十年前の言葉
当時大学生だった俺は、ボイドにハマっていた。ハマっていた友人から紹介されて、一瞬のうちに虜になった。
人間の力では奏でられない、機械だからこそ可能となるメロディーラインがクセになり、歌詞はぐさぐさ突き刺さるものもあれば脈絡はないがつい口ずさみたくなるようなものばかり。俺の青春、そのものだった。
気に入っている曲を聞きながら大学のレポートを書いていると、当時まだ高校生だった妹が部屋の前を通り過ぎた。
「お
「ボイドだよ」
「ボイド?」
その後に妹の口から出た言葉を、俺は忘れはしない。
——オタクの曲か。
それが、今やどうだ?
オタクの曲だとからかった妹の口から、ボイドという言葉がするりと出てきたではないか。
「ほら、最近有名な歌手が昔ボイドの曲作ってたとか、ボイドで曲作ってそれを歌う人とかよく聞くから」
知ってる、俺はその人達を十年前から知ってるんだ、妹よ。
俺は急に優越感に浸る。今まで兄のことをオタクだ何だと見下してきた妹よりも、俺の方が先を行っている、ただそれだけことで。我ながら大人げない。
「じゃあさ、
「何だっけ、歌舞伎とコラボしてるってニュースで見たけど、その子?」
妹が一咲ネネを知っている!
オタクだと言って兄を蔑むような目で見ていた妹が!
十年前では考えられないことが、今我が家のリビングで起きている!
「その子が歌ってる」
スマホで検索し、元の音源を聞かせてみる。この曲を聞くのはいつぶりだろう。就職後もたびたび聞いていたが、結婚して子供が生まれてからはめっきり聞かなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます