[神殿の回想3]私って男の子ですよね?

 私は幽霊おばさん達に、司祭達の元に連れて行かれた。


 部屋には5人の司祭というおじさん達が、机を囲んで並んでいる。


「ほら、ちゃんと挨拶するのよ。」


幽霊おばさんが、私の背中を押す。



 ここに連れて来られるまで私は、家族やガーズィーおじさんとその奥さん以外の人と直接話しをした事がなかった。


 しかし両親は、成長する上で他人と接触する機会のない、社会経験ゼロの、生まれつきのヒッキーともいえる私の将来を案じて、画像教育などで色々なマナーやハウツーを学ばせていて、そういう時の指導はけっこう厳しかった。


 礼儀作法もその一つだ。

日々の暮らしに直接役にも立たない面倒くさいことをやるのは、嫌の一言につきたが、両親には

「常識として身につけるもの」として、

怠けないように定期的にやらされた。

 野山や畑は別として、家で食事をする時も、行儀が悪いと叱られた。


 しかし、バーチャルは別として、こんなに沢山の人達の前で、話しをするのは初体験だ。

 

 対象は目上? 

まあ、偉そうにしているからそうなのだろうな。

えーと、目上の人に対する最上級のお辞儀は……


 何も武器を持っていないのを見せるように、両の掌を開いて上に向けて差し出す。

相手より低い姿勢になるようにゆっくりひざまづいて、何をされてもいいですよというように、首を差し出すように頭を下げる。

よっしゃ完璧。


「お初にお目にかかります。

 コニーと申します。

 どうぞ、お見知りおきを。」


 司祭達は全員何の反応も示さなかったので、一応上手くいったのだなと私は悦に入った。


 しばらくしても、誰も何も言わないので戸惑っていると、一人の司祭が口を開いた。


「挨拶の仕方は誰に習ったのだ?」


「え? 父さんと母さんに、〈バーチャルで学ぼう マナーの基礎〉ですよ。

 おじさん。」


「所詮、付け焼き刃の山猿か。

 まあ、仕込めば何とかなりそうか……」


 私は、何だか両親が侮辱されたように感じて、とても腹が立った。


「そういう、偉そうな事を言うおじさんは、挨拶を習っていないのですか?」


「何を言う!! 本当に無礼なやつだな!」 


幽霊おばさんが慌て口を挟む。

「コニー、少し黙りなさい。

 まともな礼儀や会話の仕方については、後程、徹底的にしつけますので。」


「……まあ、しばらく様子を見よう。

 常識が全く無さそうなので、しつけを、優先的とするように。」


「はい、心得ました」


 私のあいさつはあまり上手く出来なかったようだ。私としては会心の出来だったので、がっかりである。



 司祭達は、手元の画面を見ながら勝手に話を進めていく。


「ほうほうこれは、うるうの年の夏至生まれなのか。

それは素晴らしい。

 さらにアースアイの瞳とくれば、夏至に捧げるには理想的だな。」


……ゲッ、誕生日をばらしたのはまずかったのだろうか。

誕生日については、両親も何も言ってなかったので、正直に答えたんだけど。


「7歳にしては、少し小柄なんじゃないか?」


「歯や骨の成長具合からは、7歳程度で妥当だろうとされている。

 変異種には、成長が遅めな事例もあるらしい。

 細胞のテロメアも調べてみるそうだ。」


「髪の色も白髪染めで染めていて、実際は黄色~金色のようだな。

 つむじも3つもあるようだ。」


「来年か、その次夏至の儀式には仕上がりそうか?」


「干渉力と品格次第だな。

 年齢にしては身体が小さそうだし、どうもこれまで世間に関わらずに育っていて、普通の常識が乏しいようだ。

 御神体が満足するような、巫子として格の高い舞の奉納をさせるには、かなり教育が必要そうだ。

 来年では厳しいのではないかな。」


「教育部の教師によると、学校に行っていない割には、かなり基礎学力が高くて、中等科の編入試験を受けても良いレベルなのではないかと言っていたぞ。」


「学習能力はそれなりにあるということか。

 早々に教養や舞を仕込んで、巫子としての価値を上げたほうが良いかな。」


「とりあえず、干渉力がどの程度あるかにもよるな。」


 1人の司祭が私に尋ねる。


「髪の長さがずいぶん短いが、お前は女の子としての教育や躾をされていたのだよな?」


「へ? 女の子ってなんですか?」


「「「「「ハァアアアア!?!?」」」」」


部屋にいた司祭達が、驚きの声を上げる。


「お前はまさか、自分の性別を自覚していないのか!?」


……女の子というのは、たまに両親が絵本や動画で見せてくれた中に出てくる、髪が長くて蝶々や花みたいなリボンを付けて、ヒラヒラの飾りが付いた服を着ている子達の事だろうか。


ん? 無い無い、私はそんな格好をした事がない。


「私は女の子じゃありません。」


「それでは、お前は実は男の子なのか!?」


司祭の1人が尋ねる。


「女の子のわけは無いですから、多分そうですよ。」

と返事をすると、


「いえいえ違います!! 

 治療院で検査を受けた限りでは、この子は女の子で、間違いありません!」

幽霊おばさんの1人が慌てて叫んだ。


「全く……

 この子の親はどういう教育をしてきたのだ……。」

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