第23話 城山展望所

ここからしばらくは街中を走って、阿蘇のカルデラの中を走っていくことになる。

南阿蘇は高低差があって、走るごとに景色が変化していく楽しみがあったけど、こちら阿蘇市側は平地、盆地、って感じで普通の街って感じ。


壁に囲まれて生活する巨人が出てくる人を食ったような話の漫画があったりするけど、ああいう感じで壁に囲まれた世界という雰囲気がすごくある。

それは外輪山の上が平らで綺麗に整っているからかな。


南阿蘇の方はギザギザしているし。


この辺は、カルデラになった時期が1万年くらいずれているとかで、阿蘇市の方が長く湖だったこともあるので湿地で平だったから、という話を聞いたことがある。


個人的に、普通に街中なので風情などはあまり感じない。

阿蘇市役所を超えてから、広がる水田の道。

なんか、すっごいバイクとすれ違うんですけど。


みんな真っ直ぐな道だとヤエーをしてくるので、こちらも返していく。

集団で走ってるとみんなしてくるけど、単独で走ってるとしたりしなかったり、なのね。


はるなっちは大きく手を振ってみんなにアピールするから、向こうからも返してくれる。


秋の少し乾いた草のような匂い。これは稲刈りを済ませた田んぼから流れ来るもので、粉々になったワラのかけらが舞っているだけでもあるのだけれど。

高くなった空と、暑さが弱まってきた時期にとても合う香りだと勝手に思っている。

彼岸花も咲いてるとこあるし。


暑さ寒さも彼岸まで、とは言うけれど。

熊本市内ではそんなことなかったけど、阿蘇はまさにそんな感じなのだ。田舎だからなのか、自然が豊かだからか。

それとも、標高がたかいからなのか。


そこから峠に入り、またキツいコーナーをせっせと登っていく。

だから、コーナーでヤエーして来ないで!返せないから。


はるなっちは片手フリーで手が振れるかもしれないけど、私はいつも必死なのだから。

峠では手振り担当をはるなっちに任せて、私は自分のコーナリングを練習するのみだわ。


以前、阿蘇山の峠を走っていると、はるなっちが

「真ん中に矢印書いてあるじゃん、あれの通りに走れるように練習するといいわ」

と言われたことがある。

言われて気づいたけど、道路に矢印が書いてあるのね。


それをなぞるように運転していったら、確かにスムーズにコーナーを曲がれるようになってきた。


でも、ここの峠には矢印書いてないから自分でイメージして曲がらないと。


途中にあるお稲荷さんが、なんか薄暗くてちょっと怖い感じしたけど。何か言われのあるとこなのかしら。


大きいカーブ、小さいカーブ、前に車がいるのでゆっくり走れるからよかった。

だんだん標高が上がっていくにつれ、涼しい風が感じられる。


そして開けたところについた。


そこにはるなっちが入り、3台ともバイクを止める。

ちょうど看板前が空いてたのでそこに突っ込むけど、バイクも車も多いわ。


看板には城山展望所と書いてあって、少し歩くと展望台があって景色がひらけている。


これは、とてもいい感じ。


黄色く実った水田と遠くに阿蘇の涅槃像が見えてて。

そこでしばらく撮影タイムとなって、バイク置いたり遠くから撮ったり、先に行けるとこまで行って、先端の展望所から撮ったり。


で、バイクのところに戻ってくると、近くにいたばかデカイBMWとか書いてあるバイクに乗ったおじさんが声をかけてきた。


「まだ若いのにSRに乗ってるんだ、キックとか難しいだろう」


と高藤先輩に話しかけ、先輩が適当にいなしながらカメラを片付けていると、そのおじさんは仕切りに高藤先輩の年齢とか出身とか聞き始め「昔自分もSRに乗ってて・・・」と自分語りを始めた。


