父の謎
第26話 秋の夜長
秋の夜は、ちょっと窓を開けていると虫の声が容赦なく家の中へと流れ込んでくる。
でも、夏の虫の声のようにうるさい感じはなく、どことなくもの寂しげで涼しげでゆっくり過ごすには最適なBGM。
今日のツーリングのことを思い出しながらカメラの写真をチェックしていく。
高藤先輩から教えてもらってからは、確かに見た目に良い写真が多くなってきてる気がする。
撮影するときの構図って大事なのね。
高藤先輩、そしてはるなっちの笑顔の写真。
この家に住むようになって、こんな風に友人ができてバイクに乗ったり。カメラ片手に撮影に出かけたりするなんて思っても見なかった。
これも、スーパーフォアのおかげなのかしらね。
バイクに乗ってなかった1学期は友人もできず寂しい学生生活だったけど。
2学期からは男女ともに話しかけられる機会も多くなり、男子とも割と普通に話せるようになってる。
私のスーパーフォアに跨っては足つきを試していた、あの田中くんも無事免許が取れたらしく最近はSUZUKIのGSX125 というピンク色ナンバーのバイクに乗り始めてた。
全体をプラスチックで覆われた青い鳥みたいな格好で、色はとてもいいと思う。
買ったわけではなく親戚からのお下がりだという。従兄弟が大型免許を取得し「隼」というバイクを買ったのでこれをもらったのだとか
「まずこれで練習して、上達したらバイト代でジクサーSF250を買うつもりだ!」
と言ってたけど、私にはそのバイクがよくわからない。
一緒に話を聞いてたはるなっちは
「油冷とかマニアね」
と呆れたように言っていたが。
「見た目もかっこいいし、軽いバイクがいいし」
「あんた小柄だもんね」
「まだ成長途中だ! いずれ隼に乗ってお前らを国道57号線の立野の追越車線でぶち抜いてやる」
「その時には私はHONDAのCB1300スーパーフォアに乗ってるから負けないわよ」
とかはるなっちが変に対抗意識燃やしてたりするけど。
隼ってバイクの名前?
男子とこんな話ができるとか、思ったこともなかったなあ。
特に田中くんとは仲良くしてるわけではないが、バイク置き場で会った時は少し話をする仲にはなっている。
男子として恋愛対象になるレベルではないので気楽に話せて楽。
それに連なる友人という者どもとも会話する機会が増えて、バイク乗り場では男子に囲まれてしまうこともしばしば。
400ccに乗っている人間が少ないので、興味を持たれてしまうのだ。
「VTECとか、すごいんか?」
とかよく聞かれる。
正直、まだよくわからないが。
バイクに乗ってて、メカニズムについてはさっぱりなので、はるなっちの知識頼りだけれど。私ももう少し、このスーパーフォアについて知るべきなのかな、とも思う。
でも、なんとなく調べるのも面倒なので、はるなっちの無駄な知識に任せてしまうな。
人と接している時間も好きだが、家で一人まったり過ごしている時間も好きだ。
お母さんと一緒にいた時間、が思い出されると少し悲しくなるけど。
だいぶ一人の時間に慣れてきて、寂しさよりも、学校やバイクでの楽しさが上回ってきている。
お母さんの写真は2階の自分の部屋に飾って、
たまに好きだったお菓子なんかをコンビニで買ってはお供えしてたり、1日のことを報告したりしてる。
虫の声以外が聞こえない時間。
一人で過ごしていると学校の勉強以外に大抵やることなくなって
ゴロゴロしているか、ガレージに降りて行ってバイクを磨いているか。
今日は疲れたので一人ベッドに寝転びながら、はるなっちが拾ってくれた名刺を眺める。
名前は小泉弁護士という人らしい。
江川さんに電話で確認したところ、父が生前から付き合いのある弁護士さんなのだとか。
詳しい話はその人から聞いた方がいい、と言われて江川さんは何も教えてくれない。
何か口外できない理由とかあるのかしら?
「間違った情報が伝わるといけないから」
と江川さんが言うが何か特殊な仕事でもしてたのかしら。
明日は、この弁護士さんに電話をかけてみよう。
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