[神殿の回想4]私、魔女っ子ではありません

 その後私は、やや太っちょで穏やかそうな司祭Aと、あれこれうるさそうな司祭Bと一緒に部屋を出た。

 どうやら司祭達は全員男性のようだ。



 まず、私達は建物の外に出て、庭のような所に来た。


 地面は土だけれど、草花はほとんど生えていないし、小川もなく、虫や動物もいなさそうだ。

私は少し寂しくなった。


 庭の角のほうでは、木の棒を振り回して打ち合いながら、稽古をしている人達がいる。


「さあ、コニー、あの空の雲を眺めてごらん。

 あの雲に、どこか他所に行くように念じてみなさい。」


……そんなの無理だし。

雲は生き物と違うじゃんか……


「逆に、たくさん集まるように念じてみてもいいんだよ。」


「真面目に集中しないと、痛いお仕置きをするぞ。」


 司祭Bが、リーゼの持っていた金属の棒を取り出して目の前でグルグル回して見せる。


……私にはそれ、不意に使われでもしない限りは効かないんだよね。

でも、ばれないように、ちょっとは効いているふりをしたほうがいいのかもしれない……


 とりあえず、集中しているふりをして雲を眺めてみる。

何もしなくても雲は少しづつは形を変えるけどそれだけだ。

 ああ、澄みわたった青い空は綺麗だなー。

最近、部屋の天井ばかり見てきたから、久々の青空は心が和む。


「雨呼びは滅多に完成しない能力だからな。

 いきなりは難しいかもしれない。」


「では、今度は風を呼んでごらん。

 こう、空気の薄い部分と濃い部分をイメージして、濃い所から薄い所に流れていくようにするのだ。」


 ああ、それは枯れ葉でくるくる渦巻きを作って遊んだ事がある。

 でも、父さんに見つかってずいぶん怒られたから、やってはいけないやつだ。


「そんなの無理です。できません。」


「諦めずに、集中してやってみなさい。

 うまくできたら、美味しいお菓子のご褒美をやるぞ。」


 ゴクリ……でも、父さんがダメって言ってたから、ダメ、絶対! 

うー、でもお菓子食べたいよー。


 私は唾を飲み込み必死で我慢した。

しばらくして、司祭達は諦めた。



 次は、部屋の中に連れて行かれる。


 まずは、コップに入った水を、グルグル動かしたり、熱くしたり、冷たくしたりするように言われる。

 そして、石を柔らかくしたり、逆に粘土を固く石のようにするように指示されるが、そんな事はやったことがないし、全くやる気もない。

 

 その次は火の付いたロウソクが出てきた。

ロウソクは、家のエネルギーが足りない時など、年に何度か使った事がある。


 また、5歳の誕生日には、ケーキに小さなロウソクを5本立てて、吹き消してお祝いした。


「これはロウソクという物だよ。

 誕生日のお祝いでは見たことがあるかな。

 ロウソクの火が強く燃えるように念じてごらん。

 火を良く燃やす物質が、回りに集まってくるようにイメージするのだ。」


 ああ、これも父さんにすごく怒られたやつだ。


 燃えるゴミを集めて燃やしたり、焚き火で小魚を炙ったり、焼き芋を作る時などに、燃やすものが湿っているとなかなか火が付かなかったり、火力が上がらなかったりする。


 カラン兄さんは、空気に約20%含まれている酸素という物質や、メタン等のガスの一部が火をよく燃やすと言っていた。

メタンは牛のゲップによく含まれているらしい。


 私は火の回りによく燃える物資を集めてみて………

焚き火は爆発を起こして危うく大惨事になりかけてしまい、私は父さんに大目玉を食らった。


 私は、ロウソクを眺めているふりをするが、だんだんあきてくる。


「ダメか……

 物質系の干渉力が無いのか、集中力が足りないのか……」


「とりあえず、今度はロウソクの火を消してみなさい」


……まだやるのかよ。

 面倒くさくなった私は、息を吹きかけてロウソクを消そうとしたが


「そうじゃない、息を吹きかけずに消してみなさい。」


 私は、ロウソクの芯をちょんとつまんで火を消した。



 ため息をついた司祭達は、部屋を出て行った。


ようやく解放されるかと思いきや、司祭達は今度は、植え木鉢を持ちこんできた。


 鉢の草を触って、成長を願うように言われるが、これって畑によく生えていて除草に困る、成長が速くてしぶとい草だよね? 

