夜空を見上げて

 星の位置が、違う。見上げた空に息を吐く。

 やはりここは、トールが暮らしていた場所とは違う、世界。胸の冷たさを覚え、トールはそっと首を横に振った。

「あの星が、北を示す神の三つ星。で、その隣が」

 そのトールの耳に、優しい声が響く。普通の人には『祈祷書』にしか見えない『本』として異世界に転生してしまったトール。そのトールと思考のやりとりができる唯一人の、この世界の人間、サシャの、星を指し示す短い指に、トールは小さく微笑んだ。

 トールを認め、助けてくれるサシャと出会えて、良かった。それが、今のトールの正直な気持ち。サシャが身に着けているエプロンのポケットの中で、トールはサシャの小さな温かさに身を委ねた。

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