第22話 箱石峠

南阿蘇がわを上り切ったところ、昔はダチョウがいたとか言われる場所に自動販売機がある。

ここまで来るまでは、結構辛かった。

狭くて急なカーブが連続してて、上りだからいいけど、これが下とかだったら怖くてたまらないわ。


阿蘇によくある針葉樹の葉っぱが落ちている、針葉樹に囲まれた狭いワインディング。他の二人はスイスイ進んで行くけど、なんで排気量の少ないはるなっちのスーパーカブがあんなにすんなり登っていくのかがわからない。


そんな道をやっと越えたので、3人で一休み。片手にそれぞれアイスコーヒーを手にしているけれど、これは高藤先輩が


「ライダーはソフトクリームと缶コーヒーを主食に走らないといけないの」


と言ったので。私は青い缶のやつではるなっちは意外とブラックなど飲んでいる。

私の家では砂糖入れてインスタントコーヒー飲んでいるのに。


と思ってみていると


「自販機のは甘くて、喉乾いちゃうから外ではブラックを選ぶのよ」


と言ってたりする。一方、高藤先輩は250cc缶の甘いやつを選んでいて、なんとなく逆な感じがして面白い。

ちょうど木のベンチがあるのでそこに座って何気ない話から始まって


「なんで、二人はそんなにスムーズに登れるんですか」


と私が聞くと、はるなっちと高藤先輩は顔を見合わせて


「トルクの出方かしらね」


「トルク?」


「馬力とトルクってわかる?」


はるなっちに聞かれ、首を横にふる。

それをみて高藤先輩が。

「簡単にいうとエンジンがピストン一つで動くものは、低い回転でエンジンの力がい一番出るの。

それで、私のSRやスーパーカブは単気筒だからカーブ曲がってアクセルひねるとすぐ低い回転で加速していくのだけれど、スーパーフォアは4気筒でいっぱい回さないとパワーもトルクが出ないから、カーブ曲がりながらでもアクセル捻ってないとスムーズにコーナーを越えにくいから、かしら」


「単気筒の方が楽なんですか?」


「楽と言えばそうだけど、低回転でパワーが出てしまうので、高回転にしてもパワーが出てくれないの。

スピードを出そうと思ってアクセルを捻っても、ある一定速度からは出にくくなるのね。

でも、スーパーフォアみたいなバイクは、回転をあげればあげるほどパワーが出てくるからスピード出したい人はそっち選ぶわ」


「私はのんびりでよかったのに」


「でも、スーパーフォアはエンジンがすっごくよくできてるから、低速でも回転数が低くてもパワーがそれなりに出て粘ってくれるから他のより運転はしやすいはず」


「教習車に使われてるくらいだから」


はるなっちがそう言って笑っている。

バイクのエンジンの形で、パワーの出方が違うとか始めて知ったわ。

そんな話知ってたら単気筒?のバイクに乗りたかったと思ってしまう。

でも、あの振動は嫌だなぁ。


「今度、カーブを出るときに、車体が真っ直ぐになル時にアクセルを捻ってカーブを出ていくイメージしてみたら?すると、早く立ち上がっていけるわよ」


とアドバイスを受けるも、難しい。

慣れてからにしよう。


そして、そこからは下になる。

しかし、この風景はすごい。思わずヘルメットの中で叫んじゃった。


阿蘇山の涅槃像を頭から見ている様子で、根子岳の真横を走るワインディング。

そこから見える阿蘇山の広大な原野と険しい山の姿。

山に近いからとても迫力があるながめ。


パノラマライン、ケニーロードとも違って、山走ってる、って感じがとてもいい。


パノラマラインほどではないけれど牧野が広がり、牛達がのんびり草を食べてる風景があったり。


ただ、下のカーブはさっきよりはマシだけど結構きつい。

なんとか前の二人についていき、そのまま、やまなみハイウェイへと入る道へと移動するため、一旦国道57号線へと出ていく。


なんか。やっと山超えて人の生活の場にやってきたって感じだわ。

気分的にはふた山こえた感じだから、パノラマラインよりも遠く走ってる気がしてしまう。


とりあえずコンビニに入ってまた休憩。

その時に、

「なんであそこの峠が箱石峠、なんですか?」


と高藤先輩に聞いてみると


「気づいてたかわからないけれど、途中の上の方に四角っぽい石があったのよ。

あれがね、お経を唱えると岩が開いて中から重要な経文が現れてくるって、なんかファンタジー漫画に出てきそうな話があるのよ。

その経文を収めてある箱の岩がそのまま峠の名前になったわけ」


「そんな石ありました?」


「走ってると気づかないからね」


と言いながらスマホで検索して写真を見せてくれた。


何、これ話に聞いたのより箱じゃない。

それにこんなとこあっても気づかないわ。



「ちょっと近づくことはできないとこにあるから、大切なものを隠すにはいいんじゃないかしら」


「こんな岩全く気づかなかった」


はるなっちも言ってるくらい、存在感がない岩だった。

もっと大きな石かと思った。


「阿蘇には健磐龍命が的にした的石とか阿蘇の八石伝説とか珍しいのがあってね、その辺探索する目的にしてみると面白いわよ」


と言われたが、そんな伝説があるのを初めて知った。


「私の家の方に行くと、押し戸の石、というのがあってね、そこもパワースポットとか言われてるとこよ。今度一緒に行ってみようか?」


などと高藤さんに言われてしまった、景色がいいところらしいので、寒くなる前に一度連れて行ってもらえたらいいかも。


そして、私たちは、ライダーのメッカ、と言われる やまなみハイウェイ へと向かうことに。

さっきの箱石峠も何台もすれ違ったけれど、みんヤエーとかする余裕なくコーナー曲がってたわね。

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