第27話 父の仕事

ついに、小泉さんと会うことになった。

私が放課後の方が都合がいいということで近くのジョイフルで待ち合わせになったのだが、私の方が先についたので先に席に座り待つことに。

はるなっちに今日のことを話すと「詳しくわかったら、お父さんのこと教えてね。すっごい興味あるわ」と言ってた。

娘である私の方が、父に関してあまり興味がないというのは薄情なのだろうか。

母親と過ごした時間の方が長いし、小さい頃に両親が別れたため、父のいた記憶が私にはそもそもないのだから。


家やバイクを残してくれたことは感謝してるけれど、父親というイメージがそもそもよくわからない。


だから年上の男性と会話するのは、慣れてないので緊張する。

電話で話した感じだと、渋い声色のおじさんという感じだったけど、おじさんと会話とかうまくできるのかしら。


とりあえず注文したドリンクバーでとってきたコーラを飲みながらぼんやり外を見ていると


「大津さくらさんですか?」


と声をかけられた。

驚いて振り向くと、そこには頭がすごく薄くなってスキンヘッドな感じで眼鏡をかけたおじさんが立っていた。

スーツ姿に彫りが深い顔つき、長身で体格が良いので海外の俳優のような雰囲気がある。

熊本には、どう見ても白人系の顔つきをした純粋な熊本人がたまに存在する。同級生にも女の子で体つき、足の位置、胸の大きさ、肌の色などが白人系な人物がいるが、昔から阿蘇に住んでいる一族なのだという。髪も赤っぽくて目の色が赤い感じなのでクォーターかと思ってたけど違うらしい。

その子は汗腺が少ないらしく、汗が出にくく水膨れになるとか、日焼けしないとか、色々と「日本人じゃない」という特徴があるけど、純粋な田舎の人

「しゃべらないないならミス阿蘇高」と言われるくらい熊本弁が激しすぎる。私でも一瞬わからない時があり、それは阿蘇特有の言い回しだったりする。

熊本っていっても方言とニュアンスは天草とか八代とか玉名でも全然違うから。


なので、このようにハリウッドで車を走らせているようなダンディーなおじさんが現れてもそこまで驚きはないのだけれど。


これで髪の毛があれば


とつい思ってしまったり。

小泉さんは名刺を差し出し、席に座っていいかと聞いてくる。

その後の仕草も全て様になっており、無駄な動きが見当たらない

紳士だ

同じ学校のイモっぽい男子とかとは仕草が違う。


そんなできる弁護士な小泉さんが父について教えてくれることになるのだが


「お父様からは遺言を預かっております。

まずお父様の名前はご存知ですか?」


と聞かれ、


「春間 秋彦です」


江川さんに教えてもらってたので、父の名前は知っている。


すると、小泉さんは目の前に複数の書類を差し出してきて


「春間さんと大津さんの血縁関係を示す書類です。確認していただけますか?」


と言われ、目を通す。いわゆる戸籍というものだろうか。


その後、自分が父、春間秋彦の子であることを確認する作業が続き、そして一つのファイルを差し出してきた。


「お父様の仕事はご存知ではないでしょう?」


「はい、母にも教えてもらってないです」


「多分、こちらの名前をあげたら聞き覚えがあるかと思いますが」


と言って横文字が並んだバンド名を教えてくれる。

あ、その名前は聞いたことがある。主要なメンバーが海外で活動していて、時折日本でツアーを開いたりしてる人たちだ。


「このバンドのキーボード、作曲担当があなたのお父さんなのです。バンドの時はペンネームを使っていたので春間という名では出てません」


と言ってまた資料をいくつか見せてくれる。

あの薄い鞄から一体いくつの書類が出てくるのかしら。


「この春間さんから遺言を私どもで預かっておりまして。

遺産の一部を娘である大津さくら様へ継承する内容です」


遺産?

