第16話  HONDAのお店

峠からは裏道田舎道、車の少ない道を走っていくのだけれど、そうなると道が狭かったりしてなかなかちょうどいい道、というのが世の中にないことに気付かされる。


木の葉っぱが

砂利が

猫が出てきた!


とか色々ありますし、何しろカーブが狭い。


世界は車を基準に道路が作られているという、当たり前のことを感じつつ、でも東バイパスよりマシと思いつつ田園風景の中を走っていく。

阿蘇と違って、こちらの方が稲の収穫が遅いので水田が青いところもまだあったりするし。


ほんの少し降りてくるだけで、気温とかもすっかり変わるものなのね。


なんて思ったりして。

あと、阿蘇から熊本平野方向に進むと、耳がツーンとなることがある。

いわゆる気圧が変わるところがあって、バイクでもそれを感じられることにちょっと感動してたりして。


あれ、飛行機だけじゃなかったんだね。

というか、標高が400メートルくらい違うだけで、そんなに気圧に差があるのかしら。


私は耳抜きは自然とできるから問題ないけど、できない人がいたら毎日通勤とか嫌だろうなぁ、とつまらないことを考えていたら目的のお店に到着。


HONDAドリーム?

ここが、お父さんがこれを買ったお店なのか。


バイク屋さんだけあって、バイクを止める場所がちゃんと用意されていて、到着するとすぐに中から男の人が出てきて


「メンテナンスノートお預かりしますね」


とか言われたので持ってきたのをウエストポーチから引っ張り出して渡す。

すぐにバイクは引き取られ整備場へ。



それを見送っていると、背後から声をかけられた


「こんにちは、今日はありがとうございます」


振り返ると、頭の少し薄くなった男性がにこやかにそこに存在していた。


誰?


と思ったが、どうやらHONDAのお店の営業の人らしい。

胸のプレートをさっと読むと茂木という名前の人らしいが。


頭が薄いからといって、年配ではないと思うけれど50歳くらいに見えてしまう。


「こんにちは」


といって、はるなっちが挨拶してる。


「お、今日は友人と一緒ですか、いいですね」


「店の中入っていいですか?」


「ええ、こちらへ。整備が終わるまでゆっくりしててください」


といって中へと招き入れられる。


中に入ると、周り中バイクだらけ。

いや当たり前なのだけれど、これだけいろんな種類があることを知らなかったのでびっくりした。


「まだ、スーフォアに乗らないんですか?いい中古車入ってますよ」


とその茂木さんは、はるなっちを中古車の置いてある場所へと案内する


はるなっちはこの店の常連って感じなのかしら。


はるなっちは早速中古車のCBが置いてあるところへ軽やかな足取りで向かい、値段やら何やら色々とチェックし始めた。


私はたくさんバイクがある


しかわからない世界なので、ぼやっとしているとその茂木さんが冷たいお茶を持ってきてくれて


「整備が終わるまでゆっくりしてください。

他の興味があるバイクとかあれば見ていってくださいね」


と高校生にも丁寧な態度を崩さない。

さすが営業職の人だわ。


私が椅子に座って一息つくと茂木さんが


「お父さんからバイクを弾きつぐ、というのはいいですね。

娘さんが乗ってくれることで、お父さんはとても喜んでいると思いますよ」


と唐突に話を始める。

そうだ、この人は父を知っているんだ、父にバイクを売った人なのだから。

私の知らない父を知っている人。


私の父が亡くなったことは前回江川さんから聞いているらしい。

そこで、バイクの乗り手がいない場合は引き取ってもらうような話をしていたらしいのだが。


「父は、どんな感じでスーパーフォアを買ったんですか?」


「どんな感じ。うーん、阿蘇に住んでいると車だけではなくバイクに乗りたくなるという話をしていて。

それで、車にメンテナンス時間が取られるから乗りやすくて、壊れにくくてそれなりにパワーのあるもので中型免許で、とそんな感じで選んだものがこれでしたよ」


割と、父は積極的にこれを選んだわけではなかったのか。


「最初は3年乗って最初の車検で手放すつもりだったようですが、たいそう気に入ってしまいまして。次の車検までの乗るつもりにしてメンテナンスパックまで加入して行きました。