 美味しい実のなる植物ならともかく、わざわざこんな草を成長させる気は毛頭無い。


 それに、鉢植えで育てるには、ちょっと過密すぎるのではないだろうか。

間引きが必要だと思った私は、弱そうな草や葉をプチプチと詰み始める。


「こ、こら、何をしているんだ!!」


「草の間引きですよ。適度に成長させたいなら、過剰な葉は取り除かないと、養分の取り合いになってしまいます。」


「そ、う、じゃ、な、い!!」


 司祭Bは、目を吊り上げて怒るが、私は間違ったことは、していないはずだ。


 銀の棒を構える司祭Bと私の間に割り込むようにして、司祭Aが、一抱えもある箱を持って入ってきた。

 カサカサ中で音がする。


「この中には生き物が入っている。

 ここから手を入れて生き物を取り出しなさい。

 もしかしたら、噛みつくかもしれないよ。

 怖かったら、集中して、中にいる動物を当てるのだ。

 当てたら手を入れなくても良いぞ。」


 中には蛇がいそうだな。

でも、動物に対する特殊な能力も、家族以外に見せたりしゃべったりしたら絶対ダメだと、念を押されていたし。


「中の生き物を捕まえたらいいんですよね。」


 気配を探ると、中にいるのは、毒もなくておとなしい緑蛇で、小さいやつは結構可愛い。

 司祭には何も伝えず、私はためらいもなく箱に手を突っ込んで探ると、蛇を掴み取り出して、司祭達に差し出した。


「はい、どうぞ。」


「ヒイイイィ……」

司祭Aは、うねうね動く蛇を見て、悲鳴を上げる。


「は、早く箱の中に戻しなさい!」


 出せと言ったり、戻せと言ったり、どっちなんだよ。

面倒くさい人達だな。


「今日はこれが最後の試験だ。」


司祭Bはまた大きめの箱を持って入ってきた。

今度は蓋がなく、中には一匹のネズミが入っていた。


「このネズミに、そば来るように呼びかけるのだ。」


「こっちに来い。こっちに来い。」


 私は感情のこもらない声で呼び掛け、心の中では逆の事を考える。

……ネズミさん、絶対こっちには来ないでね。

その場でじっとしていて。

 ネズミはその場でチョロチョロしている。


「ならば、今度は遠ざかるように呼びかけなさい。」


「あっちに行け。あっちに行け。」


 今度は口では向こうに行くように呼びかけながら、心の中では反対の事を念じていた。


 そんな事をしているうちに、時間だけが過ぎていく。

ネズミは箱の中をグルグル周り始めた。


「生物干渉も、無理か……」



 司祭Bは、いきなりナイフを取り出すと、ネズミの身体に突き立てた。

 ネズミはチュー、チュー苦しそうに鳴き、身をよじる。


「ヒッ……」


「このネズミが可哀想だと思うなら、傷を触って治るように念じなさい。」


 私はネズミの側のナイフを取り上げると、ネズミの急所を狙って、一撃で止めをさす。

 そして、死んだネズミを、司祭Bの方に向かって叩きつけた。


「おじさん!! 

 おじさんは親に、生き物の命をもて遊んではいけないと教わっていないの!?」


「なっ、何を……」


 私達は自分たちが生きるために、生き物を殺す事がある。

 狩もするし、時期がくれば飼っていた鶏も食べる。

害獣や害虫がいれば駆除もする。

ネズミもその対象になることが多い。


 でも、それは人間の都合で仕方なくする事だ。

生き物の命を頂く時は出来るだけ苦しめないようにして、短時間で仕留めるように教わったし、無意味な殺生をしないようにと戒められていた。

両親に教わった大切な事だ。


「なんて、反抗的な……」


 司祭Bは、銀の棒で私をつつくが、おまじないのある私には効かない。

 でも、ばれないように、ちょっと痛いふりをしてみる。


「今日はこれくらいにしておこう。

 情報干渉の探索はまた明日にしよう。」

司祭Aが司祭Bをなだめるように言う。


「いずれにしても、物質干渉も生物干渉もできない、お前は役立たずの落第だ。」


 私は治療院の個室に似た部屋に連れて行かれ、また閉じ込められた。

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