19話 私、男の子なんです!

「ねえ、ルディがここにいられない理由って何かあるの?」

「ここにいたいとか、いたくないとかじゃなくて、僕は家にかえりたいんだよ」


 私は、かいつまんで、アデルとスエランに事情を話した。


 7歳まで山の家で暮らしていたけれど、色彩異常が見つかって、拐われるように神殿に連れて来られたこと。

 夏至の生け贄に捧げられて、自力で祭壇から逃げ出したものの、国や領地の秘密主義のせいで、帰るべき実家の場所が、現時点では良く分からないこと。

 まずは、知り合いの医師に紹介してもらった先を頼って、実家の場所を探しながら、干渉力による治療技術を磨いていこうと思っていること、等だ。


「だったらここにいて、山の家のある場所を、ハッサン達に探してもらえばいいんじゃないの?

 やみくもに探すより、その方が絶対に確実だよ」

「それは、そうですね。

 近年の災害の影響で、小さな子どもが1人旅をするのは、全く不自然とまでは言いませんが、人拐い等に狙われ安いのは確かです。

 少なくとも、向かう先がはっきりするまでは、ここにいていただくほうが安全だと思います」


 スエランも、そう言う。だが、私はアンバルと別れた時に、ハッサンという商人には関わらないようにという忠告を受けていた。

 私は、夕方にノーリアさんが様子を見に来た時に、相談してみた。


「アンバルに、ルディを予定通り目的地に送り出す様に、頼まれているの。それに、ハッサンとルディを関わらせないようにとも、忠告を受けているのよ」

 ノーリアは、スエランにそう説明してくれた。


「ハッサン様は、我々の最大の後援者ですが……」

「そうね、でも何を考えているか分からない、野心家な所もあるから、ルディが何かに利用されないか心配していたのだと思うわ。

 でも困ったわね。私は数日後からしばらく出かける予定だし、それまでに、世間知らずのルディに旅の仕方を色々教えなければと思っていたのだけど」


 「ハッサン様は今、海外に交易に行っていて、秋以降でないと戻らないと聞いています。

 アデル様も回復してきたとはいえ、まだ、体調が万全とはいえません。

 とりあえずは、ノーリアが戻ってくるまで、こちらでルディを預からせてはいただけないでしょうか。

 ルディは、思いのほか頭が良いようで、すでに中等科の過程も大半は履修されているようです。ぜひ、アデル様に、現代の教育水準に合った学びを、ルディと共にしていただきたくて」


『思いのほか? 私、見た目的には、お馬鹿の子と思われてたの?』


 わたしはスエランをちらりと睨む。スエランは私の視線に気付いたのか、あわてて、

「い、いえ、その。ルディは見た目がかなり小柄なので、最初はアデル様よりも、ずいぶん小さなお子様なのかなとつい思ってしまっていて……

 ルディさんは治療についての知識も、一般的な教養も、年齢からは考えられないほどの、それは、それは、素晴らしい物をお持ちです」


 スエランに慌てフォローされたものの、覆水盆に帰らず、だ。



 数日後に長期出張予定のノーリアは、私を街の買い物に同行させてくれることになった。

「せめて、まともに買い物くらいはできないとね」


 ハイル先生の往診について行ったり、食堂でご飯をご馳走してもらう時などに街に行ったことはあるが、純粋に買い物だけのために行くのは初めてだ。

 神殿で暮らしている時は、神殿内の決められたエリアから1人で出ることは許されていなかった。買い物が必要なら、通販を利用して届けてもらっていた。


 この屋敷でも、配達料金を払えば、食料や日用品を届けてもらうことは可能だが、隠れ住んでいる以上、部外者を家に近づけるのは好ましくない。

 普段の食料や日用品の買い物は、ほぼゼーリアかエラナが行っているという。



 出かける直前ゼーリアが、私の頭に帽子をポンと乗せて言った。

「街に行くなら、もうちょっとしゃべり方や動き方に気をつけろよ。

 鋭いやつなら、女の子だとバレるぞ」


 私は絶句してしまった。

『え、バレてたの?』

「まあ、一緒に暮らしていれば何となく分かるさ。ノーリアとの会話のしかたとか、ちょっとした動作とかな。

 パッと見ただけじゃすぐには分からないだろうが、そもそも君は、何というか華があって、目につきやすいのもあるからな」


 ずっと、女の子らしくないと言われて続けていた私だが、アリシアや、舞や教養の先生に、口を酸っぱくして指導されていたことは、この5年間で、知らず知らずの内に身に付いていたようだ。


「他の人達も知ってるの?」

「スエラン、エラナは何となく気付いていると思うよ。

 アデル様は、ほとんど女の子と接した事がないので、多分、気付いていないんじゃないかな。むしろ本人が、女の子と間違われても不思議はないくらいだし。

 まあ、アデル様にはできる限りばらさないほうがいいな。

 これ以上君への執着が強くなっても困る」


 最後の言葉の意味はあまり理解できなかったが、私はもう少し男の子らしく見えるように、言動を工夫する事にした。

 偉そうな態度のエセ王子は悪目立ちしそうなので、神殿にいた同年代の、ウィルやサミィ達がどういう風に振る舞っていたかを思い出す。

 ゼーリア曰く、神殿の巫子達自体が、一般の子ども達とは違って、かなり上品な振る舞いをするように躾が身に付いてしまっているらしい。

 私は演技をするかの如く、一挙手一投足を男らしく見えるように、注意することにした。

 また夢の中でも、誰か男子に憑依して、動きを会得しておこう。

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