間話【幼年期4】狩りと漁のお供

 父さんは、大きな仕事が無い時や新鮮な肉が食べたくなった時、生活費の足しにしたい時などは、趣味もかねて時々狩りや魚釣りに出かけることがあった。


 そんな時は、移動しやすい小型の飛行車を持っているガーズィーおじさんと一緒に、兄や私も連れて行ってもらえることが多い。


 ガーズィーおじさんは、父さんの学生時代の親友で、20kmほど離れた村に住んでいる。

山の家に住めるように仲介してくれたのもおじさんだったという。


 ちょうど、結婚を機に山を出て町で暮らしたい家族がいて、生活スタイルを交換したような感じだ。


 山に住み始めた最初の頃は、元々技術者だった父のトーリンや私が産まれたばかりだった母のミュリエラ達が、慣れない山の暮らしに馴染めるように、一緒に住んで、色々手助けもしてくれたらしい。


 彼とその妻は、私が家族以外に唯一、普通にしゃべったり、家で一緒に過ごすことができる人だった。

 

 おじさんは身体も声も大きく、よく通る大きな声で話し、笑う豪快な人だった。

 パリス兄さんは、おじさんのことが大好きで、訓練と称しては時々彼の家に泊めてもらうこともあった。



 狩りについてだが、この国では特に国有地を中心に、ある程度野獣の数は管理されている。


 小型の飛行ロボットが森を飛び回って生態を調べ、大型の獣については極少ロボットがこっそりGPSを埋め込んでいく。

 たまに洩れることがあるが、熊や猪、狼、鹿など害獣になりうる獣の生息地については、ある程度把握することが容易になっていた。

 一方、可食可能な野鳥やウサギ、魚等の一部の小型の生物は管理の対象外になっていた。


 狩りをしたい時には事前に役場に申請し、GPSのコードナンバーを把握して所在位置を確認しておく。

 他の狩人と野山で被らないように、日時もある程度決められていた。

 ただ、申請と狩りのための空気銃の一時的な装備増強についてはそれなりの手数料が取られる。


 獣に偶然遭遇したり、家の敷地に侵入して排除した場合やGPS登録洩れの時は、状況について簡単に調べられるものの、基本的には捕らえた者の所有物となった。


 獲物は家でさばいて食べても良いが、食べきれないので大半は町に売りに行く。

 特に肉の取り扱い所が欲しいのは、新鮮な肉の細胞なので、肉でも魚でも、確保できた時はできるだけ早く売りに行っていた。


 ある程度GPSで位置を確認しているとはいえ、実際に申請期間内に獲物に遭遇できるかどうかは運次第だ。

 手数料を払っているとはいえ、空振りも多い。


 そこで、コニーの特殊能力が役に立つ事なる。


 コニーは小さな頃から虫や動物、魚などを呼び寄せたり、逆に遠ざけたりするのが得意だった。

 特に大きめの動物は、近くにいると、何となく気配を感じる。

熊や猪、鹿や猿等が家の近辺にいると気配を感知して、両親の元に駆け込んだ事が何度かあった。


 両親は、できる限りコニーに特殊な能力を使わせたくはなかったが、生活する上で家族を養わなければ、ならないという義務もある。


 新鮮な食料はあったほうがよいし、実際コニーがやることとしては、獣に対して心の中で感じたり念じたりするだけなので、山の中の暮らしではあまり他人に目立つこともない。

 それに、コニーが害獣から自衛する手段を身に付ける訓練にもなるだろうということで、それなりの理由を付けて、しぶしぶ許可を出していた。


 今日の狩りは、役場の許可が出た猪だという。

 猪は時には村に近づいて、せっかくの畑を荒らしたりするので、害獣退治としても、割りと美味しく食べられる肉としても、退治できれば好都合の獲物だった。



 野山に暮らす者として、害獣や強盗対策に、一応空気銃などの防具は各家庭に備えているのが普通だ。

 しかし、人体への直接的な被害が少ないように、空気銃の設定は「人への殺傷力が乏しい程度」と、微妙にしょぼい制限がされている。


 基本的には死なない程度のダメージを与えて、退散させ、警備隊に通報してその後の処理を任せるのが普通だ。


