第2話 一人暮らし
今年の春は、なんやかんやで桜並木を楽しむ余裕も無くなってしまった。
遺産で家を受け継いだのは良いけれど、その手続きとかも忙しくなったし。
江川さんたち専門の人に任せてしまっても、その確認とか書類とか、よくわからないものがたくさんあって混乱してしまう。
なんかいっぱい印鑑を押した気がするけど、あれがどうなっていったのかはわからない。
そして、阿蘇に住むことになったので。
高校を転校することにして、阿蘇第2高等学校に編入することになったりする。
今までの学校とあまりレベルが変わらないようで、田舎の高校にしては進学率もいいという話。編入試験もそこそこ難しかったし。
高校を変わった理由はいくつかあって、熊本市内まで通学するのが困難なのと、前の高校では進学第一主義なところがあって私の性格に合わないとこがあったのもある。朝から課外授業、放課後も課外授業、それに部活とかしてたら家のことができないので私は部活に入ってなかった。
お母さんが仕事で遅くなるから、いつも家事は私の役目。
お母さんと過ごした家にいると、いつまでも思い出してしまうから。
家も、学校も周りの環境もすっかり変えて、心機一転!
と思い生活を始めたのは良いのだけれど、
2年から別の学校に入るというのは割とハードルが高かった。
元々前の学校でも友人というか、いつもつるんでるグループがあったくらいでそこまで親しい友人関係はなかったけれど。
今の高校では全く友人ができなかった。
元々、一人でいてもそんなに苦にならないので積極的に友人を作ろうとしないのもいけないのだけれど。
もう1年経っているからすでにある程度の派閥が出来上がっていて、そこに熊本市内の進学校から編入してきた女子というだけで距離を置かれる次第で。
2年の1学期は修学旅行とかもあって、
本来であれは楽しい時期になったのかもしれないけれど、私にとっては寂しい学生生活となってしまった。
修学旅行でのグループ活動は一応一緒に組んでくれた人はいるけれど、全て微妙な距離感。
話す程度の人はいるのだけれど、友人の範囲に入れる人がなかなかできない。
田舎の人たちはシャイだから、と江川さんに言われたこともあるけれど、なんとなくな距離感が続いて、気がつくと夏休みになってた。
親無し、同級生に親しい友人なし
それで一人腐っているかというと、そんな暇はなく。
学校ではそんな感じだったけど、家ではやることはたくさんあって。
新しい家を住めるようにしたり、いろんな道具を揃えてみたり。
江川さんが色々と書類関係で対応してくれるついでに、ご夫婦が休日にたまに様子を見に来てくれるようになって、奥様とは割と仲良くなってたりする。
江川さんにはお子さんがまだいないのだけれど、お二人とも30歳前半くらい。
奥様は「みどりさん」と言って、背が私より低く小柄で可愛らしい感じの人。
親無しの私のことを心配してくれる優しい人なのだけれど、料理はかなり致命的。
それで、料理なら小学生の時から極めている私に習いに来てたりして、休日は二人がやってきて長く過ごしていくことも、泊まっていくこともあったりする。
阿蘇に来て最初の友人が年上の女性なのだけれど、色々と話すことができる人がいるのはありがたい。
おかげで、一人で生活しててもそこまで寂しくはない。
でも、夜中に外でガサゴソ音がしたり、屋根に夜中に何か巨大なものが降りてくる音がしたりするのはドキドキする。
妖怪でもいるのかと本気で思ったこともあったけれど、近所の人から「フクロウが夜家の屋根に来ることがある」と聞いてちょっと安心した。
都会の音が全くないと、山にすむ鴉天狗とかが屋根に来てるのかとか、本気で思えそうになってしまうから。
鹿も庭先に出てくるからカメラいつも近くに置いてたりして、母の残してくれた一眼レフカメラは庭の風景と、阿蘇の風景と、鹿の写真でたくさんになっていった。お母さんは、これで私のことをいつも撮影していたのだけれど。
思いのほか大変だったのが庭の草刈り。
ほったらかしていたら、梅雨を過ぎたあたりから恐ろしいくらいに草が伸びてきて歩けないほど。鹿が食べてくれれば良いのに、いまいち減らない。
そこで、父の道具の中にあった「刈払い機」を使ってみることに。
一人だと危ないので江川さんご夫婦がいるときに使い方を軽く習ってからやってみる。
使う前に江川さんから「ゴーグルをしないで草刈ってて、飛んできたモノが目に当たって網膜剥離になった知人がいる」とか「これで毎年死人が出る」とか足が飛ぶとか恐ろしいことを言われて脅されてしまったけれど、ゆっくり慎重にすれば問題はないわ。
それにしても、江川さんは機械関係に詳しい。
「男ならこれくらい普通だよ」
と言うけれど、クラスの男子などを見ているとそんな感じではないと思うけれど。
大人になるとくわしくなっていくのかしら。
学校に行ってて、苦労した事といえば通学。
何しろ遠い。
学校近くの汽車の駅からも遠いし、家から駅までも遠い。
バスなんて1日に3本くらいしか走ってないし。
高低差が結構あるので、自転車では行きは良いけど帰りがずーっと上り坂なので大変だし。我が家のあるところは山の中腹だから、駅から家までの帰りがいつも辛い。
夏休み前、江川さんご夫婦がまた我が家に来て、庭先の石窯でピザパーティーをすることになった時。
「通学でバイク使えば良いじゃないか、16歳になったんでしょう?」
私が作ったピザを片手にビールを飲みながら、江川さんがそんなことを言う。
「バイク?私乗ったことないです」
「そりゃ免許持ってないならそうでしょう。夏休みに取りにいくといい。確か阿蘇第二は駅から2キロ以上離れているとか、通学が困難な場合はバイク通学を認めているはずだよ」
そう言われて、い思い出してみれはバイクで通学している人たちも確かにいた。言われるまで、全く気にしてなかったわ。
自分が興味ないと、毎日見かけてても気にならないものよね。
念の為手帳を引っ張り出してきて校則を調べてみると確かに条件が書いてある。
それに私は当てはまりそうだ。
「でも乗れるバイクない」
「そこにあるでしょう」
そう言って、ガレージの片隅に置いてあるカバーのかかったままのバイクを指さす。
「あんな大きいの乗ったことないです」
「これから、免許を取りに行くんだよ。教習所で使ってるのと同じだから、乗れるようになるよ。
それに、このCB400スーパーフォアは今年2月に車検を通したばかりみたいだから卒業まで乗れるよ」
江川さんは少し酔っているのか、そう言って笑ってたりする。
みどりさんは
「バイク通学とかカッコイイじゃない。さくらちゃんは私と違って身長があるから大丈夫よ」
と言って勧めてくれたりする。
どうしよう。
とりあえず、教習所に通うならお金などを調べとかないと。
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