第17話 スーパーカブ

と言った話を、はるなっちとしてたら、茂木さんが


「今日は代車でカブがあるから、少し乗ってみると良いですよ」


と勧められてしまった。


いや、カブとかいきなり知らないバイク乗ったら壊しそうだし。

こけたら大変だし。


そう言って断ろうとすると、はるなっちがノリノリで


「良いじゃない!こんな機会そうないわよ。

私も一緒に走ってあげるから、ちょっと乗ってみなさいよ」


と言われてしまう。


そのまま、誓約書を書かされて。

「いや、これ壊したら全額保証とか書いてあるし〜」


「これは、そのまま乗って消えられると困るので、一応書いてもらってるだけです。仮に全損になった場合はあのCBをもらいますので大丈夫ですよ」


と茂木さんも割と怖いことをさらっと言う。


持ってこられたのはスーパーカブだけど、なんか違う。

ベトナムな雰囲気?東南アジア?


「これ、中華カブじゃないですか!」


とはるなっち。どうやら、一時期中国でスーパカブが製造されていた時期があったらしく、その時にこの四角いライト、スクーターのような顔つきのスーパーカブが販売されていたのだとか。


これみても、スーパーカブだとは思わないわ。


と心の中で思いつつ。


「このカブは世界戦略車として、日本だけでなく東南アジアをメインに開発されたから顔つきがあっち系になっているのよね。

そして、世界を見据えてたので中国で作って安く販売できるようにとしてたわけなのだけれど、日本では今みたいな人気はなかったわね」


とバッサリ。


「やっぱりカブといったらあの形じゃないと落ち着かない人が多かったのよ。

そして、今は熊本工場で作られているのがこれね」


「四角い顔だとカブらしくない」


と私が言うと


「何言ってんのよ、四角いライトの時期は日本のカブにもあったのよ。

1980年台に角目のカブがあってね・・・」以下略


「話は大体分かったから、運転の仕方を教えて」


はるなっちの話を遮って、カブの基本を教えてもらう。


ギアが前に押し込むと上がる、というのが逆なので慣れないと怖いし。

でもクラッチがないのは楽かも。


「昔は右手に全ての装置が配置されててね。左手で蕎麦屋の出前、オカモチを持ってさーっと走れるようになってたのよ。

今はそんな危険な運転はできないから、ウインカーとかも普通のバイクと同じになってるけどね」


と、はるなっち。


確かに、ウインカーなどの配置はCBと変わらないので問題ないか。

問題はこのギアだな。


「このギアペダル、革靴の営業マンが乗っても靴が痛まないから、日本中の営業車でカブが使われているのよ」


確かに、スーパーフォアのギアは靴のつま先のとこが痛んでくる。

足の裏でガチャガチャできるこのギアは確かに靴が痛まくていいのかも。


しかし、咄嗟にあわあわならないかしら。


「このスーパーカブの延伸クラッチはね、世界を変えた大発明なのよ。

60年前に作られたものが、いまだに使われるってことはそれだけ完成度が高かったってことなのよ。他のメーカも真似したけど結局この機構を発展させながら使い続けてきたのはカブなのよ。

この仕組みはね、ギアを変えるときにクラッチを切らなくても遠心力でクラッチウェイトがクラッチプレートを押さえ込むようになっててね・・」


以下略


ギアの練習をしている間中、はるなっちの呪文のような遠心クラッチの説明が続いていた。いつも思うけど、どこからこんな知識を手に入れてきているのかしら。


「・・・ハンクラがないけど、ギアのレバーを入れて話す間がハンクラになるから。それ覚えておくと便利よ」


と私が顔を上げるまで延々話していた。

ハンクラとか、カブに関係あるのかしら?


そして、いざ試乗。


店を出て加速しようとして、ついクラッチレバーを探すも空振りして焦ってギアを2速に入れるために爪先でレバーを上げてしまい

「ブゥオーン」

と盛大に空ぶかしをしてしまった。

ギアを前に押し込んでギアを上げるんだったわ。


後ろではるなっちが笑っている気配がする。


アクセルを捻ると、思ったより早く加速していく。

60kmくらいまで特に問題もなく加速するけど、怖い。

揺れるのが怖い。

風に煽られるのが怖い。


今までスーパーフォアで感じたことのない感覚にドキドキしっぱなし。

こんなひ弱な、不安定な乗り物ではるなっちは峠とか走ってたの?


道路のギャップも割と跳ねるし。


落ち着かない、というのが第一印象。

最初の信号で、はるなっちが前を走ると手で示していく。


はるなっちの後ろをついていくとタイミングが色々わかって勉強になる。

ギアを変えるタイミングもはるなっちの足を見ながら真似てみる。


すると、さっきまでのギクシャク感がなくなり、スーッと加速していくようになっていく。


運転の仕方が変わるだけで、こんなに性質が変わるものなのかしら?


スーパーフォアのように重たくないので、信号待ちも楽、クラッチがないのでエンストの恐怖もなく楽。

そして、軽いのでひらひらと走ることができて楽。


住宅街などの裏に入ってはるなっちが走ってくれたのだけれど、そこに入り込んだりしても道の狭さを感じない。


スーパーフォアは小回りが効かないので狭い道に入り込むときは慎重になってしまうのだけれど。


スーパーカブ。


確かに、楽しいかも


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る