[神殿の回想18]9歳になりました

 コニーが神殿に来てから、2年が経過し、先日9歳の誕生日を迎えてから数ヶ月がたった。



 コニー達のいる宿舎には、幼児用の宿舎から、順次6人ほどが移ってきており、代わりに年長の子達が年長用の居住スペースに移動していった。


 新しく来る子達は6~7歳くらいで、赤ちゃんの頃から神殿で生活していた子達がほとんどだ。


 中でも、去年来たエリナーという、コニーより1つ年下のアイスブルーの瞳とプラチナに近いブロンドの髪をした女の子は、特に印象深い子だった。

 色彩的にも、コニーと同じくらい珍しい上に、子どもなのに瞳の色と同じくらい冷ややかな視線をしていて、表情に乏しく、ほとんど笑わないししゃべらないのだ。

 クラスの皆とも関わりを避けている様子だった。


 彼女は、火や風に対する干渉力が高いといい、強風の時の風避け、火災現場の鎮火といった訓練を主にしていた。

 今後は、領地で起きた山火事の対応に派遣される事もあるらしい。


 コニーは、何となく彼女の事が気になりながらも、日常的にほとんど接点がなかった。

 エリナーは、愛想良く振る舞うどころか、ほとんど他人とのコミュニケーションが成り立たないという理由で、パーティーへの出席許可が出ていないままだった。


「全く、コニーと同じくらいか、それ以上の問題児なのよねえ……」

 アリシアがぼやく。


 アリシアは、神殿の管理課から、祭事やパーティーを企画▪運営する、祝祭課に異動になり、以前のようにベッタリ私を監視や教育する事は無くなったが、パーティーの時などに、時々様子を見に来ていた。


 相変わらず、会う度に、

女の子らしく振る舞うように、

パンツが見えるような動作はしないように、

髪の手入れをちゃんとするように、

お小遣いを全部お菓子に使わないように、と注意していく。



 同室のロゼッタは、教育や雑務など日常の活動ではほとんど会う機会が無いが、夜に部屋に帰って来た後などに、一緒に夕食を食べたり、その日の事を楽しく語り合ったりした。


 ロゼッタは、私の誕生日に1枚の小さな水彩画をくれた。

 それは、私から聞いた山の家の話を元に、緑の山や田畑、木や草花に囲まれた、小さな家の絵だった。

 もちろん、故郷の風景とは大分違うけれど、故郷を思い出す物を何も持っていなかった私はとても感動して、じんわり涙が溢れてきた。

 見ていたロゼッタも、とても嬉しそうにしていた。

 私は枕元にその絵を飾り、毎晩その絵を眺めては、家に帰る決意を新たにするのだった。


 ロゼッタは、ずいぶん朗らかになり、雲を呼ぶのにもかなり慣れて来たそうで、干魃の領地に派遣されることも度々あった。


 豪雨は、なかなか事前の予測やタイミングを合わせるのが困難なので、習得や活用が難しいという。

 むしろ、土に対する干渉力がある巫子や元巫子が、土砂崩れを防止するために、事前に地固めで応急処置を行う事の方が多かった。



 多くの巫子は、多少の干渉力はあっても、緊急時に活用できるほどの大きな力はない子が多い。

 また、神殿からは、指導や監視無しに、勝手に干渉力を使う事が禁止されていて、見つかったらしばらく地下牢に入れられるなどの、厳しい罰則がある。


 また、干渉力そのものを持っていたり、大きな干渉力が発現するのは、女の子が多かった。

 ハイル先生は、干渉力は遺伝子のX染色体に付随する事が多いのが原因だろうと言っていた。



 学校は、去年中等科に編入したが、元々学習過程がかなり先に進んでいたので、週1回午前中の通学ペースは変わっていない。

 課題でどうしても必要な時は、週1日の休みに追加で出席していた。


 学校以外の午前中は、相変わらず神殿の雑務として、月に2日ほど調理部門を手伝い、残りは治療院でハイル先生の診療補助をする。

 たまに、午後からの手術に参加する時は、代行で午前中に休みをもらうか、アンバルに頼んで、祈神舞の稽古を午前中にずらしたりした。



 祈神舞の練習は、ようやく大技の練習や披露をさせてもらえるようになってきた。


 床を連続で跳んで、途中でひねりを入れた宙返りを披露したり、アンバルや、体格の良い男の子の上で倒立をしたり、肩の上で片足で立ってバランスを取ったり、1回転宙返りをして受け止めてもらったりするのだ。


 本当は、ロープを使った空中技も練習する予定だったのだが、最初の練習後、しばらくお預けとなってしまった。


 私は、ロープを身体に巻き付けてスイングする快感に夢中になり、アンバルが静止する間もなく、いきなりやり過ぎた私は、遠心力の勢いでロープから手を滑らせてしまった。

 練習の時、ロープの下にはトランポリンが置いてあるが、このままでははみ出して落下してしまう!

 咄嗟に私は、全身に思い切り力を込めて身体をひねり、かろうじてトランポリンの端に体幹で着地した。


 しばらくポンポン身体が跳ねた後、起き上がろうとしたが、何だか力がうまく入らない。全身の筋肉が痛み、胸がドキドキしている。


「何をやっているんだ、この馬鹿!! 

 最初は、空中で安定した姿勢をとるだけだと言っただろう!!」


 大声で叱りながらも、私の様子を心配したアンバルは、私を治療院に連れていってくれた。


 そこで、私はハイル先生にもみっちり叱られた。


「君は、無意識に身体機能のリミッターを解除しただろう。

 変異種の、特に細胞変位が強い種は、その能力が出やすいと言われている。

 でも、その力は使わないように気を付けないといけないよ。

 身体に過剰な負担がかかって臓器を傷めるし、特に成長期の場合は成長を阻害する事になるからね。」


「えっ? 私大きくなれないんですか? 

 そ、そんな……」


「ただでさえ、細胞の成長が遅い所に、無理をするとますます成長が遅れることになるんだよ。

 だから、リミッターの解除はしないように気を付けなければならない。

 分かったね。」


 私は、ブンブン首を降って頷いた。

ただでさえ小さいのに、これ以上大きくなれないと困る。

エセ王子にも、いつまでも勝てないではないか。


 私とエセ王子の模擬試合は、今もまだ続いていた。


 木刀での稽古では、なかなか勝てない私だが、最近、夢の国で2つほど必殺技を習得したのだった。


 ふっふっふ、今度こそ、奴をコテンパンにのしてやるのだ。

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