書写台と筆記具
殆ど縦になっている書写台に羊皮紙を固定し、腕全体を動かして羽ペンで文字を刻むサシャに、デッサンを無心に繰り返していた幼馴染みの背を重ねてしまう。「男子、他に誰も居なさそうだから」という伊藤の誘いに乗る形で、高校では『美術』を選択した。だが、芸術系全般が肌に合わなかったトールは、美術史や美術理論を勉強する方が性に合っていたように、思う。
羽ペン、使いにくそうだな。羊皮紙に文字を一行刻む度に左手のナイフで羽ペンを削るサシャに、微笑む。万年筆やボールペンは、インクの粘りやペン先を工夫する必要があるので難しそうだが、漫画で使う金属製のつけペンなら、この世界でも作れそうな気がする。再び羊皮紙に向き合ったサシャの、汗ばんで見える頬に、異世界の『本』に転生したトールは小さな声で「頑張れ」と声を掛けた。
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