[神殿の回想10]え? ラーメンは18禁ですか?
同室のロゼッタは、これまでよりは時々学校に来るようになったが、来たとしても、教室の隅の方で、おどおど目立たないようにしている。
「あら、ロゼッタ、おはよう。」
「お、おはよう……」
ロゼッタは自分用の画面に向かったので、わたしも自分の課題をこなしはじめた。
途中、監督の先生がそれぞれの机を回って行くが、ロゼッタの所には少し長めにいて、色々指導していく。
「ここは、先日やったでしょう。
どこがよく分からないの?」
「……」
「先週出された課題は、どこまでできたの?」
「よく、分かりません……」
周りの女の子達が、声をひそめてクスクス笑う。
ロゼッタは、また顔を青くして項垂れ小さくなっていた。
翌日は雑務の日だ。ロゼッタと私は別行動になる。
さらに翌日の学校の日、出かけようとして、ロゼッタの方をみると、ロゼッタはまだベッドで寝ていた。
私は心配になって、
「ロゼッタ、どうしたの? 気分が悪いの?」
と確認する。
「……ううん、違うの。
そっとしておいて。」
「どこか具合が悪いなら、舎監の先生を呼んであげるわよ。」
「いいの……」
私は学校に行き、監督の先生にロゼッタの事を伝えた。
「そう……またですか。
彼女には今の過程が難しいのかもしれませんね。」
舞の練習が終わり、部屋に戻ると、ロゼッタはまだ布団にいた。
「大丈夫? 気分が悪いわけじゃないの?」
彼女は首をふる。
「夕御飯もまだなんでしょう。
一緒に食べに行きましょうよ。」
私はロゼッタを促して、一緒に食堂に向かう。
彼女は食もあまり進まないようだった。
部屋に戻ると、ロゼッタはふいに私に問いかける。
「ねえ、コニーも最近ここに来たんでしょう。
ここの暮らしが辛くないの?」
「うーん、辛いというか、私はただただ、家に帰りたいんだけど……」
話を聞くと、ロゼッタは私の2歳上で、災害の時に親を亡くしたらしい。
私は、自分が生まれる前の年に、大きな災害が起きて、沢山の方が亡くなったと聞いた事があった。
ロゼッタはその時片親を亡くし、地元の孤児院に入った。
そんな中で、風や雨を動かす力があることが最近になって分かり、この神殿に引き取られてきたという。
「暮らし自体は、孤児院よりはるかにここのほうが良いから、ここに住むのはいいの。
雨呼びのお手伝いも、まだあまりうまくできないことが多いけど、能力はあるらしいし上達してると言われているから頑張れるの。
辛いのは学校。
私、孤児院ではほとんど勉強していなくて、ここで何をやっているかもよく分からないし、回りにも馬鹿にされているのが辛くて……」
彼女の話を聞いていると、今一番問題になっているのは学校の課題のようだった。
私は夜の時間がある時に、ロゼッタに私の知っている勉強を教えてみようとしたのだか、これがなかなか難しいという事がわかった。
彼女は普通の文章を読むのに困難を感じていたのだ。
口で読めば言葉の意味は分かるし、文字の一つ一つの意味は知っているのだが、文字が並んで文章になると、とたんに混乱してしまうという。
文章になると書いてある事が理解できなくなって勘違いもしてしまうし、文章が沢山並んでいると、どこで区切っているのかも分からなってくるらしい。
私は、折をみて監督の先生に相談してみた。
「それは読字障害かもしれませんね。」
時々、知能には大きな問題がなくても、文字や数字等の理解が難しくて、学習に支障をきたす事があるという。
ロゼッタは特殊な能力をかわれて急に神殿に連れて来られ、まずは雨呼びの訓練を重視されていたために、他の教育については後回しになっていた。
孤児院からは、ほとんど文盲に近いと聞いており、学校も登校拒否をする事が多くて、質問してもはっきり返事が返ってこなかったりで、学習について評価するのは後回しになっていたという。
