[神殿の回想20]ポンコツ認定
私は、ベリーダンスを踊る準備をして、意気揚々と、エセ王子と闘剣をするいつもの場所に向かった。
踊る場所を決めて、音楽の準備をしていると、エセ王子とお付きの人がやって来た。
「約束通り、今日は女らしい踊りを踊るわよ。」
エセ王子は、鼻でフンと笑う。
「お前に女らしい踊りなんて、踊れるわけないさ。」
私も、フフンと鼻で笑い返す。
「その言葉覚えてらっしゃい。今回の踊りは大傑作なんだから。」
私は、音楽を鳴らし始め、裸足になると上着を脱いだ。
大地を踏みしめるように、時には重く、時には軽快に、音楽のリズムに合わせてステップを踏む。
……夏至の奉納舞に似た所もあるな。もし、また踊る機会があれば、奉納舞にも生かせそう……
そして、身体や手足、特に腰はしなやかに、華やかにくねらせて踊る。
そしてお腹は、膨らませたり、へこませたり、波打たせたり、さすがに筋肉プルプルはできないけれど、音楽に合わせてリズミカルに動かしていく。
ペインティングしてお腹に描いた顔は、お腹の動きに合わせて、千差万別な表情をする。これぞ、総合芸術だ。
全身の動きに、ステップ、お腹と、気をつける部分が多いので、かなり集中力が要求される。
しばらくして、ふとエセ王子の方を見てみると、奴は地面を転げ回って爆笑していた。
せっかく、入念に準備と練習をした踊りを見ずに、笑い転げているとは、何て失礼な!!
エセ王子は、チラリとこちらをみると、また地面を叩いて、笑いはじめた。
うーん、なんか『箸が転げても可笑しい』年頃というものがあるらしい。王子はお年頃なんだろうか。
お付きの人を見ると、石像のように固まっていた。
もしかして、私の踊りに感動してくれている?
さらに踊り続けていると、
「いったい、お前は何をしているんだ!!!」
背後から、聞き慣れた怒声が聞こえたので、振り返ってみると、そこにはアンバルが立っていた。
「ああ、師匠。私のベリーダンスはどうですか?
なかなか良い感じに仕上がったと思うんですけど。」
「良い感じが、聞いて呆れる。今すぐ、そのふざけた腹踊りを止めるんだ!」
ええ?! ひどい!
と、思う間もなくアンバルは、脱いで柵に掛けておいた上着で私を簀巻きにして、担ぎ上げる。
「王子殿下、見苦しいものをお見せして、失礼いたしました。」
私を担いですたすた歩き始めたアンバルは、連絡機でアリシアに連絡を取っていた。
……わ、私の、今日のおやつが! 今日はまだ、おやつを貰っていないのにー……
私は、哀愁のこもった瞳で、エセ王子とお付きの人をじっと見つめる。
「あ、あんまりそいつを怒らないでくれよな。
近年まれにみる傑作を披露してくれたし。」
……ほら、エセ王子も評価してくれているじゃん……
「品格の求められる巫子である以上、やって良い事と悪い事があります。
ご心配なく、言い聞かせるだけで、体罰は加えません。
せいぜい、夕食抜きにするくらいです。」
……そんな! おやつだけじゃなくて、夕食も抜きだなんて酷すぎるよー!!……
心の叫びは無視されて、私はアリシアの待つ寄宿舎の事務所に連行されて行った。
「いったい全体、どうしてこんな事を思いついたの?!
お臍を丸出しにするだけじゃなくて、可笑しな顔まで描くなんて……
品格を重んじる司祭長にでも見つかったら、一大事になるところだったわよ。」
私は、アリシアとアンバルを前に、事務所の床に正座をさせられていた。
「これは、王子の要望に答えた女らしい踊りで、しかも造形美術を融合させた、画期的な総合芸術なんです。」
私は力説したが、二人には理解してもらえなかったようだ。
「女らしいとか、総合芸術な訳があるか!
