13話 別れと新たな出会い

 アンバルやノーリアさん達との長い話し合いが終わり、私は、昨日の客室で眠るようにと言われた。


 アンバルは、今夜は居間のソファーに適当に簡易の寝床を作って眠るという。

 それならば、身体の小さい私がソファーで寝て、アンバルに客間のベッドで休んでもらった方がいいのではないだろうか。


 そう申し出ると、

「子どもはつべこべ言わずに、さっさと眠れる時に寝ておきなさい。」

 と、2人は口を揃えて、客間のベッドに私を放り込んだ。


 これから2人は、居間でお酒でも飲みながら、これまでのことや、今後の事について色々語り合うという。


 大人の話で、秘密の内容もあるから、居間には絶対来るなと言われた。



 ぐっすり眠った翌朝は、私が起きるよりも早く、アンバルがすでに身支度を整えていた。


 これまではやや長めに伸ばして後ろで一くくりにしていた髪を、刈り上げのようにかなり短く切っていた。

 顔や腕はやや日焼けをしたように、褐色のファンデーションを塗っている。

 髭はあえて剃らず、普段かっちりと隙なく整えられていた服装は、かなり着古した作業着のようなものに変わっている。


……なんだか、くたびれたオッサンになっているな……

 

 私はアンバルの変身の様子を見て、むしろノーリアさんに服を借りて女装したほうがよかったのではないかなー、などと思いながら見つめた。


 アンバルは、舞で幼い頃から筋肉を鍛えてきたこともあるのか、身長は165cmくらいで男性にしてはさほど高くない。

ノーリアさんとあまり変わらないくらいだ。


 元々の顔立ちは繊細なのだから、いっそ、長めだった髪を下ろして、ワンピースを着たほうがよかったのではないだろうか。


……筋肉はあるけれど、フリフリのワンピを着て、ちょっとポッチャリ系のふりをすれば……


いや、でも、無表情で恐い顔をしている事が多いから、お化粧とかすれば、かえって不気味さが目立つような気がしないでもないか……


 アンバルは、私を睨み、

「お前は、今何を考えている?」


「いっ、いえ、何も不埒なことは考えていません……」


「そういう言葉が出ること自体、何か良からぬことを考えていた証拠だな。」


「め、滅相もありません。」

 私は誤魔化しながら、アンバル師匠をもう一度、良く見詰める。



 神殿に拐われた後5年の間、医師のハイル先生と共に、問題児と言われた小さな私を導いて指導し、時には親代わりになってくれた人だ。


「師匠は、もう旅立ってしまわれるのですか。」


「今日、一緒に逃走する仲間と合流する事になっている。」


「どうぞ、道中のご無事をお祈りします。

 本当に、本当に、今まで色々とありがとうごじゃい……ごさいま……  

 うわぁああああん!……………」


 私は、それ以上言葉を続けることができなくなって、アンバルの胸に、飛び込んで号泣する。


 彼は私を引き剥がそうとはせずに、戸惑った様子ではあるものの、時々ためらうように私の肩をトントンと叩く。

これまでの様に、泣こうとする私を止める様子は無かった。


 彼の大きくて温かい胸は、父やカラン兄さんを思い出させる。


 私は、生け贄に選ばれたと言われた時から、初めて声をあげて号泣した。

 これまでの感情が様々に甦り、止めどなく涙と嗚咽がほとばしる。


 このところ、私が泣こうとする度にストップをかけていたアンバルも、今回は私の気がすむまで泣かせてくれた。 


 目が溶けそうなほど泣いて、ようやく収まった頃、アンバルは、念を押して注意点をあげていく。


「お前の図太さならどうにかなるとは思うが、逆に調子に乗らないようにして、くれぐれも注意して旅をすること。

 知らないやつは敵だと思え。」


「ハイルからだが、紹介された医者以外に、お前の不思議な力を極力見せないようにせよ、とのことだ。」


「美味しいおやつや食べ物をあげると言われても、知らない人についていかないこと。」


「スリには気をつけて、お金は分散して隠しておけ。 

 くれぐれも、買い食いで散財するんじゃないぞ。」


 何と無く、最後の方にはギクッ、とするような内容が含まれていた。


 お金は大切だ。

アンバルとハイル先生が旅の資金を分けて提供してれたものの、この先私はお金を手に入れる手段を知らない。

少しでも減らないように、大切に使わないといけない。


 私達が別れを惜しんでいたその時、1人の男が、いきなりドアをバタンと力任せに開けて、慌てた様子で駆け込んできた。


「おい、姉さん!! 

 早く、もぐりでも何でもいいから、急いで誰か医者を探してくれ! 

 アンバルに頼んで治療院に、口の硬いやつとか紹介してもらえないのか?」


「多分、無理だ。

 神殿の医者は、附属の治療院か正式な派遣先以外での活動は、原則申告制で行動管理も厳密にされているからな。」  


 男はためらうように、アンバルを見詰める。


「え? お前、もしかしてアンバルか??」


 入ってきた男は、ノーリアさんを少し大きくして、少し人懐っこさを加えたような人だった。


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次回から、また少し時間軸が巻き戻り、コニーの神殿時代の話になります。

常識知らずのコニーの、勘違い暴走が始まります

 

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