間話【治療院の仕事1】手指衛生と感染防御
コニーが手伝っている、治療院のハイル先生による基礎医療編です。
大筋には影響がないので、興味のない方は読み飛ばして下さい。
また部分的に、現実と未来予想が混在していますのでご注意下さい。
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コニーは学校や神殿の雑務や舞台、パーティーのない日、週に4日ほどの午前中は、ハイル先生のいる治療院に、手伝いにいくことになっていた。
手伝いとはいえ、最初は何も手を出す事ができず見学のみだ。
患者への、正しい触りかた、関わり方を確実に覚えるまで、患者には一切触れてはならないと、ハイル先生が言明したからだ。
コニーは今、他の医療助手や看護師に、確実な手洗いの仕方と清潔物品の取り扱い方を学んでいた。
マスターできるまでは、通常の仕事はお預けだ。
手の洗いかたは、水道の水と石鹸でシャバシャバ、ハイ、終了などでは駄目である。
よく泡立てた石鹸で(洗剤は皮膚のバリアを壊さないように、個人の体質にあった成分が調整されたものを支給されている)、手のひらや手背だけでなく、各指の付け根、関節の節の間、爪の周囲、親指や手首も見逃さないように順番に丁寧に、洗っていく。
水を流す時も、最後は指先に汚れた水がかからないように注意するのだ。
最初は大変に思えるが、慣れてくれば比較的手早くできるようになる。
手洗いが慣れてくれば、今度は比較的短時間でできる手洗消毒の練習を行う。
これは医療においての基本中の基本で、医療者が患者にばい菌を媒介して感染させないことはもちろん、自分も含めて、医療スタッフに感染を広げないという大きな意味があった。
ばい菌は小さすぎて目に見えないので、どこにいるかが分からない。
ばい菌が、侵入しやすい経路としては、目、口、鼻があり、仕事中には安易に顔を触ってははならず、感染が不明な患者に接する時は、特殊なフェースシールドや高機能マスクで顔を覆い防護する。
大きな病院や治療院では、この時代ある程度はロボットが代行してくれるが、往診で行く小さな治療院や救護所では、ほぼ医療者が行わなければならない。
手洗いを覚えたら、その次は、その場の必要に応じたエプロンやキャップ、マスク、手袋の選択になる。
日常使いからはじめ、手術などを行う高度な清潔区域で使用するものなと、種類も装着の仕方も様々だった。
ようやく防護具の扱い方を覚えたら、次は治療院にある機械や物の触りかたになる。
素手で触っても良いもの、手袋や袋越しに触らなければならない物、触ると怪我をするかもしれなかったり、壊れやすかったりで、慎重に触らなければならない物等様々だ。
「とにかく、君は好奇心が強そうなので、治療院の機械、器材を勝手に触ったりしないように。」
ハイル先生には、厳密に言い渡された。
器具の消毒やゴミの捨てかたも様々あり、基本はロボットがやってくれるが、全部一緒に出してしまって良いわけではなかった。
ようやく、治療院に少し慣れて、待ち合い室を見学していると、上品な奥様が声をかけてきた。
「あら、小さなお嬢ちゃん。
お手伝いなの? えらいわね。
こっちにいらっしゃい。
ちょうど、ここに、美味しい飴があるからあげましょう。
はい、あーん。」
奥さんは、袋から飴をつまみ出して、コニーの口の中に入れた。
「あーん……んぐんぐ……
甘くて美味しいです。ありが……」
コニーはハイル先生につまみ上げられた。
「ちょっと奥様、失礼いたします。
仕事中の職員の飲食は禁止されていますので。」
「あら、そんな……ごめんなさい……」
コニーはハイルに近くの小部屋に入れられる。
「君は、私や看護師の話を聞いていなかったのかい?
口から入る物については、感染のリスクがあるとあれほど言っただろう。
ここはパーティー会場やおやつを食べる宿舎ではない。
患者は善意でくれたとしても、もし感染症にかかっていたらどうするつもりなんだ。
それに、治療院での飲食は決められた場所できちんと手洗いして行わなければ駄目だ!」
治療院は様々な医薬品もあるので、決められた場所での飲食が基本だという。
「そんな、悲しそうな顔をするな。
宿舎に帰る前に、外の屋台で何かおごってあげるから。」
寄宿舎に帰る前、ハイル先生は、治療院の近くの広場に出ている屋台で、鳥の串焼きをおごってくれた。
屋外だから、多少砂ぼこりもあるし、虫も飛んでいる。
手を十分に洗う場所があるわけでもない。
ハイル先生も美味しそうに、キラキラと肉汁の滴る炭火の串焼きを頬張っていた。
「肉を食べる時は、十分火が通っているものを選ぶんだよ。」
ハイル先生は潔癖症というわけではなかった。
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