[神殿の回想16]夏至の生け贄の選抜 988年
神殿の高位司祭達は、テラカルタム歴988年の、今年のうるう年の夏至の生け贄の選抜について、話し合っていた。
「候補としては、予定通りマレーナか。」
「彼女の舞は定評があるしな。
今回、いきなりアクロバットを加えるのは難しいそうだが。」
「彼女は雨呼びもできる器量良しだから、南方の領主が欲しがっていたぞ。
かなりの条件で取引できそうだ。
他の候補ではダメなのか?」
「リラは干渉力はなし、祈神舞は見ごたえがあるが、普通の舞は品格がかなり劣る。
髪の色もどちらかというと茶色寄りだ。
舞については、4年後にはもう少し仕上がりそうだか。」
「3人目の小さい巫子は?」
「あれはまだ、小さすぎるし未熟すぎて、いくらなんでも品格が無さすぎる。
問題外だ。」
「身体的条件は揃っているので、4年後までにスパルタで詰め込み教育をして、何とかしたいという所だな。
一応、干渉治療ができそうなので、そこまで慌てて処分を早まる必要もないだろう。」
「何でも、エセル王子が気に入って、色々かまっているとの噂が在りますが……」
「第3王子の意向などどうでも良い。
どうせ悪がき同志で気が合い、物珍しくて構い倒しているだけではないか。」
「王子の巫子についての意向はどうでも良いが、その巫子が急に姿を消すと、王子が後であれこれ騒ぎたてる可能性がある。
立場上、行き先を隠し切るのは難しいし、四季の儀式については、まだ幼いエセル王子には受け入れが厳しいだろう。
せめて、不妊処置が宣告される15歳くらいまでは、彼には隠蔽しておきたい。」
「残念だが、マレーナで決まりという所か。」
「雨呼びには、今訓練中の巫子がいる。
他の面はかなり不器用だが、干渉力についてはそれなりに活用できそうだ。」
「下手に器用で知識がある子よりも、それぐらいのほうが干渉力は扱い安い。
ほどほどに教育して、雨呼びの能力に特化させたほうが、神殿にとっても、本人にとっても良いだろう。」
会議の片付けが終わろうとする中で、
司祭長テラーモの脳裏に、小さな巫子コニーの姿が浮かぶ。
輝く黄金色の髪、数多くのつむじ、深い青をベースにして、緑や金、褐色等様々な色を映し出す瞳、透き通るような白い肌に、均整の取れた顔立ち。
成長期を過ぎたら、いったいどれくらいの美姫に育つというのだろうか。
たが彼女は、この国にとって危険因子でしかないことを、司祭長は本能的に感じていた。
太古の昔については、未だにデータが十分に揃わない。
幻の平和を維持していた大昔、クリスパー技術をきっかけに急速に遺伝子組み換え技術が発展した。
一般の倫理論や法的規制の間に合わない内に、密かに様々な理想の子どもが産み出されようとした。
多くは人の形が取れなかったり、生存能力が維持できなかったりで、密やかに死亡あるいは処分されたが、希には成功例と言われる個体が、発生したという。
人造宝石を作るかのような、様々な瞳の色。
花の色を変えるように、変色を試みた様々な髪の色。
さらに、理想を求めた人類は、単に見た目だけではなく、知力、身体能力の理想化や、本来人間が持つはずではなかった能力すらも追い求めるようになった。
それは結局、当事者本人にとって幸か不幸かはともかくとして、そういう子を持つことができるという親と、製作する技術者側の自己満足に過ぎなかったが、一部では密かに流行していった。
そんな、本来神の領域にまで手出しをした人類に、地球の神がお怒りになったのだろうか。
その後、地球には繰り返し大きな災厄が起き、人類は長い眠りに入った。
目覚めた後は、幾多の時が過ぎ、遺伝子操作の細かい特殊な技術はすでに失われてしまっていた。
しかし、操作された遺伝子の一部は、もはや排除できないほどに、人類の遺伝子に深く組み込まれてしまっていた。
多少の色彩異常や身体、知力が優れているくらいなら大したことではない。
色彩異常に付随する例に多いのだが、希に、とんでもなく干渉力の高い個体か出現することがある。
場合によっては一国を変えるほどの力になるほどだ。
干渉力の中でも、時に警戒が必要なのは
「精神干渉」、生物の精神力に働きかける力だ。
虫や小動物程度なら、まだ便利な機能として、利用価値が多い。
しかし、万一人間に作用するような大きな力を見せる気配があったなら、即刻処分せねばならない。
神殿は全国から要素のありそうな子どもを集めて来て、能力を監視し続けてきた。
ほどほどの干渉力であれば、適度にコントロールすれば、利用価値も高い。
四季の儀式の詳細を知らない多くの親は、実家より良い暮らしを送り、高度な教育を受けることができ、将来の就職先もほぼ保証されているという、神殿に喜んで子どもを差し出した。
ただ希に、コニーのように、どうしても手元に子どもを置いておきたくて、隠し続ける親もいるにはいるのだが。
あの娘は、ほぼ干渉能力がないとの報告だったが、はたして実際のところはどうなのだろうか……
後日、干渉治療の能力を持っていたということも判明している。
いずれにしても、今年は無理そうだか、早々に何らかの手段で、彼女は処分した方がよいと、彼の本能が囁いている。
あの美しいが不気味な子ども。
変異種は細胞が育つのに時間がかかり、普通種より成長が遅い例があるという。
しかし、その分、知力、身体能力は通常に比べてかなり高くなる事がある。
目先の言動の奇行に気を取られて、忘れられがちだが、あの娘は、やけに身が軽く、7歳とは到底思えないほどの受け答えに、豪胆力もある。
あれに加えて、強い干渉力まで育ってきたとしたら……
彼は背筋が寒くなってきた。
後、12年で、テラカルタム千年期の節目が来る。
それまでに、あの娘はなんとしても排除しておかなければならない。
千年の節目には、自分は御神体が喜ぶ最上級の冬至の生け贄として、自らを捧げるつもりだった。
そのため、これまで日々の精進や、品格を上げるための鍛練を欠かさず行っていた。
司祭長であり、メタリックグレーの瞳をした彼は、誰よりも、神殿における自分の役割というものを、理解していた。
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「悪がき同志で気が合い……」
エセル → ( ̄□ ̄;)ギクッ! わ、悪がきだなんて! 僕は王家の品格ある、王子だぞ!
コニー → (¬_¬) 気が合う? 私が、冷たいアイスが食べたい時に、熱々の肉マンを持って来るような人は、気が合うとは言いません。
(もちろん、もらったものは食べますけど。)
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