第61話 いつものメンツーはるなっち=?
これは、あまり見ない組み合わせね。
リビングの薪ストーブ前には、高藤先輩とヒナっちがいる。
大抵、ヒナっちははるなっちが居る時にセットでいるような感じなので、単独でいるのを見たのは初めて。
しかも、いつもはハーマンミラーのお高い椅子を占拠してるけど、今日は高藤先輩と一緒にリビングのテーブルに座ってたりする。
なんとなく気を使ってるのかしら?
なので、ちょっといつもと感じが違うぞ。
とはいえ、共通のネタはたくさんあるわけで高藤先輩はヒナっちと普通に会話してて、ヒナっちの家にはイギリスもののバイクはないのかとか、そんな話題で盛り上がっている。
トライアンフに将来乗りたいのだとか言っているが、それがバイクのメーカ名というのがわかるまでしばらく話聞いてないといけなかったくらい、私はあまり聞いたことのないメーカー。大体の海外メーカーは知らないんだけどね。
クラシックっぽいものが割と多いらしく、高藤先輩は形が好みなのだという。
「SRをカフェレーサーにカスタムしたら見た目はちかくなりますよ」
とヒナっちが言うと
「SRはフレームが元々オフロードバイクの形してるから、カフェレーサーにすると変なのよ。カスタムしてる人には悪いけど、デザインが崩れるから私はあまり好きではないの。ノーマルが一番」
なんて話し声が聞こえてくる。カフェレーサーって、確かクラシックな見た目にする改造だったかしら。
スーパーフォアではあんまり聞かないけど、SRはそんなカスタムする土台としても人気らしいと聞いたことはある。
「カフェレーサーが欲しいなら、海外のメーカーのを手に入れればいいから、私もカスタムはあまり好きじゃないです。日本車をカスタムするのはトライアンフとかノートンとかが欲しいけと手に入れられない人が真似てるだけかな、とか思ったりしてしまうし」
海外メーカーのバイクをに見慣れていると、カスタムしたものは「それを真似ている」ものにしか見えてこないとかなんとか。目が超えるとまた違う問題も生じるのかしらね。
私はそれを聴きながら、3人で食べるためのカレーとライスをレンチンしてるのだった。
結局、二人とも泊まることに。
まぁそうなるとは思ったけれど。
我が家には世界の王も勧めていたボンカレーと切り餅で有名なとこのパックご飯が常備されているので、急に人が増えた時はカレーなのだ。
それに冷蔵庫にある野菜でサラダでもちょっと作ればOK
サラダを切っていると、ほのかにコーヒーの匂いが漂ってきた。
さっき、食後のコーヒーのためにコーヒーミルと豆を二人に渡しておいたのだった。
話しながらでも、仕事はしてくれているらしい。
コーヒーミルも父が残してくれてたもので、使い方がわからなかったけど江川さんが使い方を教えてくれたので、たまにこうやってみんなで準備して淹れてみたりして。
手回し式だと回し方によって味わいが変わるから面白いんだけど、ヒナっちは果たして美味しく挽けてるのかしら。
その後は
3人でカレーを食べて。
ストーブでわかしたお湯でコーヒーを淹れて。
デザートに買っておいたハーゲンダッツを食べて。
そして、東京での話をまた思い出しながらちょっとしてみたり。
父の方の親戚関係はよくわからないけれど、バンドのメンバーは全国に居るらしいので、そこを訪れてみると父の話が聞けるということとか。
時間ができたら、ちょっと移動してみたいと思ってるとか話していると
「そこまでして、お父さんのこと知りたい?」
高藤先輩に言われて、ふと我に返る。
改めて考えると、何か勢いで進んでる気がしないでもないけど
「父は私にとっては影の薄い存在で、今までいてもいなくてもいいものだったけど。
話を聞いたり、母との関係を聞くに従ってもっと知りたいって思ってきて。
知ってどうするかとかは考えてないけど、父とともに過ごしてた人たちから、父の話をもっと聞いてみたいです」
そう言うと、高藤先輩がにっこりと笑って
「自分の心の動くままに、知りたいって感じね、いいと思うわ」
「私なんかお父さんがそこに毎日転がっていると、だんだんうざいと思うことも多くなってくるけど。
最初からほとんど記憶にないと考えると、お父さんもなんか可哀想ね。
そうやって、桜がお父さんのことを知っていくことは供養にもなるでしょ。知ってもらうことが嬉しいとかあの世で思ってんじゃないの?」
「幽霊の言葉が聞こえるの?」
「そんなスピリチュアルな話じゃなくて、お父さんからしたら自分のことを娘が知ってくれる、理解されていくことって嬉しいことだと思う。
パピー・・・お父さんうざいと思う時もあるけど、バイクの話をし始めると、お父さんすごく楽しそうに話してくれるの。それは、自分の仕事を認めてくれたって感じてるからじゃない?