もうすでにもらうものはもらっていると思っているのだけれど


「もう家とかバイクとかもらってますが」


と私が言うと


「物質的なものではありません。

作曲をすると様々な権利が生まれてきます。それらを引き継ぐと言うものです。

有名なアーティストが亡くなった場合、その遺産を管理する人や団体がでてくるのです。その権利の一部を娘に渡したいとのご希望でした」


よくわからない。権利をもらうと何かいいことあるのかしら?

私の惚けた顔を見て、何も知らないと悟ったのか小泉さんは笑顔で説明してくれた。


要は、楽曲を使用する、カラオケで使われる、などで生まれる権利料の一部を私がもらえると言うことらしい。

でも、お父さんの楽曲とかバンドとか私よく知らないし。

あんまり売れてない可能性あるから、一部っていってもそんなに大きい金額ではないんだろうな。


と思っていると、「大体これくらいになりますね」と軽く言われた数字に驚いた。


「もちろん、相続税とか色々出てきますから全額はもらえませんが、少なく見積もってこれくらいです」


十桁の数字が並ぶのを見て、今自分が飲んでいるドリンクバーが一体何回頼めるのか、などとつまらないことを頭で計算しかけてたりする。

いわゆる現実逃避だけれど。


「これらを、成人して大津さくらさんが、受け取ることを選択するかしないか、それを今から考えておいてほしいという内容です」


ほっとした。

今もらってもよくわからないことだから。

お金とかたくさん持つと、やばい人たちが群がってくるとか聞くし。

命とか狙われたら大変だし。


「とりあえず、この権利については20歳過ぎてからの話ですが、お父様の個人資産が多少ありまして、それを相続するとすぐにでも今後大学を出るくらいまでの学費は困らない程度のお金を受け取ることができます」


とファミレスでしていいのかどうかわからないような内容の話が進んでいく。

思わず隣近所の席の人に聞かれたないか探りを入れてしまうわ。


あまりにも現実離れした金額の話が出てくるので、より詳しい話は江川さんも交えて家の方で行いましょう、ということで話が終わりホッとする。

私一人で考えていい内容ではないわ。


そして、その小泉さんは


「私はこのような権利関係についての仕事をやってる者ですから、何かあったら気軽にご相談ください。生前、お父様にはとてもおせわになりましたから」


と言ってダンディーにコーヒーを飲んでいる。

安いファミレスのコーヒーでも、飲む人が違うと品質が上がったような錯覚を受けるわね。


その後、小泉さんはスマートに私の分の支払いも行い、また都合のいい時会いましょうと言われ別れることに。

前に輪っかが4個くらいついてる青い外車へと乗り込み去っていく。


つくづくダンディーなおじさんだわ。禿げててもかっこいい。


私は自分のCB400スーパーフォアに跨りながら、今日の内容を反芻する。

薄暗くなってきた空にはオレンジの雲が浮かび、夕焼けほどではないけれど、濃い青空と美しいコントラストを見せていた。


とりあえずお金の心配が今後無くなる、というのは大変ありがたい。

家ももらって、お金ももらって。


私はこの後どうすればいいのかしら。


いわゆるニートになってこの先親の遺産で食っていく人間になっていくのかしら。

人間として堕落した人生を送りそうで怖いわ。

今まで目標としてきたものが全て無意味に思えそうになるのではないかしら。

学校行かなくてもいいって話だし。

でも、それでいいのかしら?

新しい情報が脳に入ってきても、それを処理するほどの性能がないので混乱してしまうばかり。いろんなことが頭に浮かんできて、全てがそのまま頭の中に溜まっていく感じ。


とりあえず。

20歳超えてからのことはその時に考えるとして。


今やるべきは、

父の仕事について知ることができたので、父の作った曲を聞くことにしよう。


ネットで探すとすぐに出てくる。

聞いたことのある曲が結構あってびっくりする。


お母さん、なんでこのこと黙っていたんだろう?

それに、お母さんとお父さんが離婚した原因ってなんだったんだろう?

なんでお母さんの親族の人たちは、お父さんを煙たがっていたんだろう。

そのついでに、私の存在もなんだか良いように思ってない感じだし。


お父さんとお母さんの過ごした時間、想いなんかも知りたい。

父について、春間秋彦、という人物について調べてみないと。















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