第21話 蕎麦畑と写真と

10月の南阿蘇は、一面が黄色の世界。


田んぼしかないと言われれるとそうだけれど、私たちが走っている道のチョイスがそれだから仕方ない。


真っ直ぐに伸びる農道、物産館にいく前に先輩が「こっち曲がる」と手で示した方向へと進むと、そこは田んぼのど真ん中。

周りには黄色く色づいた稲が並び、その間に白い花が咲き誇った蕎麦畑が広がっている。


黄金色と白い花の対比がとても綺麗。


それに、左右どこをみても田んぼ、というのが爽快な感じ。

所々、稲刈りしている人達もいて田舎って感じだわ。いい意味の。


高藤先輩が少し広くなった畦道にバイクを止め、カメラを引っ張り出して撮影を開始する。


私たちはそれをただみててもしょうがないので、同じように。はるなっちはスマホで、私は母のカメラで撮影をしてみるが。

こんな感じでいいのかしら?


一通り自分の撮影が終わってから高藤先輩がやってきて私の撮影したのをみて。


「基本はなべて1/3、風景写真撮るときはこれ注意するだけでいい感じに撮れるわよ」


と言いながら、ファインダー液晶をみながら位置を示してくれる。

あ、確かに。山とか田んぼ入れるときに無意識に半分にしてたけど、1/3にするとかっこいいのね。


「あのバイクをさらに横1/3に入るようにして配置してみて」


と言われ、自分のスーパーフォアを画面の左側1/3に配置してみる。


おお、なんか雑誌とかにありそうな写真。

まぁ背景がいいからそう見えるのでしょうけど。


遠くに阿蘇山があり、そこから手前に向かって黄色く広がる水田風景。そして、近くに広がる蕎麦畑の白い花。


その片隅に私のスーパーフォア。


なんていい写真なのかしら。

何かに応募しちゃおうかしら。


なんて思うくらい、ちょっとしたテクニックで写りが変わるものなんだ。

高藤先輩のを見せてもらうと、自分のSRがすごくかっこよく撮影されている。ついでにと、自分が跨った写真も撮影してくれと頼まれたので、バイクと風景の配置をしっかり教えてもらってから、高藤先輩とバイクと南阿蘇の風景を撮影してみる。


あ、とてもいい感じ。

人間が入ることで、写真の完成度が上がる感じがあって面白い。


「スマホだと、すぐ加工できるから面白いのよ」


と言いながら、はるなっちは撮影した写真をすぐに加工してTwitterとかに載せたりしてる。


「後から加工するのもいいけれど、その瞬間の姿を残せるのが、カメラのいいとこなのよ。それに、撮影者のエネルギー、被写体に対しての愛情なんかも入ってくるから、スマホにはない臨場感が生まれるから私はカメラ派。でもスマホも使うけれど」


と言いながら、別にスマホで撮影してTwitterにあげている。


Twitterにあげないといけないのかしら。私はアカウント持ってないけど。


「カメラ、写真にはテクニックも必要だけれど、被写体をいかに「美しく」とか「かっこよく」撮りたいかという熱がないといいものはできないのよ。

大津さんはその撮りたいもの、がいまいちぼんやりしてるから写真もぼんやりしてたのかもね」


割と思ったことをそのまま言う人なのか。

まぁ確かに、母からもらったカメラがあるので記録程度に撮影してただけだけれど。


「今度から、このスーパーフォアを中心に阿蘇の風景を撮影してみたら?

そうすると、写真の腕も上がっていくわよ」


と言って、今度は三脚を立てて私たちの集合写真を撮影してくれた。


結局、ケニーロードに行く時間はなく蕎麦畑を探しつつ田舎道を散策してたら箱石峠方向に行く時間が近づいてきてしまった。

今日は高藤先輩はそのまま家に帰る予定なので、その時間に合わせた計画だったのだけれど。


しかし、蕎麦畑というのはいろんなとこにあるものなのね。主要な道路だけ通っていたら全く気づかないような裏にあったり、いい感じに寂れた馬屋があって、その周りに広がっていたり。

阿蘇の山、外輪山、その下に広がる黄色い水田と白い蕎麦の花。


探してみると、近くにこんな綺麗な景色があったなんて。


バイクだから行ける小さい裏道に入っていくと、そのまま人の家に続いてたりして焦ることも何度か。


急いで方向を変えようとするも、私のバイクは重たいので切り返しに時間がかかってしまう。

後の二人は難なくくるっと方向変えられるから羨ましい。


ある家の前で蕎麦畑と馬屋とまだ少し残っていた彼岸花の写真撮影してたらその家のおばあちゃんが出てきて、いきなり饅頭をくれたりもした。

ちょうど作りたてがあったから、と言われ


食べるととても甘くて美味しかった。


おばあちゃんは「若い娘さんがバイクに乗ってかっこいいな」なんて話をしてくれたりして。

蕎麦畑はおばあちゃんの家のものらしく、これから花が終わって12月くらいに新蕎麦が出るので、その時にまた来て物産館でそばを作ったり食べていくといい、なんて話もされたり。

そんな人との触れ合いもあったせいでケニーロードへ行く時間がなくなってしまったのだけれど、こんなぶらぶらした予定通りに行かないツーリングもいいものだと思う。


南阿蘇村の物産館に行くと、バイクがすごいことになっていた。

バイク置き場からはみ出して、駐車場の隅っこなんかに停めてる人多数。私たちはその片隅にちょっととめて、そこで売られている牧場のジェラートを食べた。何やらヨーロッパで賞をもらうくらいの高品質なミルクから作られているのだとか。


確かに、美味しかった。


物産館の中でそのミルクも売られてたけれど、結構お値段する。

品質のいいのは値段もいいのね。

今度資金に余裕がある時に飲んでみようかしら。


物産館の隣には巨大な水車が回っていて、中では蕎麦をすりつぶしている。なかなか迫力あるわね。

その隣にはそば道場。さっきの蕎麦畑から、ここにやってきて蕎麦になるわけか。


今度、食べに来よう。

近くに住んでても一人で来ようとはなかなか思わないので、スルーしてたが物産館もなかなかいいところじゃない。

景色も開けてて、隣には古墳のあるグランドゴルフ場もあって。


なぜ古墳とグランドゴルフ場が合体したのかよくわからないけれど、古墳とかあるくらい昔から人が住んでいたのね。


蕎麦畑の写真撮影のおかげで、今まで知らなかった地元の風景を感じられたと思う。


人が多かったので、早めに退散することにして、そこから箱石峠まで一気に移動することにした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る