[神殿の回想14]クソガキのエセ王子
私は、謹慎以外の処罰はされなかったものの、パーティーには出禁となった。
でも、あのクソガキエセ王子に二度と会わなくても良いなら、むしろありがたいといえる。
私はその後、
「もう一度、ちゃんと覚えなさい」と、
王族関係者の写真を見せられたのだが、そこに載っていた『エセルバート第3王子』は、栗色の髪と目に、素直そうな表情をした、大人しげな男の子だった。
ダークがかったブロンドに、好奇心に光る紺色の目をした偉そうなあいつとは断然違う。
……何これ! 詐欺じゃん、写真詐欺!
雰囲気だけではなく、顔立ちも何となく違って見えた。
「王族関係者や上級閣僚はね、暗殺ロボットを防ぐために、動く画像は掲載や放映禁止で、写真も身体的特徴を、出来るだけ修正して掲載しているの。」
……それって見せてもらっても、意味無いんじゃないの?
確かに、実際目にした国王夫妻も、山の家で時々目にしていた写真とは、どことなく雰囲気が違って見えた。
夢の国では、時々何人かで小さなブースに入り写真を撮った後、目をいじって大きくしたり、口や顔の形を変えたりしていたけれど、あんな感じなんだろうか。
私は1週間、仕事も学校も習い事も休み、教育担当のアリシアに、目上の方々への正しい対応をはじめ、延々行儀作法を習わされた。
「これがちゃんとできない限りは、もうパーティーに出ることはできませんからね」
と、同じ事を何度もやらされる。
実際、パーティーなんぞどうでも良い。
上等の厚切りのステーキや珍しいご飯は食べられなくなるが、毎日の食生活で何とかそれなりのご飯はもらえている。
いざとなれば夢の国で、ラーメンおじさんやじょしかいおばさん達について行けば、美味しい食べものの、味だけは堪能できる。
私は、今後二度と鬱陶しいドレスやリボンとやらを飾りたくられる、面倒くさいだけのパーティーなどに主席するつもりはなかった。
ふわふわした格好をするといっても、優雅な舞の群舞は、主役を引き立たせるために、衣装はかなりシンプルだし、祈神舞は、身体にピッタリした伸縮性の良い服を着るので、全く問題ない。
パーティーには出なくていい!!
そう、確信していたのだが、あのクソ王子が今度はいつ私が出てくるのかと、しつこく訪ねてくるのだそうだ。
また、他のパーティーの出席者達からも、祈神舞を踊った小さな子に会ってみたい、と要望がくるらしい。
パーティーとは別に、神殿の屋外の大広場や劇場の中で、儀式や祭事の度に舞や音楽は奉納される。
春分のお祝いの場で、祈神舞を披露した後、私は夕方のパーティーに久々に参加させられた。
できるだけ目立たないように、密かに会場に隠れていたのだが、すぐにクソ王子に見つかってしまった。
「おい、この前のカンフー、またやってみせろよ!」
「人前でああいう見苦しい事をしてはならないと、きつく叱られ……」
「俺がいいといえば大丈夫だよ。」
「エセル王子、あれはちょっと……ここでは駄目です。」
王子の後ろに使えていた付き人がたしなめる。
というか、付き人がいるのなら、こいつを私に絡ませないでほしい。
だが私の願いはむなしく、スカートこそまくられなかったものの、私が反抗できないのをいい事に、しつこく何度も髪飾りや髪の毛、服の帯や裾を引っ張ったり、顔や身体をつつかれたりされた。
出来るだけ素早くかわすようにするが、表だった反撃ができないだけに限度がある。
他のおじさん、おばさん達も、王子がいるせいで見て見ないふりをしてそばに寄ってこず、ご馳走の味見の声もかけてこないので、私は悲しく料理を眺めるだけだった。
それに気付いたのか、
「これの味見をしろよ」と王子が小皿を差し出す。
だが、いざ私が食べようとすると急に皿を取り上げて私の手の届かない所に持ち上げ、
「3回廻ってワン!と言ったら食わせてやる」とか、「今度はお手をしろ」とか、
「食わせてやるから口を開けろよ」と言って、無理やり口の中に詰め込んだりするのだ。
ヘルプミー! だれかこのクソガキ王子をどこかに連れて行ってくれ!
私の心の声が聞こえたのか、お付きの人が、
「コニーさん、そろそろ舞台の時間だそうです」
と呼びにきてくれて、私はようやく解放された。
私は楽団の裏手にむかう。パーティーの合間に交代で小さな舞を何度か披露することになっているのだ。音楽や花と同じで、鑑賞する人がいてもいなくても、その場に華を添えるために踊る。
その次の小さなパーティーでも、やはりエセ王子はうざかった。
今回は2等級国民が主体の集まりなので、来ないと思っていたら、ちゃっかりやってきやがった。
これは、もしかして、兄達が言っていた「いじめ」というやつなのだろうか。
学校に通うと、そういうことがあると言っていた。
私は人生初のいじめに対して、どう対処するか悩んでいた。
なんせ、あのエセ王子が相手だ。
単に先制攻撃で叩き潰すという対策は、やはり不味いだろう。
クソガキは今回は、ご馳走の味見がしたかったら、踊れと言いだした。
これまでにも、味見をさせてくれたおじさん、おばさんの要求に応えて、その場で小さな旋回やジャンプ、ポージンク等をしたことがあった。
そこで私は、フワリと小さく舞う。
「それじゃ駄目だ。
舞台でやってたようなやつをやれよ。」
え? ここで祈神舞をやれっていうの。
師匠もいないし無理だよ。
「それは、ここではちょっと……」
「じゃあ、もっと楽しい踊りを、踊ってみろよ」
楽しい踊りっていわれてもな……
仕方がないので、私は久々にノリノリでヒップホップを踊った。
気がつくと、前回出禁を食らったパーティーほどではないものの、会場の周囲は静まりかえり、周りの人達は私を凝視している。
だれかが上下左右にスイングしていた私の頭をがっちり掴む。
「痛たたた……」
「今回は悪さをしていないか様子を見に来れば……
失礼いたしました、回収して帰ります」
アリシアは私の首根っこを掴むと、パーティー会場から引っ張り出した。
そして私は大目玉をくらい、再びパーティーへは出禁となった。
要求に答えて踊っただけなのに、アリシアやアンバルに激オコされたのは理不尽なのではないかと思うが、これでクソガキ王子に会わなくてよくなったのならば助かる。
私はご機嫌で舞の練習場に向かった。
「おい」
ガラの悪い声で呼び止められて、ふと振り替えるとなぜかクソガキ王子が立っていた。
「げっ、クソガ……いえ、エセル王子。
こんな所で何をなさっているのですか?」
「お前、今、何を言いかけた?」
「いえ……く、草が生えているなーと。
そろそろ草むしりの時期ですね。テヘッ……
それで、今日は何をしにこちらへ来られたのですか?」
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