[神殿の回想12]リボンとドレスと回し蹴り
学校や芸術院に通ったり、治療院や神殿の雑務を手伝ううち、そろそろ半年がたとうとしていた。
私は優雅な舞では、主役の後ろの群舞の中で踊ったり、祈神舞でも、先輩達の大技の合間に、宙返りを披露できるくらいには上達していた。
季節はいつの間にか冬だ。
私の髪は10cm ほど伸び、毛染めの色も落ちてきたので、先端を切り落としてもらう。
ようやく、一時だけの染めをしなくても舞台に立てるようになった。
鏡の中の私は、金色のくるくるの髪をしていた。
ずっと染めていたので、自分の本来の髪の色だけを見るのは初めてだ。
「長年、理容部にいますが、こんなに見事なゴールデンブロンドの髪を見るのは初めてですわ。
本当にきれいだこと。」
褒められても、全然嬉しくない。
普通の黒い髪だったら、私は山の家でずっと暮らす事ができたのだ。
「まだまだ、短くて男の子みたいね。
どうしたら女の子らしく見えるかしら。」
側で見ていたアリシアが考え込んでいる。
「よく赤ちゃんが頭に巻いているような、ヘアバンドを巻いて飾りを付けたらどうかしら。」
……げっ、冗談じゃない。
赤ちゃんと同じ髪型にしろとはひどすぎるではないか。
「いやー、嫌です。どうかご勘弁を!」
私は必死になって、土下座をして頼んだ。
「でも、せっかく初めてドレスを着るのだから、髪型も可愛くしないともったいないじゃないの。」
アリシアと理容部のおばさんは、まるで人形で遊ぶかのように、ああでもない、こうでもないと、子どものようにキャッキャと楽しそうに私を飾り着けていく。
結局、私の髪は何ヵ所かに花やリボンを、ピンでとめられることになってしまった。
パーティーに参加する時の衣装は、基本的に巫子達は皆お揃いだ。
今回は、白にオパールのような光沢のかかったふわふわしたスカートの下をパニエでふくらませて、ブルーの帯を巻き、黒のダンス用の靴を履く。
胸元や帯には、踊りに邪魔にならない程度の色とりどりの花の飾りが付く。
男子達は、同系色のブルーのズボンと光沢のあるブラウスだった。
なぜ巫子達がパーティー用のドレスを着ているかというと、神殿で月に数度開催されるパーティーに出席するためだった。
基本的な礼儀作法の教育を終えて、特に舞手や楽士、詩の朗読の鍛練を受けている巫子達は、パーティーの場に華を添えるために、交代で小さな舞や音楽、寸劇等を披露させられたりする。
芸術院の専門の楽団は常時待機していて、その場に応じた演奏を行っており、時と場合により、巫子達もそこに加わる。
飾られた花と同じで、特に注目されなかったとしても、その場を飾り彩りを添えるために、数人づつで演じさせられるのだ。
パーティーの参加者に気に入られたら、舞や歌、演奏をリクエストされて個人で披露する事もある。
時には、各地の領地を治める領主に引き抜かれることもあるそうだが、許可を出すのは神殿なので、要望が通るには、裏で色々駆け引きがあるらしい。
特権階級の1~2等級国民の芸術院で学んでいる子達は、基本的には祭事の時にソロで演技をするか、パーティーには特別ゲストとして呼ばれて、参加者全員観覧の元に、一瞬登場して芸を披露して、出来のいかんに関わらず、称賛を浴びる。
もちろん、巫子達とは扱いが違う。
他に巫子達の別の役割としては、料理の配膳、下膳、味見がある。
少し大きな巫子達は、ロボットがテーブルまで運んできた、出来たての料理を、テーブルに並べ、少なくなった皿を下膳する。
リクエストがあれば、盛り付け用の皿に料理を並べていく。
比較的小さな巫子達は、出席者に呼ばれて、盛り付けをされた中から、更に小さな皿に移した料理を味見させてもらえるのだ。
わあ、私、身体が小さめで良かった、ラッキー!
「ああ君は、祈神舞で宙返りを披露していた子だね。
こちらにおいで。美味しい料理を味見させてあげよう。」
一人の、おじさんがわたしを膝に乗せて、味見用の小皿料理を次々食べさせてくれる。
どれもこれも、寄宿舎で、食べている料理とは違い、格段に美味しい。
肉は培養肉ではなく、新鮮で厚切りで歯ごたえがあって、固めで噛みしめると肉汁が染みだしてくる部分やトロトロの食感がする部分が混在していて、何とも言えない味わいだ。
バターと香辛料でソテーした魚も、プリプリした味わいの天然物だ。
別のおばさんも私を呼んで、小さく切り分けたデザートを小皿に移して、味見させてくれる。
夢の国で味わった、スフレやムースに似ていて、舌の上に乗せると上品な甘味でホロホロととろけていく。
私は夢中になって、次々食べていった。
おばさんやおばさん達は、周囲で会話をしているのだが、よくわからない言葉や、言い回しをしていて、何を話しているのかよく分からない。
パーティーの大人達の会話は、聴き耳をたてたり、質問したり、加わらないように、聞いた内容を誰かに話したりしないように、と、きつく指導されていたので、私はそんなややこしい事は無視して、とにかく提供された味見用のご馳走を食べ続けた。
とりあえず、美味しいものを食べさせてもらえるならそれで大満足た。
年明けは上級国民の交流期でもあり、パーティーが多く、巫子達は交代で参加していた。
パーティーには格があり、それによって巫女達の振るまい方も変わってくる。
私はまだ、1等級の一部~2等級が中心のパーティにしか会食場には参加していなかった。
もっと格の高いパーティーは、出席したとしても、舞手の一部として一瞬舞を披露してすぐ退散するくらいだ。
そんな何度目かのパーティーの時、私は少し年上くらいの1人のクソガキに、帯を引っ張られているのに気付いた。
「何をしているのですか?
止めて下さい。帯が解けてしまいます。」
しかしクソガキは、更に帯を引っ張り、
「ふうん、この帯って解けたらどうなるの?
俺、いつか何かの画面で見た、帯を引っ張ったら女の人がくるくるって回って
『あーれーっっ!!』て、悲鳴をあげていたのが見たいんだよね。」
……この、クソガキは何を言っているのだろうか?
頭が腐っているのか?
狂人相手にまともに対応するのは時間の無駄だ。
私は無視する事にしたが、そいつはしぶとく付きまとってくる。
「なあ、お前、やけに髪が短いけど、スカートをはいてるし女なのか?」
「昼間、祈神舞で宙返りしてただろ。
ここでもやってみせろよ。」
あー、うざい。うざくてたまらない。
どこかに、こいつを私から引き離して、料理の味見をさせてくれる救世主はいないのだろうか。
私はそいつを出来るだけ無視して、身体をつつこうとする攻撃を素早くかわしたが、そいつはスッポンのようにしぶとく、なかなか離れようとしない。
しまいには、「ちょっと待てよ!」と、そいつは私のスカートやパニエの裾を掴むと、思い切りまくり上げてきたのだ。
「アチョォォーー!!!」
わたしはとっさに、振り向き様の回し蹴りで、そいつの腹に足を叩きこんだ。
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コニーを、膝に乗せて味見をさせていたおじ様は、別に〇リ〇ンという訳ではなく、この時代特有の味見(毒味)をさせていただけです。詳しくは
「第12話 エセル王子の憂鬱」をご参照下さい。
主に、巫子達子どもや給食ロボットに場の給司をさせていたのは、情報統制のためです。
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