16話 美味しいご飯を下さい!

「だいぶ、痛みがましになったよ。ありがとう」


 干渉作用による治療を始めて、2時間ほどすると、かなり痛みや全身状態も改善してきたようで、少年は眠り始めた。


 まだまだ予断は許さないし、痛みや緊張が取れた事で、身体の自律神経が副交感神経優位に切り替わり、全身のショック状態がひどくなることもある。

 引き続き、観察は必要だ。


「ちょっと、一休みして、こっちで食事にしないか?」

 ゼーリアが、声をかけてくる。


 そういえば、今日は朝に軽くパンをかじったくらいで、ずっとアンバルとの別れを惜しんでいたのだ。


 部屋のテーブルに、ゼーリアが食事を並べていく。私は、看護をスエランという老人に変わってもらうと、大喜びでテーブルに付き、食事を始めた。


「いただきまー………」『……まずっっ!』

 大皿に盛られた炒め物を一口食べて、ルディコニーは絶句した。


 なんだろう、これは。一応、野菜炒めなのだろうか? 調味料の配分を間違えたとしか思えない味付けに、肉や野菜の焦げた部分と生焼けの部分が入り混じっている。

 とりあえず、食事に罪はなく、食べ物を粗末にする事は幼児期から戒められていたので、小皿に取り分けた分だけは何とか飲み下していく。飲み込む時には、あまりの不味さに、喉元がギュッと締め付けられるようだ。

 ゼーリアは、平気な顔をして、パクパクと勢いよく料理を食べていた。


 少し遅れて、テーブルについたノーリアは、料理を一口食べると、すぐにフォークを置き、怒り始めた。

「あいっ変わらずの、味音痴ね、あんた!!

 まさか、アデル様にもいつもこんな物を食べさせているんじゃないでしょうね!」

「ひどいな、姉さん。

 今日は午前中買い物に行く暇が無くて、インスタントの合成調味料を切らしてたから、とりあえず、家にある調味料を全部入れてみたんだ。

 万能調味料のケチャップやマヨネーズも入れて、隠し味にコーヒーやチョコレートも入れたし、まあ、何か好みの味が1つくらいは入っているだろう?」

「何でも入れればいいという訳じゃないのよ。

 味付けにはバランスが大事なのよ! このバカ!

 コ…ルディ、もう食べなくていいわ。

 もう無駄かもしれないけど、作り直して来るから」


 その後しばらくして、ノーリアさんによって作り変えられたカレー風の煮物が出てきた。一旦お湯で、付いていた味を洗い流して、濃いめのカレー風の味付けでごまかしたようだ。あまり美味しいとはいえなかったけれど、最初の炒め物に比べればずいぶんましな味だ。


「コ…ルディ、私はこの後用事があるから、一旦家に帰るけど、コ…ルディ、あなたはどうする?」

「どうしたんだ、姉さん。風邪でも引いたのか?」


 どうやら、ノーリアの中では「コニー」がすでに定着していたようだ。

「ああ、僕の愛称はルディですけど、名前はコルディなんです(本当はコルディーネ)。別にどっちでもいいですよ。」

「ふうん…」

 どのみち訳ありと知っているせいか、ゼーリアもスエランも深くは追及しなかった。


「僕は、夕方くらいまでは、ここで様子を見ています。遅れて出てくるアレルギー症状もあるので」

「なら、2~3日泊まっていくといい。夜中に具合が悪くなっても、ワシらではどうにもできん。

 着替えも、アデル様のお古でよければ、いくつか置いてある。

 同い年の男の子同士なら、ベッドも広いし、何ならアデル様と一緒に寝てもいいだろう」


 スエランはそう言うが、それはちょっと困る……。とにかく私は、もうゼーリアが作った、あのくそ不味い料理は食べたくないのだ。せっかくなら、ノーリアさんの家に戻って、ノーリアさんの作った美味しい料理を食べたい。


「病人といっしょに寝るのは看病もしにくいだろうから、簡易ベッドは別に用意してあげて。

 私は夕方また来るから、とにかくゼーリア! あんたは、絶対に台所に立ってはダメよ!」

 ノーリアさんが気を効かせてくれたようだ。


 その後は、交代で看病するために、順番に仮眠を取ることになる。私は子供なので、普通に夜間に眠ることになった。


 私は自分が眠っている間に注意してもらう事を伝えるために、口頭で説明しつつ、メモにも書き出していった。

 さらにコンピューターで情報を検索して、毒蛇治療やアレルギーについても調べておく。しかし、さすがにハイル先生達が読むような専門的な文献にはなかなか手が出なかった。



 夕方頃になると、「アデル様が受傷したと聞いた!」と、何人かの人が家に様子を見に来た。


 普段この家に暮らしているのは、アデルラインをのぞいては、ゼーリアとスエラン、後は昼間は商店に働きに行っているやや年配の女性だという。

 しかし、それ以外にも、ノーリアのように時々この家に出入りして関わっている人達が複数いるようだった。家も、4人で暮らしているには、かなり大きく、古びてはいるけれど、家具も上等そうだ。


『アデルの事も様付きで呼んでいるし、神殿の儀式の事もそれとなく知っているようだし、この人達は何の集まりなんだろう……』

 私の中で疑問が広がっていく。

 ルディコニーとして紹介された時も、神殿から逃げてきたということで、とても優しく受け入れてもらえた。


『まあでも、アデル様の状態が回復してきたら、私はハイル先生の紹介先に向かう予定だし、今の時点ではあまり深入りしないほうがいいだろう。』

 私はこの時、気楽に考えていた。

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