乗っているとだんだん体に馴染んでくるのが、とてもいいとおっしゃってましたよ。

自分の腕に合わせて性能が上がっていくような感じがして、一緒に成長している感じがしていい、なんて言ってました。

機械や乗り物に対して、物というよりパートナーとして接するタイプの人ですね」


父がそんなに気に入っていたバイクだったのか。

車の方も江川さんなどに言わせると「かなりこだわった人」という評価らしいので、もしかして離婚の原因は人より機械をパートナーとしてしまうからではないのか。と思ってしまったりする。

でも、私は幼い頃の父の記憶を引っ張り出してくると。

そんな感じでもなかったような気がする。でも思い出補正かもしれないし。



「結果、このように娘さんが安心して乗れるようになったわけなのでよかったですよ。父の乗ったバイクに娘が乗ってくれる、というのはあまりない話ですし。

バイク乗りとしては、ちょっとした理想でもあります」


そういって茂木さんは遠い目をしている。多分自分が乗ってるバイクを娘に煙たがられているのだろうか。

私だって、普通に育っていたら父親のバイクとか乗る気はなかったと思う。

こんな特殊な状況だから、流れで乗ることになったのだし。


でも、お父さんが気に入っていたものを、私が引きつぐことができたのは良かったと思う。


「茂木さん、これちょっとまたがっていい?」


とはるなっちが声をかけたので茂木さんはそっちに移動していった。

父について、もう少し話を聞きたい気もするけど。おじさんと会話するのはそれなりに緊張するのでもう少し慣れてからにしよう。


お茶を飲み終わって、バイクをなんとなく見ていく。


CB1300スーパーフォア


これがはるなっちが欲しいっていってたやつか。

私のと同じにしか見えないけど?


隣に400が並んでいたので見比べてみると、エンジンが大きいくらいしか違いがわからない。400も1300も見た目あんまりかわらないなら400でいいのでは?


あとは、アフリカツインとかいう馬鹿でかいバイクがあって


こんなの乗ったらこける自信あるわ。


というか、誰がこんなバイクに乗れるのかと驚くところ。でも、阿蘇山でヤエー返してくれた人はこんな感じのに乗ってたな。


あとは低くて背もたれ付き集団が乗ってるような、ハーレーみたいなバイクもあるけど。


「れぶる?」


シートが低いの足がつくから女性にも人気ですよ。と茂木さんがちょっと教えてくれたけど、

足を前に投げ出して座るとか無理だわ。

250、500、1100と並んでいるけど、私には全部同じに見える。

エンジンが大きいか小さいかの違い程度よね。


あとはプラスチックで覆われた鳥みたいな顔したのとか


CBR、400とか1100とか、これもエンジンで何種類かあるのね。

数字の後についてるRの数が多い方が強いのかしら?


小型バイクのとこに行くと、可愛いのがある。

モンキーというバイクで、私はこれが良かったとちょっと思ったりした。


丸っこくて可愛い。


スクーターは乗ったことがないのでよくわからないけれど、小さいのからでかいのまであるらしい。

やっとバイクの足ブレーキに慣れてきたので、今更スクーターの両方手のブレーキに戻れない気がする。


スーパーカブもなんか色々種類があるのを初めて知った。


125ccのおしゃれなやつとか

クロスカブ、ハンターカブ、カラフルな色のカブたち。


へぇ、スーパーカブってこんなに種類あるんだ、全く違うバイクみたい。


カブに始まり、カブに終わる


という話を江川さんにしてみたら


「それは、昔スーパーカブの宣伝に使われてたキャッチフレーズで。

スーツ姿の人が朝から晩までカブに乗って仕事している雰囲気のポスターだったかな?別にバイクはスーパーカブが基本とかそういうわけじゃないよ。

でも、バイク乗りからみると一番身近なバイクがスーパーカブで、バイクの基本を学べるのもスクーターではなくスーパーカブだから、

バイク乗りの人たちがそのキャッチフレーズをもっともらしく言い始めたら広がったってことだと思うよ。

バイク玄人に受けがいいくらい、基本がシンプルなんだ」


と言われたことがある。

それくらい、多くの人に受け入れられる素性を持ったバイクってことかしら。


はるなっちから「一回乗ってみた方がいい」と言われたこともあるので、スーパーフォアに慣れてきたらちょっと乗ってみようかしら。





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