どう見ても、不気味な腹踊りだ。
大体お前は、飛び級で中等科に進学して、ハイルの小難しい講義を理解するだけの頭脳と、並外れた身体能力を持ちながら、ど、う、し、て、そういう感性だけはぶち壊れているんだ!」
そんなことを言われても……と、私は理不尽に感じたが、今後二度と、
お腹に顔を描かないこと、
お臍を見せて踊らないこと、を約束させられて、私は二人にポンコツ認定された後、解放された。
その日は、アンバルの宣言通り、夕食は抜きで、変わりに味気ない栄養剤が当てがわれた。
私はしくしく泣きながら、夢の国に美味しいご飯を求めて旅立って行く。
今日は、色々お洒落なお店に美味しい物を食べに行っている、女子会おばさんに憑依してみる。
女子会おばさんは、いつものように女性の友人達と楽しく喋りながら、ランチを平らげていく。
今日は、生のお魚にオイルをかけた物と、ハムで果物を巻いた物、小さなキッシュのような物を彩り良く盛りつけた前菜が出てきた。量は少しずつだが、どれもお味は絶妙だ。甘さや辛さが素敵なバランスを保っている。
スープは冷たいポタージュで、カボチャの味がした。これも甘すぎず、ベースのスープに出汁の旨味が効いている。
メインディッシュは、中央がピンク色をしていて、柔らかいのに噛みごたえのある、ローストビーフだった。噛みしめると、じんわり肉汁が染み出てくる。
夢の国は、とにかくお肉が美味しい。培養肉とも野生の肉とも違い、臭みがなくて、とろけるような味がするお肉が多いのだ。
最後は、ふわふわのシフォンケーキに生クリームがかかっていて、苺味のさっぱりしたアイスクリームが添えられていた。
私はご馳走を堪能するだけすると、いつもはさっさと引き上げるのだが、その日は何となくおばさん達の会話を聞いていた。
話している内容は、言葉が違うのでほとんど分からないのだが、おばさんが自慢気に手にしていたアクセサリーが気になったのだ。
それはビーズで作られた、犬やウサギだった。どうも、子どもか孫にプレゼントしてもらったらしく、別途、動画も見せてくれる。
私がビーズ細工に目をつけたのは、ロゼッタの誕生日プレゼントを何にしようか悩んでいたからだ。
ロゼッタは、私の誕生日に心のこもった水彩画をプレゼントしてくれたので、私も彼女に、何か手作りの物を贈りたかったのだ。
神殿で見る限りでは、ビーズは刺繍では使われるけれど、細工物になっているのは見た事がなかった。
ロゼッタにあげるには、なかなか良いのではないだろうか。
翌日以降、私は夢の国でビーズ細工作りを体験していった。物覚えは良い方なので、1度か2度体験すれば復元できそうだ。
ちなみに、エセ王子のお付きは、置き去りにしていた音源の再生機や靴と一緒におやつを届けてくれた。頼りない時もあるけれど、とてもいい人だ。
私はその後、通販で大きめのビーズをいくつか購入してみた。通販でお菓子以外の物を買うのは久しぶりだ。
合成糸は服飾課にあるので、少しなら分けてもらえる。
そして、私はビーズで二匹の犬を作り上げ、手の込んだ白と茶色のぶちの犬をロゼッタの誕生日に、試作品の茶色一色の犬をエセ王子にプレゼントした。
ロゼッタはとても感動して、喜んでくれた。
エセ王子も、何だか照れくさそうに、茶色の犬を受け取ってくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後……
「わあ、ロゼッタ、それなあに? 見せて、見せて。」
「まあ、可愛い。どこで買ったの?」
コニーがいない日の教室で、女の子達がロゼッタがカバンに着けたビーズ細工に群がっていた。
ロゼッタは、その後、コニーにビーズ細工の作りかたを教えてもらい、教室の女の子達にも教えていった。
神殿発祥のビーズ細工が、数年後、王国でブームになる事を、この時のコニーは知るよしもなかった。
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