それと同じだと思うだけ」
父の仕事を娘が理解していく?
それって、お父さんにとっては嬉しいことなのかしら。
「私も、父の生き方とか考え方とか、それを知っていくと身近に感じられるようになってきて、私がやっていることにも理解を示してくれるし。
親だって人間なのだから、自分の大切な人たちから理解されたい、という気持ちは持ってたと思う。
先のあの世からの話じゃないけど、肉体がなくなっても心は繋がってるってそれ系の人たちが言ってるの聞いたことあるし。
今、大津さんがお父さんのことに導かれているのは、お父さんがその道を密かに用意してるからじゃないのかな、って私思う時ある」
そう言って、私とヒナっちを見て
「ここに私たちがいるのは、大津さんがまずお父さんのバイクに乗り始めたから、でしょう?
そのスーパーフォアが用意されていた、残されていたのは。自分の足跡を辿ってきてほしいという気持ちがあったからじゃないか、って思う時があるわ」
「それは私もたまに思います」
「じゃあ、オズっちはバイクに乗って、お父さんの仲間のとこ回っていくツーリング計画とか作らないといけないね。春に行く?」
「いや、いきなりはちょっと」
「思い立ったが吉日、自分の動ける時に動いておかないと、色々詰まってきた時に後悔するかもよ。
お父さんの仲間をめぐる旅も、ちょっと考えてみたら?
それはそれとして、お母さんの方だけど、新しい情報があるの」
と言って、高藤先輩が一枚の写真を見せてくれる。
それは、我が校の一年生、新入生が入ってきた時に撮影されたもので、入学式のワンシーン。
「これは、写真部で使うから良い写真撮ってないか、って私に声かけられた時に提供してたんだけど」
高藤先輩は学校でイベントがあると、生徒会から写真担当として特別な許可をもらって撮影しまくってるらしい。生徒会長とも繋がりがあるとかないとかで、この人の顔の広さには驚かされるところ。
全く派手なところがないので、気づかないだけかしら。
その写真を指差しながら
「この子、顔わかる?」
そう言って見せてくるが、顔形がわかるかな、程度しか見えない。
高藤先輩は自分の持ってるカメラのモニターに撮影した写真を映し出しながら、その生徒の顔を拡大して見せてくる。
「ほら、この子なんだけど、見たことない?」
知らない人だ。
私はこっちに来て友人もいない状態から始まっているから、後輩に知り合いなどいない。でも、なんとなく見たことがあるような気配がある。
不思議な感じ。
誰か知ってる人に似てるのかな?その人の親戚か兄弟?
「この子は一年の理数コースに通う笹原しのぶさん。そして、大津さんの従姉妹」
「いとこ?」
声が裏返ってしまったし
なぜ、この学校にそんな人が、
いや、それよりもなぜ高藤先輩はそれに気づいた、
「あの社長さんから大津さんのご実家について色々聞いて行ったら、系列の農場が阿蘇にあって、そこの経営者のところに大津さんのお母さんの妹さんが嫁いでるのがわかったのよ。
それで、ちょっと生徒会に言って生徒について調べさせてもらったら、この子見つけちゃったの」
いや、それ普通の人にはできないやり方でしょ。
「大津さんの実家は、土地やビルの運用以外にもレストランとかやってて、そのこだわりの肉とか野菜を得るために系列の農場がいくつかあるのよね。
それを眺めてたら阿蘇にある肉牛農家に行きあたって、それでわかったのよ、どう、従姉妹がいて嬉しい?」
「あ、ありがとうございます」
なんと答えて良いのか。
嬉しいと言えば嬉しいが、他人といえば他人なのでこの先どうしたら良いのかよくわからないし。いきなり従姉妹です、とか言うのも変だし。
そもそも、知ってどうなるというのだろうか、と思ってしまい高藤先輩には申し訳ないと思ったり。
とりあえず、
「コーヒーを入れ直すけど、飲みます?」
と二人に声をかけ、コーヒーミルでまず豆を挽くことにした。
単調な動きとコーヒーの香りで心を落ち着かせないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます