第42話 シャドウ イット ラット
「君が、秋彦の娘さんか。確かに面影があるな。目のところなどはそっくりだ」
と石川さんが話し始めてくれた。
ここまできた経緯は事前に高藤先輩から伝わっていたようで、父、春間秋彦についての詳しい話を聞きにきたのだ。
春間秋彦
90年代後半にドラマの主題歌「君といた夏へ」が大ヒットしたことで有名なバンド「シャドウ イット ラット」通称「SIR」のキーボード。バンドの時は「Hal AKI」
と名乗り、作曲を主に行う。
ギターの TAKA AKI、ベースの SINONO AKI、ドラムの AO AKI
このAKIと全員についた4人がメンバーである。なぜアキなのかというと皆苗字か名前に秋が入る名前だったというのがきっかけとか。
バンド名と個人の名前の付け方に全く法則性がないように見えてしょうがないけど。
その辺のセンスはその時代だからってのがあるのかしら?
多数のミリオンセラーなども叩き出した時代を代表する人達。
私が生まれる前に大ヒットしてた曲とかバンドなので、私は全く知らなかった。
曲を少し聞いた時に、動画配信サイトなどで聞いたことがあるような、ってくらい。
2010年代からはソロ活動が多くなりバンドでの活動は減るも解散したわけではなく、それぞれがSIRの一員として活動を続けていた。
作曲を担当していた春間秋彦はニューヨークに拠点を置き、そこで生活をしながら仕事を続けていたという。
この、90年代〜2010年代までの時にプロデュースしてたのがこの石川さんらしい。
「バンド名の由来は、私が買ってたうさぎが黒くてね。我が家にメンバーが集まった時に、そのうさぎと、壁にうつった黒いうさぎの影と、どちらが本物か見分けがつかなくなった時があって。その時に勢いでつけたバンド名なんだ」
とバンドの名前の由来などを話してくれる。この辺は以前高藤先輩に見せてもらった雑誌だと「黒うさぎが月夜に自分の影を追い続けるような、人々に常に付き纏うようなイメージで」とかよくわからない理由が書かれてたけど、実際はそんなものなのか。
バンドのメンバーはそれぞれ海外に出ているように見せかけて、日本の田舎へと住んでいてあまりメディアに干渉されない生活を好んでいるらしいとか。
つまり、バンドメンバーは日本にいるのだ。
「後で知りたいなら場所も教えてあげるよ。雑誌とかメディアとかネットとかに載せないようにね」
と言われたが、そんなことしても自分には何も得はないし。
今のネット記事やwikiを見ると、海外に移住して時折日本で仕事しているって話だったけど、案外あてにならない情報なのね。
「秋彦も、本当は阿蘇の別荘に引きこもってしまいたかったらしいけどアメリカでの仕事が忙しくて。アメリカの有名バンドむけに作曲の仕事もしてて、その契約が終わったら日本に帰ってくる、とか言ってたのだけどね。
それが来年でだったのだがなぁ」
そう言って石川さんはコーヒーを飲んだ。
「秋彦とは最近はほとんど連絡は取り合ってなかったのだが、来年日本に帰る話の時は私に真っ先に連絡をくれてね。
日本での仕事について、これからまた一緒にやっていこうという事だったんだ。
だから、2月に亡くなったという話を聞いた時はがっかりしたね。色んな意味で」
昔、一緒に各地を巡っていた頃を思い出しているのだろうか。
バンド時代はお金もないので、プロデューサーの石川さんが中古のハイエースを運転し、各地のコンサートへと向かっていた頃もあったとか。
その時から一緒に苦労しながら成長してきたので、ただの仕事仲間という関係性ではないような、そんな感情も持っているとも話していたから。
バンドの話、そして他のメンバーの話から、父の話へと内容が移っていく。
父は若い時からかなり「控えめ」な性格だったりらしくオタク気味であまり人間に興味を持ってないような雰囲気があったという。
バンド活動なども行うような人間ではなかったのだが、石川さんがSIRギターボーカルになる予定のの人から、ソロデビューについて相談を受けていたときに、ある人物を通じて父と出会うことになったのだとか。
それが、私の母だったという話を聞いて、思わず声が出てしまった。
「その時は、秋彦と二葉さんは付き合っててね。その二葉さんはまだ学生だったかな。東京藝術大学 デザインの2年生だったかな、3年生だったかもしれないけど。私が他の音楽仲間とたまたま入ったガールズバーでバイトをしてて。
そこで、ガールズバーはお金がいいからやってるだけで、本当は将来の仕事にもつながりそうなデザイン関係のアルバイトをしたいのだと言うから私が今度プロデュースするミュージシャンのプロモーションに協力してくれないか、なんて話をしてたんだ。ちょうどビジュアルデザインも作りたかったけど、当時はお金がなくて。
芸大の学生なら、プロを雇うより安く済むし技術も確実だと思って。
そしていざその話を進めようとしてスタジオで打ち合わせをした時に、秋彦ものそのそついてきててね、
私と二葉さんとプロモーションについての話をしてる間に、秋彦はギターの高秋(たかあき)といつの間にか意気投合して、勝手にそこでセッションしてたんだ。
それを聞いた時に、電流走る、みたいになってね。
秋彦の作曲の才能、これは逃してはいけない人材だと思ったよ。
そこから個人でデビューさせようとしてた高秋の路線を変更してバンドでデビューさせることにしたんだ。」
と笑いながら話してくれる。
いや、私としては、父と母が東京で出会い、すでにお付き合いしてる関係だったというのが衝撃的だった。
母はガールズバーでバイトしてたのか。
ガールズバーっていかがわしいとこじゃないよね?
何か、もうこの話を聞けただけでも、来た甲斐があったと思ってしまう。
「その時の写真もあるよ、みてみるかい?」
と言われたのでうなづくと、書類を持ってくると言って受付の方へと向かっていった。
残された女子高生3人
すぐにはるなっちが話しかけてくる
「何、あんたのお母さん東京芸大出身?すごいじゃん」
「知らなかった」
「東京芸術大学って、芸術関係、美術館系の東大って言われてるくらい才能がないとダメなとこなの!私だって本当はそこ目指したいけど、才能がそんなにないからどっかの芸術系の私立大学にでも入ってデザイン系の仕事しようとか思ってるのに。
オズっちの両親はとんでもない才能があったのね」
ヒナっちからそんなことを言われてしまい、二人にじっとみられる
「で、桜は何ができるのかしら?」
しばらく考える
私の得意なこと
うーん
「料理?」
二人がため息を吐いて、そして
「なんか遺伝子的にはすごそうなもの持ってるはずだから、今度作曲させてみようよ」
「いや、iPadで絵を描かせてみた方がいいんじゃない?ほら、イラスト描いたら高く売れたという人いるじゃない」
と勝手に二人で盛り上がり始めた。才能を発掘して、YouTubeで儲けられないかとかそんな話をし始めてたりする。
母が、そんな学歴を持っていたとは全く知らなかった。
そんなにすごいとこ出てたのに、なんで地方の会社とかに勤めていたのかしら。
母の学生時代から今に至る流れが全く見えてこない。
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