何このおじさん。


私はそう思ったけど、高藤先輩が愛想笑いしながら女子高生ですとは言わず適当に年齢誤魔化し住所も適当に答えてたりするが。

そこで、途中からはるなっちが参戦し、何やら意気投合しているような感じで話が終わっていったけれど。

内容が、

キックなら昔のカブに乗ってたのですかとか。キャブレター時代のカブとかバイクは調整が難しかったでしょうとか。SRの何年式に乗ってたのですか、とか。そんな声が聞こえる中で、得体の知れない単語もちらほら

KT500系のエンジンだからどうとか。ドライサンプだからオイル交換が何がとか。

ドライサンプはHONDAのXRでも使われてましたね、オフロード用のフレームを使ったSRはスクランブラーっぽいですよね、スクランブラーならHONDAのCL400とか知ってます?とか最後はHONDAの話に持っていってたようだけど、最後の方はおじさんの方が話を終わらせたがってるように見えてしょうがなかった。

あまりに私に話してるように気さくに話しているので


「知ってる人とか?」


思わず聞いてみると


「知らないわよ。ああいうおじさんは一定数いるから話を合わせて興味なさそうな話に持っていってあしらうのがいいのよ。BMWの1250GSに乗ってるくらいだからあんましバイクには、こだわりない人かなと思って。

話してみても、とりあえず高級車に乗ってツーリングしてる人って感じ?あまり話が広がらなかったわ」


とはるなっち。


あのでかいバイク1200ccくらいあるんだ。私のスーパーフォアの3倍じゃん。


「高級車って、あれ100万円超えるくらいするの?」


「色々つけて高くて300万円以上、安くても200万超えるわよ」


「何それ、車かった方がいいじゃん」


「だから、ガチのバイク乗りだったら、そのお金あったらドゥカティとかハーレーに走りそうだけど、ツアラー乗ってる人はそこまでこだわりないのかなって私は思ってるの」


「偏見じゃん」


「メカニズムより快適性を求める人向けなのよね」


「でも車買った方が快適じゃない」


「バイクでも快適性を求めたい人が一定数いるのよ」


「車でいいじゃん」


「さくらももっとバイクにハマればあの人たちの気持ちもわかるわよ」


「はるなっちはああいうの乗りたいの?」


「お金が湯水のようにあるなら、5分以上アイドリングしたらダメとか平気で書いてあるような、イタリアのドゥカティとかアウグスタとかビモータとかガレージ付きで欲しいわ」


「何それ」


「バイクのメーカーよ」


「HONDA贔屓じゃなかったんだ」


「手が届く世界ではHONDA最高。夢のバイクはイタリア最高ってとこね」


「あら、春菜さんはツアラー系が好きかと思ってたのに」


と高藤先輩も話に入ってくる


「もちろんタイガーとかGSとかも好きですけど、お金があったら、と言われたら壊れやすいイタリアバイクが欲しくなります」


「女子高生にあるまじき好みね。私あんまり知識ないからなぁ。

私がこれに乗ってると、なんか話しかけてくるおじさんが多くて。

一緒に走らないかとか言われることもあるから丁重に断ってたけれど、春菜さんみたいにいい感じで話広げられるといいのかもね」


「私の場合は、最初から相手と会話するつもりのない知識の押し付けしてるだけです」


と言ってはるなっちは笑う


でも、私にバイクの話す時もそんな感じやん。


今回のおじさんが中途半端な知識しか持ってなかったから私みたいにたじろいで去っていったけれど。

もしガチな人だったらどうするのかしら。


と聞いてみると。


「そういう人は女子に声かけてナンパじみたことはしないわよ」


と言うが、そもそもはるなっちにバイク関係で声かけてくるのは、カブ好きばかりなので、カブが好きすぎて上に乗ってる人間に興味がないからではないかと思うのだが。


高藤さんのようにおしゃれバイクにおしゃれに乗っていると、おじさんが声をかけてくる可能性がある、というのは新たな学びになったわ。


普通の黒のコミネジャケットにコミネのプロテクション入りジーンズで身を固めている見た目より実用性第一の私はおじさんのターゲットにはならないと言うことね。

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