら寒くて家に帰れなくなりますよ」


「大丈夫よ、今日は泊まるつもりだから」


「いいんですか、そんな自由なことして」


「親は大津さんとこだったら安心と思ってるみたいだから」


と言いながら、もう家に連絡を入れてる感じ。


我が家には、いつの間にか高藤先輩用のシュラフとマットレス、はるなっちとヒナっちの布団と枕が置いてあるのだ。

はるなっち、ヒナっちは私のベットで一緒に寝てるので、布団の取り合いにならないように自分用の掛け布団を持ってきているのだが。

高藤先輩は流石に後輩と一緒に寝るというのはしないらしく「寝相が悪いから人と一緒には寝られないしベッドも危ないから」と笑いながら言ってたことがあった。


「でも憧れるわよね、女子会でみんなで同じベッドで寝るなんて」


と言われるが、冬は一緒に寝てると暖かいので助かるというのはある。大体一人で寝るにはベッドが広いのだから、ツイン、ダブル?そんなサイズなもので。


今日はヒナっちも後で来るようなことメッセージで伝えてきてたので、そのまま泊まるつもりなのかどうなのか。


はるなっちは家の用事とかで今日は来ないらしい。

まぁ週に3日くらい泊まっているし、ほぼ毎日放課後来てるから珍しい。


「田舎特有のイベントなのよ」


と言って詳しくは教えてくれなかったが親戚同士の集まりでいろいろとあるようだ。

私にはそういうイベントが一切ないので少し羨ましいところもある。


家に着くと、早速薪ストーブに火を入れる。


冷え切った家を温めないといけないからだ。エアコンとかタイマーでセットしててもいいけど、ストーブで一気に温めたほうが早いし。


とりあえず高藤先輩にははるなっちが持ってきた電気ストーブで温まってもらいつつ、いつもの手順でストーブに火を入れていく。


まずは紙クズ。本来はダンボールとか燃やしたらダメ、と言われるのだが、私は火をつけるときにはガンガン燃やしてる。

ついでに紙屑とか燃えそうなものはなんでも入れておくことにしてる。

鼻噛んだティッシュなんかも放り込んでるけれど、なかなか火付けには最適。


まず紙に火をつけ、庭先を手入れするときに切っておいた枝などをくべて、日の勢いを安定させる。


私はマッチを使う。

なぜかというと、火を育ててる感じがして楽しいから。


着火ライターみたいなのは1発で着くけど、なんかこう、趣がない。

マッチの火から、家全体を温めるほどの大きな炎へと育っていく感じが堪らないのだ。



細く割った薪をつづいて投入。

これは購入した薪を、外出細かく割ったもの。

手斧とか家にあるけど、怖くて使えない。でも、薪を細かくしてくれる道具があって、ケーキを8等分する枠みたいなものの丈夫な金属版みたいなのがガレージにあり、それを江川さんが見つけて使い方を教えてくれた。

薪の上にそれを乗せ、ハンマーで叩く。

すると、刃が食い込んで数本の細切れになった焚き付けが出来上がるのだ。


ただ、木の目をきちんと読んで行わないと割れてくれない。何度か食い込んで動かなくなって、はるなっちと二人でハンマーで殴って外したこともあったから。


一人でやるときは、木目がまっすぐで節のない薪を使うことにしてる。


クヌギと、雑木が混じったものを買ってるので、雑木を焚き付けようにしてる。

軽い樹木の方が火付がいいのも経験上学んでいるのだ。


そうやって、細い木に火が移るのを眺めて、空気の流れを調整する。

横に空気取り入れ口の大きさを調整するレバーがあるので、それを動かす。

だが、そのレバーは陶器でできた差し込む形のものなのでこれが厄介。


何度も落として割ってしまってるのだ。


今使ってるのは、落とすたびに陶器用接着剤で修正されてるもの。

だんだん欠けてなくなるとこが出てきてるので、ちょっと形が悪くなってきてるけど。セロテープでぐるぐる巻にしようと思ったら「溶けたら手に着くよ」と江川さんに言われてしまい、接着剤でガチガチに固める方を採用した。

もうどうしようも無くなったら、木で新しく作るしかないわね。


そんなハンドルを使い、空気調整を慎重に行う。

適当にしてしまうと、せっかく育てた火が消えてしまったりする。


しっかり燃え移ったところで太い薪を入れていく。

この瞬間が緊張する。


火が育ってない状態で入れると、非情なことに火が消えてしまい、また一からやり直しなのだ。


薪を入れ、火が燃えている状態を確認し、空気取り入れ口を開いて一気に燃焼させる。

ゴーゴーと空気の流れる音がして煙突が微かに震える。

そのまま炎が強く燃え広がり、ストーブからほんのりと暖かい熱が伝わり始めてくる。


そのまましばらく置いておくが、そのときに上に乗せてるポットに水を入れたり、次に入れていく薪を用意したりしていくわけだが。


「何撮影しているんです?」


今日はそのストーブをつける途中途中を高藤先輩に撮影されていた。


「いや、一度しっかり記録しておこうかなと思って」


「撮影されるなら、もっと綺麗にしておいたのに」


「その、毎日使ってますって感じがいいんじゃない」


などと言われてしまった。まぁ私の場合はこれがないと凍え死んでしまうので使わないといけないわけなのだけれど。

普通は女子高生が一人で薪ストーブつけてるとことか、まぁあんましないわよね。


そんな感じで、ストーブもついて、家の中があったかくなってきたときに、ヒナっちのバイクの音が聞こえてきた。





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