 一時的な麻痺や電気ショックなどで気絶させるための強化装置は、狩りの申請の時に臨時で手数料を払って借り受けるのだ。


 今日は早朝の早いうちから、父さん、おじさん、カラン兄さん、パリス兄さんと私は、対象の獲物を探して私有地の外の森の中にいた。


 対象の猪の気配はすぐに感じた。

 ブルブルと唸り、地面を掻き、私たち家族や村人達が1年をかけて地道に育てた畑を狙っているようだ。


「父さん、山の畑の向こうにいるよ。

まだこっちを攻撃してくるつもりはなさそう」


「コニー! 

 飛行車から出るな。そこに居ろよ」


 父さんの指示で、私は飛行車の中にとどまった。

その後の様子を見学しながら、私は獲物に向かって念じる。


……猪さん、見つかったのはあなたにとって残念だけど、もうちょっとこっちに寄ってきて。

そうそう、もうちょっとこっち。

見えやすい所。そのまま、じっとしていてね……


 猪は何かに取りつかれたようにフラフラと、普通ではあり得ない警戒心の無い状態で姿を現す。

 獲物を見つけた父さんは、強化した空気銃で狙い、猪が動けないように一撃で急所を仕留め、その後はガーズィーおじさんが飛び出ていって大きめのナイフで、止めを刺した。


 カラン兄さんも、おじさんと一緒に動かなくなった猪の止めを刺す練習をしていた。


 食料にするため、狩りで命はいただくけれど、少なくとも獲物が苦しまないように止めをささなければならない。



 猪を仕留めた私たちは、飛行車に獲物を乗せて、車の燃料や設備を使い、急速冷凍した。


 私と兄さん達を家に送り届けた後、父さんとおじさんは、町の取り扱い所に、獲物が新鮮なうちに売りに行く。

 売った大半の新鮮な肉は、それより数倍量の多い、様々な培養肉や加工肉と交換された。

 味は新鮮な肉に落ちるとしても、家族の日々の食糧源としては貴重なものだ。


 狩猟が上手くいったその数日後は、売らずに残しておいた分のお肉と畑で採れた新鮮な野菜を使い、ガーズィーおじさんやマヤラおばさんも加わって

「しし鍋パーティー」が開催された。


 培養肉と違って、野生のお肉はとても噛みごたえがある。

 今回の個体はまだ若くて、臭みも少ない。

 少し香辛料を効かせた野菜たくさんのスープで、さっと火を通したお肉はとても美味しかった。



 猪を仕留めた後、数日して、私たちは今度は魚の確保に向かう。


 渓流や小川でのんびり魚釣りをすることもあり、父やおじさん、兄達にとっては楽しいらしいが、私にはよく分からない。

 私は気長に待つより、追いかけるほうが性にあっていた。


「今日は、コニーも連れてきていることだし、冬に備えて数の確保を優先にする。」


 今日来ているのは、小川ではなく、飛行車でしばらく飛んだ所にある湖だった。


 飛行車は湖の上空にもしばらくなら停止することができる。

 父達はまず、制度上許可されている大きさの網を湖に仕掛ける。

 網を借りるのにも、申請と手数料が必要だった。


 それからしばらくして、私は撒き餌を所々に撒きながら、心の中で念じて魚達を呼び寄せる。

 ある程度時間がたった所で、

「いっぱい集まったみたい」と声をかけると、おじさんの合図で網は引き上げられた。

 網の中には、大小様々な魚が大量にかかっていた。


「コニーがいると、本当に収穫量が違うな。

 すごいぞ、コニー!」


 ガーズィーおじさんに頭を撫でられながら称賛を受けて、私はとても得意で嬉しかった。


『身体が弱くて学校に行けないのなら、私は専門の狩人や漁師に弟子入りしてみるのもいいかもしれないな』


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 身体が弱くて、学校や町に行けないのに、危険を伴う狩りには同行する……

 コニーはまだ、その矛盾に気付いていません。

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