6話 ミイラで逃走計画

 私は夕刻前に鳥のさえずりと身体の痛みで目が覚めた。



 何だか、長い夢を見ていた。

「夢の国」ではない、本当の夢。

知らない人ばかりじゃなく、家族達が出てくる夢。

両親や兄弟はどうしているのだろう?

私は、何としてでも帰りつかなければならない。

 私の故郷(楽園)へ。



 袋の中から這い出た私はひどい状態だった。


 止血が不十分だったので、左の首すじの辺りは血まみれで、左手の爪が剥がれた部分も血がにじんでいる。

手足も擦り傷だらけだ。


 リミッターを外して、通常以上の筋力を使ったせいで、身体中の筋肉が痛み、心臓に負担がかかっているのか動悸がしている。


 袋に潜りこんでいたとはいえ、完全に虫よけができていなかったため、ヒルも2~3匹身体に貼りついていた。


 私は顔をしかめながらヒルを剥がして、身体に痛み止めをかけていく。



 着ていた服も自分で切り刻んだとはいえズタボロだ。


 何とか根性で崖をはい上がったものの、さすがにこれで人里に降りて行ったら悲鳴をあげられるのではないだろうか。


 神殿や警備隊にもすぐ通報されそうだ。さて、どうしたものか……



 私は小川の水を浴びれそうな場所で、身体の汚れを落として服の切れ端で拭き、着ていた服をゆすぎながら考える。


 とりあえず夏で良かったな。

寒い時期だと凍死してただろう。

夜は焚き火を起こせるし、水も確保できるとして、食料はどうしよう。


 山育ちだから、食べられる植物やビワのような木の実、茸くらいは探せるだろうけど、今の時期、案外そんなにあるわけではないんだよね……。

多分、魚は捕まえられるだろうけど。


 何だか、今の状況って遭難ぽくない?

岩壁にいた時より詰んでいる気がするのは気のせいだろうか。


 とりあえず、今夜は寝る準備をして、遭難時の対応について夢の国で情報を得ようかな。

あ、でも遭難時の体験なんて、探しても見つかるんだろうか? 

生け贄にされると聞いた時も、どうやったら回避できるのかを探してもみつからなかったしな。



 神殿からの捜索者が来ないことを願いながら、私は濡れた服をまとい、川の上流に向かって歩いていった。


 ダンス用の靴では靴底が柔らかめなので、山道を歩くのは辛いけれど、裸足よりはましだと思う事にする。



 とにかく、私の一番の問題は、この目立つ金色の髪と、様々な色が混じった目だ。

細胞に干渉する力で、色は変えられないのだろうか。


 うーん、できたらすでにやっているよね。


 髪はナイフがあるから、いっそ剃ってみたらどうだろう。

毎日剃れば、ばれないのではないだろうか。


 頭や目の回りには何となく包帯を巻いて、親とはぐれた孤児みたいにして旅をしてみるとか(実際そうだし)。


 神殿でやっていたように曲芸を披露したり、怪我人や病人に対して看病をしたりすれば、少しは食べ物やお金がもらえないだろうか。



 困ったことに、私は山奥の暮らしと、神殿の生活くらいしか知らない。


 街中は、医師の往診や診療派遣の時に、たまについていったくらいだ。

後は両親からの説明や画像で、街の暮らしについて多少のレクチャーは受けだけれど、もう5年も前の事だ。


 まあ、でもどうにかなるか、というかするしかない。

悩むくらいなら、足を動かそう。


 とにかく、ほとぼりがさめるまで、しばらく山で食料を探して、時期が来たら、10歳くらいの孤児の男の子の振りをして山を降りよう。


 身体が小さめだから、多分ごまかせるはずだ。

うん! 何とかなりそうな気がしてきた。



 私は色々考えながら、焚き火にするための乾燥した枝を集めていく。


 そろそろ日も暮れて暗くなってきた。


 今夜の眠る場所を探して、焚き火をおこしていると、川下のほうから物音がした。

野獣? いや、モーター音だ。

まずい、焚き火の火で見つかってしまった。


 私はナイフを握りしめ、逃げる準備をしていると、小型の飛行車が素早く近づいてきた。


 飛行車から降りてきたのは、私を裏切ったかつての恩師、アンバルだった。

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