読字障害、書字障害については、対応のプログラムがあり、彼女はそのプログラムで、その後学習するようになった。
国語は苦手だけれど、算数や理科、社会についてはかなり学習が進んできたらしく、笑顔が増えて、学校でもあまりおどおどする事がなくなった。
私も、時々、教科書を読み上げたりしながらロゼッタの勉強を手伝った。
そのうち、勉強以外でも、一緒にご飯を食べたり、暇な時には話す事が多くなったりして、いつの間にか私達はとても仲良くなっていた。
ロゼッタは学校以外は、ほぼ雨呼びや風よけの訓練と実践をしていて、芸術院では絵画を習っていた。
舞や音楽は適性が乏しいと判断されたそうだ。
適正は様々だしなあ……
私は絵画部門でお試しの絵を描いた時に、夢の国で見た事のある、絵を真似して描いて見た。
女子会おばさんの1人が、食事の前後などによく絵を見に行っていた。
沢山の人が集まって並んで熱心に観ていたから、多分有名な絵画なのだろう。
たとえば、絵の中に大きな丸の中に大小様々な丸が並んでいたり、
1つの顔の中に正面を向いた顔と、横顔が同時に描かれていたり、
歪んだ顔の人が両手を顔の横に当てて、叫んだ表情をしている絵などだ。
「君は頭がおかしいのか?
精神鑑定を受けたほうが良い。」
「真面目に取り組む気が無さそうだ。」
と、さっそく落選判定を食らってしまった。
格調高い、芸術院の芸風には合わなかったようだ。
詩と演劇の部門では、ラーメン愛について詩を作り、朗読してみたが、これも
「全く意味不明だ!」
審査員のおばさんは、真っ赤な顔をしてプルプル震え、
「子どものくせに、な、なんて卑猥な詩を!
こんなものを人前で発表してはなりません!」
とすぐに落選になった。
意味不明はともかく、卑猥の意味がよく分からない。
うーん、いくつか詩を参考にして、部分的にラーメンへの愛情を入れてみただけなんだけどな。
音楽だけは必須で、舞踏の音楽性を高めるために、近々、週1回くらいで何か楽器を習いはじめるようだ。
収穫の時期が終わり、風雨を調整する儀式が少なくなってから、ロゼッタは神殿の雑用にも加わりはじめた。
しかし、彼女が言うには、不器用なのでどの部署もなかなか慣れないらしい。
今日、私はロゼッタと一緒に、宴会料理の下ごしらえの準備を手伝いに来ている。
ロゼッタは私の真似をして、包丁を握りしめてはいるものの、培養肉やその塊、カット野菜しか触ったことがないらしい彼女は、包丁を持つ手が震えている。
「「慣れないなら、無理をしなくても……!」」
料理人と私が叫んだと同時に、彼女は鶏肉の皮の所で手を滑らせて、左手の示指をグッサリと切ってしまった。
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コニーが芸術院で作り、なぜか? 18禁指定をくらった
「ラーメンに注ぐ愛の唄」
(注:物語の進行的にはどうでもいいので、適当に無視して下さい)
ラーメン、
貴方の事を思う度、
私の心は縮れ麺の様に千々に乱れる。
ラーメン、
貴方のコクのあるまろやかなスープを口に含む度、
私の舌は歓喜にうち震える。
時には固く、時には柔らかく、
千差万別に姿を変える麺やチャーシューは、
まるで造形の神の化身のように、
私を翻弄する。
舌の上で転がす度に、
えもいわれぬとろけるような感触がする味玉は、
まれにしか姿を現さず、
私の心を期待や失望で攻め苛む。
ラーメン、
なぜ貴方には夢でしか会うことができないのか。
ああ、ラーメンよ。
永遠の愛を貴方に……
(この世界には「ラーメン」と言う言葉は無いので、人の名前と勘違いされる可能性はありますけどね)
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