第43話 神聖呪文はとっても大事
「いいかいオスカー。迷宮で最も危険な敵はなんだと思う?」
「敵……ですか? あえて言うなら弱い心を持った自分……ですかね」
オスカーの問いにデュランスはドヤ顔で答える。
うっわ! こいつ顎に指をかけて斜め四十五度のポーズ取ってる! 気持ち悪っ!
「か、かっこいいっス! デュランス!」
「てめえ全然面白くねえぞリーゼントクレリック!」
「その前髪へし折ってじっくりコトコト煮込んでポタージュにしたろか若造!」
「デュランス君そういうのいいから。そういうのほんといいから」
「そ、そうっス! デュランスおふざけはなしっスよ!」
「すすすす、すいません! 調子コキました! なんか重要な呪文覚えたってわかって調子乗ってました! ごめんなさい!」
怒涛の抗議にデュランスは平身低頭して許しを乞いにきた。
は~。これはアレだな。デュランスは褒めて伸びるタイプじゃないなこれ!
「自分との戦いとかそういうのはどうでもいいし答え言っちゃうよ。魔術師だよ魔術師」
「魔術師、魔法使い……ですか?」
「そう。ウィザードに限らず吸血鬼やリッチといった魔術を使うモンスター含めての魔術師ね」
オスカーの言う通りだ。俺達冒険者が恐れる敵、それは魔術師だ。
魔術とは、魔術師とはそれほどに戦闘に対して大きな影響力を有しているのだ。
だからこそ俺達は恐れる。魔術師を。
とはいえ『ひえー魔術師だ~』などと喚いてパニックに陥ることはない。
敵の魔術が適用される距離、範囲を瞬時に認識し、最優先の行動を取る。その為に怖がるのだ。
いわば正しく怖がるのだ。
「一回の魔術でパーティが半壊しかねない。だからこそ僕らはクレリックが必要なんだよ」
オスカーは続ける。その通りだ。魔術に対して最も有効的な手段はクレリックの神聖呪文なのだ。
かかった対象を恐怖に陥らせる魔術、
かかった相手の動きを阻害する
もちろん
「君の神聖呪文があるからこそ僕らは安心して魔術師と相対できるんだよ」
「そ、そうだったんですね。そうとも知らずに俺。すんませんした!」
深々と頭を下げるデュランス。前髪が地面にくっついてるぞおい。すげえな。
「それに
「
「そう。魔術師ってのはね、大抵防御魔法を自分に掛けているんだよ」
「防御魔法……」
「自分の肌を石のように固くする
そう! そうなんだよ! 鏡像で攻撃は当たらない! 偶然当たっても石の肌に阻まれる!
昔、防御魔法を積みまくったウィザード相手に一切攻撃が当たらずに余裕しゃくしゃくで呪文を目の前で唱えられたこともあった。
俺もギフンも顔真っ赤だった。思い出すだけで腹が立つ!
「そんな防御魔法を魔法解呪は一発で解くことが出来るんだ。防御魔法が溶けて前衛に距離を詰められた魔術師ほどボロいカモは迷宮には存在しないよ」
「そ、そんなに重要な魔法なんですね魔法解呪って」
「そうそう。それさえ魔術師にぶち当てれば後は俺達が袋にしてやるからさ」
「確かに何も防御魔法がついてない魔術師なら余裕っスね!」
「たかがランク3といえどベルティーナの
「ランク9の呪文を覚えててもまだ活躍してるんですか!? すごい呪文なんですね……」
「そうじゃわい。そんなご立派でありがた~い呪文なんじゃよ加速と魔法解呪は」
「そ、そうとは知らずになんか俺卑屈になっちゃってすんませんでした!」
今のデュランスからは卑屈さも増長も見当たらない。どうやらわかってくれたみたいだな。
「いいってことよ。いざってときは一発頼むぜデュランス!」
「はい!」
「んじゃ早速迷宮に潜るか! レベルが上がったからって油断せずにな!」
「うっス! 頑張るっス!」
俺達は隊列を組み、再び迷宮へと足を踏み入れる。
デュランスはああ見えてなかなか繊細な男だ。
ウィザードとクレリックという違いはあれどベテランであるベルティーナに引け目を感じていたのかも知れない。
過去の話を聞くにこいつは色々背負っちまう性格なんだろう。
だけどなデュランス、俺のパーティに不必要なやつなんて一人もいねえよ。
お前はもっともっと強くなる。独り立ちできるその時までは色々俺達に甘えればいい。
あれ? 俺……デュランス庇って死んだりしないよな?
なんかすごい『前途ある若者を庇って未来を託して死んでいくベテラン』感出てなかった?
ざっけんな……ざっけんな! まだ俺は若いぞこの野郎! 男の成長期は三十代まで続くんじゃい!
「オラ! 行くぞデュランス! ソニア! 遅いぞ! キビキビ歩け!」
「へ!? わ、わかりやした旦那!」
「う、うっス! すんませんっス!」
「いい返事だ!」
頭に漂う不穏かつ不埒な思いを断ち切り迷宮探索に集中する。
ただでさえ暗くか細い迷宮なんだ。せめて気持ちは明るく行かないとな!!
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