第28話 だからどうしよう

父親の仕事がわかり、はるなっちに遺産のこと以外について話してみた。

とりあえず一般の人は親が有名ミュージシャンだった場合どういう反応するのかを見てみたいと思ったのもあったけれど


「へぇ、すごいじゃん」


で終わってしまった。

その日は土曜日で、江川さん達ご夫婦は来られないのではるなっちが泊まりに来てたのだ。先日の父親の件について詳しく聞きたいからという理由もあったようだが。


「有名ミュージシャンって言われても会った記憶ないんでしょう?だったら他人とあんまし変わんないわね」


と割とストレートに言ってくる。

本当そういうことだ。小さい時しか会ったことがないので、その人の為人やら何やらが全くわからない。

インターネットで調べてみても、いわゆるミュージシャンという感じで破天荒な一面や繊細な一面が面白おかしく描かれている記事なんかがいくつかあるくらい。


結婚と離婚、という話題も少し上がっていたがお母さんが一般人だったせいであまり詳しくは載ってない感じだった。

大体、この手の人たちはそういう話題はよくあることらしいので。


「でも、なんでさくらとお母さんを置いて海外に行ったのかしら?その辺の話はわかんないままなのよね」


私がうなづくと、はるなっちは冷蔵庫から私の買ってきてたレアチーズケーキを勝手に食べながら言う。

それ、私が明日食べようと思ってたのに。

減っていくケーキを横目で見ながら


「弁護士の人も教えてくれなかったし。この辺はプライベートな話題だから誰も教えてくれないのかも」


「親戚とかは?」


「お母さんの親戚はみんな、私とあんまし関わり合いたくないみたい。

だから連絡先もよくわからないの」


「ミュージシャンと結婚して、あんたが生まれたことで。

お母さんは何か、家にとっての汚点とかそんな感じに思われてるのかしら。私だったら有名人と娘が結婚したなんて話は嬉しいと思うんだけれどね。

親戚とかからなんか嫌がらせとか受けたことある?」


「お母さんの遺産とか遺品が好きに貰えなかったくらい」


「それ、結構きついじゃん」


「貰えたのは死亡保険のお金だけだもの」


「なんか、さくらって親身な身内という存在がいないのね」


言われてみれば、母親以外は父の親戚母の親戚とも関係はほぼないに等しい。葬儀の際に母の親戚という存在が出てきたくらいだったし。


「ほんと、なんで私はお母さんの親戚に嫌がられてるのかよくわからないけれど、でも仲良くしたいわけでもないからどうでもいいかなぁって思ってる」


「親戚がいないと楽なこともあるけれど、いざというときが困るわね」


「江川さん夫婦にはるなっちとかいるから大丈夫」


「私は何にもできないわよ」


「話聞いてくれるから助かる」


そして、自分の今の気持ちを整理するためにも、父親についての話、母親についてのことはなるなっちに話していると


「うーん、結局二人の馴れ初めとかなんで結婚したのかとか、その辺りのことがよくわからないのでしょう?

だったら、それを知っていきたいとか思わないの」


と返されてしまった。

知りたい気持ちはある。

でもどうすればいいのか、母親の親戚はあまり関わり合いたくないし。


「お父さんの身内、はどうなの?」


幼い時にあったことはあるのかもしれないが、全く知らない。

その話をはるなっちにしてみると、


「じゃあ、その弁護士さんに聞いてみてお父さんの兄弟とか親とか、その辺りから話聞いてみたらいいんじゃないの?」


と言われてしまったが


「私、知らない人と会うの嫌だし」


「私もついていってあげるわよ」


と、はるなっちが言ってくれた。


「私もなんか興味出てきたし。大体こんな家とバイクを娘に残していくというのもおかしな話だと思わない?」


なんでだろう?たまたま別荘が残っていただけなのではないの?

と思って口に出すと


「最初から、自分の娘に渡るように用意してたとしか見えないんだけど。

もしくは、お母さんとあなたのために用意していた家なのかもとか。

それとも、家族3人で生活することをまた願って用意していたとか」


はるなっちは何か見えないものを見ながら話すような感じで、ふわっとした視線を宙に向けている。

そう言われるとそんな気がしないでもない。


父の死因については、先日見せられた戸籍関係の中にあった死亡届の書類に「喉頭癌」と描かれてたような気がする。

ガンについては、発病してすぐに倒れることはないから。この別荘を手放すことを考えてたならそれを行う余裕はあったようにも思えるけれど。

海外だからそれがすぐできなかったとも考えられるし。


色々と考えていると、結局「どうでもいいかな」で終わってしまいそうになる。


「ねぇ、せっかくだからその謎を解明していかない?」


はるなっちがそんなことを言い始めた。


「なぞって何?」


「あなたの両親が結婚したり別居した理由とか、この家が残された理由とか、そんなのを探っていくのよ」


「知ってどうするの?」


「自分のルーツとか知りたくないの?

私だったら色々知りたくなるけどな」


「うーん、まぁ、そう言われてみると気にならないこともないから。

ちょっと調べてみるのもいいかも」


あまり積極的に知りたいと思うわけでもなかったけれど、はるなっちが楽しそうに話すので。

はるなっちが楽しそうにしてるから、ちょっと話に乗ってみるか。

程度にその時は思っていたのだった。


自分のこと、自分の素性などには興味があまり湧かない。

私は今ここで生活しているだけで十分だし。親の仕事とかもあまり関係ないし。

学校出たら遺産で食べていけそうだし。


でも、バイクに乗っているのは楽しいかな。


そう、お父さんの気まぐれか、計算か、そのおかげで私はスーパーフォアと出会って今ここにいる。これのおかげではるなっちとも出会えたし、他にいろんな人たちと仲良くもなれた


自分の生活に彩りを添えてくれるもの、人生の相棒

なら、このスーパーフォアがなぜ私に所に来たのかを探っていくのはちょっと楽しいのかもしれない。

その中で父と母の話を探っていくのもいいのかもしれない。






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