第44話 前衛はレベルアップが地味とか言われる

「昨日の今日とは言え、いつあのネズミ共が出てくるかと思うと油断できんのう」


 誰に言うでもなくギフンの呟きが迷宮に響く。昨日みたいな賭けはもうコリゴリだと言わんばかりだ。そりゃ同感だ。

 だが鼠の王と戦うとなると……やはり何体か護衛についているはずだ。

 ベルティーナとデュランスが後衛に徹する為にも

 俺、ギフン、ソニアの脳筋前衛組があのネズミ野郎をタイマンで倒せるくらいの実力が必要だな。

 となると……

 

「なあベルティーナ。デュランス。ちょっといいか」


 俺はすぐ後ろにいるベルティーナとデュランスにとある提案を申し込む。


「ん~? 何?」

「どうしました旦那」

「あのさ。ちょっと試してみたいことがあってさ」

「試してみたいこと? 何よ何よ?」

「次あのネズミマンが出てきたら俺達前衛だけで戦わせてくれないか」

「え? ええ!? 旦那何言ってるんですか!?」

「あ~。はいはい。そういうことね。いいんじゃない?」


 俺の意図を汲み取ってくれたベルティーナが了承の意思を示す。

 反面デュランスは理解できないといった様子だ。まずはデュランスに説明しないとな


「なあデュランス。鼠の王とやり合うことになる本チャンまでにさ、俺ら前衛がピンであのネズミマンを倒せるかどうか知っておきたいんだよ」

「ピン……一人でってことですか?」

「そう。鼠の王には絶対お付きがついている。あのネズミ野郎がな。それを前衛が一人で倒せるか倒せないか。それ次第で取れる戦略が変わるんだよ」

「ああそういうことですか。確かに前衛のサポートに注力しなくて済むならその分自由に動けますもんね……」

「そういうことよデュランス君。それに私達呪文組ばっかり目立っててアイザックも内心焦ってるのよ」

「あ、そういう……」

「焦ってねえし! 変なこと言うなよベルティーナ! デュランスも納得すんな!」


 二人のニヤニヤ笑いが気にはなったがひとまず決まりだ。

 次にネズミの異形が出てきた際、俺達は前衛の実力を試す意味も兼ねて後衛組のサポートなしで戦うことになった。

 事情を話したところギフンもソニアも納得してくれた。


「もしも一体や二体ならどうするんスか?」

「優先順位は俺、ギフン、ソニアだ、。一体なら俺。二体いたら俺とギフンがそれぞれ受け持つ」

「一気に三体出てきたら楽なんじゃがなあ」

「いやいや一体ずつが一番確実ですって旦那……」

「ま、確かにギフンの気持ちもデュランスの気持ちもわかるよ。俺としては二体くらいがリスクが少なくて……どうしたオスカー」


 オスカーが身動みじろぎ一つせずに二十メートル程先の角を凝視している。


「早速か?」

「そう……かもしれない。まだ断言はできないけども」

「ここはまだ一階じゃぞ? それも入り口近くじゃってのに……」

「魔物の格と階層が釣り合ってないわよ」


 ベルティーナが怪訝な表情を浮かべるのも無理はない。

 迷宮に住まうモンスターは瘴気、魔力。人によっては魔素とも言われているがそれらを体に取り込みながら活動している。

 強いモンスターが活動するにはより強い瘴気を必要とし、弱いモンスターはその逆だ。

 そして迷宮は下層程瘴気が濃く、上層。つまり入り口、人里に近ければ近いほど薄くなるのだ。

 だからこそワイバーン、吸血鬼、リッチなどの上級モンスターは上層では生息できず下層に居を構えているのだ。


「ああ、やっぱりだ。来てるよ。昨日の異形だ。聞き間違いはない」

「地下一階にこいつらが出張ってくるか……」


 昨日ネズミの異形と戦った時も感じたが奴らは地下五階……いや六階クラスの実力だった。

 地下二階では奴らが活動できる瘴気は十分に供給されていないはずなんだ。

 それなのに……いやそれどころか地下一階にまで足を運んできている。

 迷宮の法則でも変わったのか?

 レベルドレインを皮切りに俺達は何か大きな異変に巻き込まれている。

 異形の足音が聞こえた。その瞬間俺は無駄な夢想を中断して戦闘の思考へ切り替えた。


「ギフンの望みが叶ったみたいだよ。異形三体! すぐそこの角からだ!」

「やっぱり一体の方がよかったかのう」

「だから俺は言ったんですって!」

「ワチャワチャやってる暇はなさそうだぞ。お出迎えだ。ベルティーナ、デュランス、オスカー。わかってるだろうが」

「ああ。僕ら後衛は手は出さない。いざって時はもちろん助太刀に入るけどね」

「そうしてくれると助かる。ソニア! ギフン!」

「おうさ!」

「はいっス!」


 ギフンは刀を上段に構えて敵を待ち構えていた。

 対するソニアは両手を頭の高さまで掲げ手を軽く開き構える。

 俺もロングソードと盾の握りを確かめる。よし。コンディション抜群。緊張もしてない。イケる!


「ギイイイイイイイイ!!」

「来たぞ!」


 二十メートル先の曲がり角からネズミの異形が三体飛び出てくる。

 個体差はないのか昨日戦った異形と同じ程度の体格だ。

 さあ前衛諸君! 新しい呪文を覚えてウキウキの後衛組に目にもの見せてやろうじゃねえか!

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