薬部屋にて

 堅いものが砕ける音と、動作の反復を重ねて荒くなった息を、背中越しに聞き取る。

[もうそろそろ、休憩した方が良くないか?]

 一応、声を掛けてはみたものの、荒い息はますます荒くなるばかり。何故『本』なんかに転生してしまったのだろう? 前後を逆にしたサシャのエプロンのポケットの中で、サシャの背中の熱を感じながら、トールは大きく唸った。

「疲れたら休憩しろよ」

 部屋の向こうで天秤に何かを盛っている、サシャの師匠の一人、アランに言われてやっと、サシャの動きが止まる。

 『人』であれば、手伝うことができるのに。エプロンで首の汗を拭うサシャに、唇を噛み締める。何故『本』なんかに。その思考だけが、トールの脳内を巡っていた。

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