[神殿の回想15]人生初のいじめっ子

 「それで、今日はいったい何をしに来られたのですか?」


 全く無視するわけにもいかないので、私はクソガキのエセ王子に尋ねる。


「お前、また最近パーティーに参加していないだろ。 

 いちいち確認するのが面倒だから、俺のほうがこっちに来てやった。

 俺もパーティーとか、色々面倒くさいし。

 それに、パーティー会場じゃ『カンフー』とか変な踊りは、するなって言われるしな。」


……来てやったとかじゃないんだよ! 

私のほうは、金輪際邪魔されたくないから、来てほしくなかった……


 私はエセ王子を、にらみつける。


 私の意図は多少伝わったのか、エセ王子は少し気まずそうに目を反らした。


「私は、これから大切な稽古の時間なのです。

貴方の勝手でその時間を取り上げないでください。」


「わ、分かったよ。

 練習の邪魔はしないし、見ているだけならいいだろ? 

 練習が済んだらちょっとだけ俺の相手をしろよ。」


「相手って、何ですか?」


「カンフーで、俺と戦えよ。」


……はあ? 何を言っているんだこいつは。


 なんだかもうどうでも良くなったわたしは、舞の練習場に行き、先生に、王子が金魚のフンのようにくっついて来ていることを一言断って練習を始めた。


 先生は立場上、何も言えないようだ。


 張り付けたような笑顔を浮かべ、いつもは優雅で隙のない動作が何だかギクシャクしている。


「お…ほほほ、どうぞご自由に見学して行って下さいませ……」



 今日は午後いっぱいが優雅な舞の練習時間だ。


 優雅な舞は、最初のうちは柔軟や基本の動作で身体を慣らしていく。


 エセ王子は見ていてすぐに退屈したのか、終了時間を確認してからどこかに行ってしまった。


 身体が馴染んできたら、私は他の2人の女の子と共に、別室で夏至に向けた特殊な舞を練習しはじめる。

今年の夏至は、うるう年という事もあり、特別な舞が奉納されるらしい。


 当日は3人のうちで、一番上手に舞える子が、選出されるとのことだった。


 マレーナという17歳の子は、普通は特権階級から選ばれるような、舞台のソロを踊ることもあるくらいの実力の持ち主だ。

 動作の一つ一つにメリハリがあり、気品に満ちている。


 もう1人のリラという13歳の子は、共にアンバルから祈神舞を習っている子で、きびきびした動きで、ステップを踏む。


 2人共、黄色い長い髪をしていた。

夏至の舞には豊穣を表す黄色や金色の髪の踊り手がふさわしいらしく、私もそれで候補の1人になったという。


 ただ、私は2人に比べてかなり身体が小さく、舞を始めてからの日も浅いので、技術も表現力もまだまだだ。


 おそらく今年は選ばれずに、何かあった時の補欠としての練習らしい。


 夏至の舞は、普段踊る優雅な舞に比べるとかなり特殊だった。


 普段の舞は、身体の重さを感じさせないように、蝶々のごとくふわふわと軽やかに舞うのが特徴だ。

 一方、夏至の舞は大地に祈りが伝わるように、舞台を踏みしめるようにして、力強いステップを複雑に組み合わせて踊る。


 私には、むしろこちらのほうが踊り易かった。



 ようやく練習が終わる頃、エセ王子がやってきた。諦めて帰ったと思っていただけに残念だ。


「お願いですから、奇声をあげるのは止めて下さいね。」


 王子の気の弱そうな付き人が、申し訳なさそうに、こそっと私にささやく。 

止めろというなら、クソガキのほうを止めてほしい。


 エセ王子は剣に見立てた、棒を持っていた。

 こっちは素手で身体も大分小さいというのに、ハンデがありすぎるんじゃないか? 


 いじめだから、こんな物なんだろうか。


「そっちは武器ありなんて、不公平ですよ。

 私にも何か武器を下さいよ。」


「今度は何か用意してやるよ。

 これオモチャの剣だから。

 当たっても大して痛くないし。」


 よし、そっちがその気なら、「今度」なんて言葉が出ないくらい全力でやらせてもらおう。

 いじめになんか負けるものか。


 30分後、2人はゼイゼイと肩で息をしていた。


 私は必死で蹴りや突きを繰り出したが、見よう見まねの独学で、実戦経験は皆無に近いのだ。

 手足も短いし、当たりそうでなかなか当たらなかった。


 それに、午後いっぱい舞の練習をした後での対戦はさすがに辛かった。


 エセ王子はオモチャの剣で防御しながら、私の攻撃をかわしていく。

 オモチャでスカスカの剣とはいえ、まともに当たるとやはり痛い。

 攻撃に集中していると、痛み止めのおまじないもなかなかかけられないのだ。


 そろそろ夕食の時間で、お腹も空いてきて……

私は急に頭がふらついてパタッと倒れてしまった。


「……おい、……おい、大丈夫か?」


 気がつくと、私はエセ王子とお付きの人に抱え起こされ、心配そうに覗きこまれていた。


「ごめん、ちょっとやり過ぎたみたいだ。

 これ食えよ。

 甘い物、食ったらちょっと元気が出るかもしれない。」


 エセ王子は謝りながら菓子パンと水筒を差し出す。


 私はにっこり笑ってパンにかぶりつき、大きな目を見開いた。


 一瞬、エセ王子がどんな白馬の王子様よりキラキラと輝いて見える。


 しっとりしたパンの生地の中には、ふわふわとトロトロの甘いクリームが二層重ねで入っていた。


 お腹が満たされた後、私は念のためにお付きの人に背負われて寄宿舎に戻った。



 その後エセ王子は、私の週1回の音楽のレッスンが終わった後にちょいちょい現れるようになった。


 格闘技の相手をさせられたり、色々なダンスを踊らされたりする。


 その代わり、パーティーで変なちょっかいをかけてくる事はあまり無くなった。


 そして、来る時には必ずおやつを付き人に持たせてくる。

 給食ロボットが付いてきて、出来立てのホヤホヤを食べさせてくれる事もある。

 寄宿舎の食事や、僅かなお小遣いのお取り寄せでは食べられないような、豪華で美味しいお菓子。

トロトロのチーズに盛りだくさんの具が乗った、熱々のピザなどだ。


 まあ、模擬戦やダンス自体は嫌いではないし、いつか神殿から逃げ出して家に帰る時のためにも、強くなれるものならなっておきたい。


 せっかくだから、豪華なおやつも食べれる機会は逃したくない。


 私は強くなるために、夢の国でカンフー以外にも、様々な格闘技を体験していった。

 身体が小さいので、なかなか相手に手足が届かないが、技は増えているはずだ。


 変わりにエセ王子の動きもどんどん素早くなってきていた。


 お互い技を磨きながら、季節は過ぎていった。


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やっぱりコニーはチョロく餌付け……

いや、逆に王子をパシりにしているような気がしないでも……


★を頂いた方、ありがとうございます!


これからも頑張って面白いものが書けるように精進します。

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