[神殿の回想6]ダンス▪ダンス▪ダンスを踊ろう

 翌日、私はまた司祭達の元に連れて行かれた。


 幽霊おばさんの1人はアリシアさんといって、これからしばらく私の教育係をするのだという。


「へえ、幽霊なのに仕事があるなんて大変ですねえ。」


 アリシアさんは、ため息をつきながら私を見つめる。


「私は幽霊じゃないわよ。

 どうして、そんな変な事を思いついたの。

 山育ちとはいえ、本当に貴方は変わっているわね。

 今日は司祭長がいるから対応には注意しなさいよ。」

 

 そんな事を言われても、私にはここの人達の「普通」が分からない。


 いきなり拐って来て、変な検査をされたり、生き物を弄ぶような事をさせようとする人達なのだ。

私からすれば、ここの人達の方が変わっている


 部屋に入ると、先日の司祭達が集まり、中央には、グレーの髪に刃物のような輝きの瞳をした司祭長らしき人物が加わっていた。

これまでの司祭達に比べて、断突に威厳や威圧感のある人だ。


 私は促されて、昨日披露した挨拶をまた行う。

 この間からはかされている、スカートにもちょっと慣れたかな。

ズボンの方が動きやすいのに。



 司祭達は、手元のデータを見ながら、また勝手なことを色々話し始めた。


「結局、干渉力はほぼ期待が出来なかった、と。」


「情報干渉については、多少能力がありそうなのですが、食べ物に執着していてコントロールも難しそうです。

 現時点では、香と時間の無駄になりそうな様子です。」


「能力がありそうなら、多少香を使ってでも、もっと何度か試して、鍛えてみてはどうなのか?」


「でもあまり、子どもの頃から、この領域で無理をさせすぎたり、香を用いすぎると、精神異常を来たして、廃人になるというデータがあります。」


「何より狂暴で反抗的で、我々の言うことを聞かせるのに難渋します。」 


司祭Bがこちらを睨みながら言う。


 司祭長らしき人が発言した。


「結局役に立たないというのなら、巫子として育てる教育費の無駄使いになるだけだ。

 臨時の儀式の時に早めに捧げてしまうという手もあるのだが…………

 今の国王は、認識が甘くて、なかなか臨時の儀式の許可が降りないのだ。」


「でも、身体的な条件としては、複数のつむじに髪の色、アースアイ、夏至生まれという滅多にない条件が揃っていますね。

 奇行は目立ちますが、全くの馬鹿という訳でもなさそうです。

 まずは、1年でどれくらい舞や教養の収得が出来るか様子をみてはどうでしょう。

 干渉力も成長すればもう少し育ってくるもしれませんしね……」

司祭Aが言った。


「来年については、一応それなりの良質な候補者を育成中でもあります。

 彼女は年齢も年齢ですし、対象候補としては、来年が最後になるでしょう。」


「ああ、マレーナか。

 あの子は多少雨呼びができるので、巫子でなくなってもそれなりに利用価値があるのだがな。」



 司祭達が話している内容は、よく分からないが、昨日、一昨日に能力を極力見せないように頑張りすぎたせいで、どうやら私は役立たず判定を食らってしまったみたいだ。


 おまけに、この人達に対しては、非常識な事もたくさんしてしまったようだ。


 これは、ちょっとまずいというやつではないだろうか。

この人達の様子だと、能力が無いからといって、簡単に家に帰してくれそうな雰囲気ではない。


 むしろ、このままでは、かなりヤバい展開になりそうな気がする……



 司祭Aが尋ねる。

「ところで、お前の得意なことというのは何かあるのか。

 あるとしたらいったい何なのだ。」


 私の得意な事?


「私の得意な事は、木登りと逆立ちです!!」


「はあ? それは全く役に立たない能力だな。」


「いや、身が軽いのなら、せめて、祈神舞など舞えるようになりませんかね」


「……それもそうだな、お前、舞は多少は踊れるのか?」


「ダンスなら得意です!!」


 ここで一念発起して、司祭達に良いところを見せないとまずいと思ったわたしは、手を上げて発言した。


 誘拐される前、私は夢の国でストリートダンスをはじめとした様々なダンスにはまっていた。

 さほど難しくないものから高度なものまで色々あったが、できそうなものから実生活でも再現してみていた。


 両親は私の行動を見てため息をついていたが、他に私がやらかした、火を爆発させたり、奇声をあげて躍りのような格闘技をする真似をしたり、物を分解して壊したりするよりはまだましだと思ったようで、大目にみてくれていたようだ。



 私は部屋の中央に進み出てダンスを披露した。

 音楽やラップが無いのでリズムがとりにくいし、着ている服も膝丈のワンピースで、足にまとわりついて、踊りにくくて仕方がない。


 私は体幹や四肢全体を使ってリズムを取り、躍動感のある細かいステップを色々組み合わせていく。

 ちょっと乗ってきたら、バック転を決め、床に手や足、背中を交互に着きながら旋回技を披露していく。  

 最後はヘッドスピンで決めようと、ツルツルの床に頭をついて足を上げると、スカートがめくれて顔に被さってきた。


「ええい!! やめい! 見ぐるしい!」


司祭長が机をバンバン叩いて、ダンスを止めた。


「身体的な条件は揃っていても、こいつは品格が皆無だ。

 こんな山猿は儀式で使い物にならんわ」


「いや、しかし、見方を変えると、斬新な踊りと言えなくもありません。

 身が軽いので祈神舞は短時間でマスターできそうじゃありませんか? 

 奉納舞には祈神舞の要素を少し入れた方が引き立ちますし、とりあえず普通の舞と祈神舞を、習わせて様子をみてはどうでしょう。」


「ううむ、まずは、アンバルに預けて調教してもらうか。」



 その後、私はアリシアから、部屋から引っ張り出され、女の子がパンツを見せて踊るのは、とてもとてもはしたない事で絶対にやってはダメだと、くどくどとお説教をくらった。

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