間話【幼年期3】山のおうちの幸せな日々

 私達家族が住んでいる家は、山の奥にあった。


 時々雨漏りがしたり、嵐の時は窓や扉が壊れたりするような古い平屋の家だったけれど、中は比較的広くて、土間以外に居間と寝室が4つ、それ以外に父さんの仕事部屋や物置などがあった。


 私の寝室は、寝るためだけでなはく、誰かが訪ねて来た時に隠れるための部屋でもあり、家の一番奥まった所に配置されていた。


 冬の寒い日や嵐の日になど、家のエネルギーが不足しがちな時には、皆で両親の部屋に布団を持ち寄って過ごすこともあり、実は私は嵐の日を密かに楽しみにしたりしていた。


 エンジニアの父さんの仕事部屋の横には発電機があり、かなり節約して使わなければならなかったけれど、家に必要なエネルギーを賄っていた。



 家の周囲には田や畑が広がり、一番近くの家に行くのにも、徒歩で10分くらいはかかった。


 畑で採れる以外の食料や雑貨、燃料等は、父さんや母さんが時々飛行車で町に行って買い出しをしていた。


 兄さん達は、週に1度は片道1時間をかけて学校に通い、それ以外は宿題をしたり、画面越しに授業を受けたりしていた。


 私は学校に行ったり、時々両親と一緒に町に出かける兄さん達が羨ましくて仕方がなかったけれど、もっと大きくなって身体が丈夫になるまではだめだと、なかなか許可がもらえなかった。


 そんな私の日々の楽しみは、家の前の庭で遊んだり、お手伝いと称して両親や兄達の後についてまわることだった。


 普段寡黙な6歳上のカラン兄さんは、勉強が好きで人に教えるのも好きらしく、学校に行っていない私のために、よく自分が学校で習ったことを教えてくれた。


 3歳上のパリス兄さんは、田んぼや畑、森や林の入り口、近くの浅い小川などでよく遊んでくれた。


 夜はエネルギーが余っている時は、家族皆で、画面やホログラムの画像を見たり、書籍や電子画面で本を読んだりして過ごした。



 両親は町に行った時、時々、甘いお菓子や食べごたえのある加工肉を買ってきてくれる。

 それはとっても楽しみで待ち遠しいことだったが、家の周囲で作っている、新鮮な作物が実って食べるのも楽しみだった。


 農作業や家の近くの山の整備は、力のいる作業などは農耕ロボットがある程度やってくれていたけれど、維持費がかかるので家では最低限しか所有しておらず、細かい収穫などは一家総出で手作業で行っていた。


 家の周囲の田畑では、家族が食べる量だけで、時には十分な収穫とはいえないけれど、様々な作物を作った。

 取れたてのキュウリやトマト、苺などは、山の湧水でさっと洗い、みずみずしいままかぶり付く。

 トウモロコシや豆を茹でたり、様々な芋を育てたり、秋には収穫したてのホカホカの白いご飯を食べた。


 玉子を産む鶏は数羽飼育していて、時には産んだばかりのまだ温かい玉子に遭遇する事もある。

「母さん! 産みたての玉子だよ!」

 家に持ち帰ると、たまには産みたてホカホカ玉子の玉子ご飯を食べさせてもらえる事もあった。


 土間の近くには湧水が湧いていて、飲料水はそこから浄水器にためておき、洗濯や沐浴の水は近くの小川の水を汲み上げて使っていた。

 湧水はただの水のはずなのに、森の香りがして暑い日には何よりのご馳走になるこもある。



 私が育った家の周囲は自然が豊かで、朝は毎日、鳥やカエル、セミの鳴き声で目が覚めた。


 私は春は蝶々、秋は田んぼを真っ赤に染めるトンボを追い回したり、道端に咲く花を集めたりした。


 時には虹の美しさに感動したり、綺麗だけど恐い雷に驚いたりした。日毎に形を変える月や朝夕に一瞬赤い輝きを見せる太陽は、毎日見ても見飽きる事がなかった。  


 そして、特に大好きな夜の満天の星は、夜空が晴れている限り毎日眺めて過ごした。

 星空は、なぜか子どもの私でも涙が出るほどに懐かしくて美しく、白くきらめく天の川や流れ星はいつまでも眺めていることができた。


 時に私は幸せに満ち足りて寝てしまい、いつの間にかカラン兄さんや父さんに、寝室に運んでもらうことも度々あった。



 私は7歳になるまで、人の悪意というものに触れた事がなく、世界はただ平和で美しいものだと思っていた。

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