第3話 十八枚得した!
死にかけのオスカー含めた俺達は怪我の治療をしてもらう為にと重い足取りでなんとかアルマ寺院へとたどり着いた。
幸いなことにオスカーはギリ生きてたしベルティーナもグネらなかったしオスカーはギリ生きてたしオスカーもギリ生きてた。
礼拝堂に足を踏み入れた俺たちに向かって貫禄のある、というよりもやや太ましいハゲ頭の司祭がこちらに向かってドタドタと忙しなく小走りで向かってきた。
「はいはいはい! いらっしゃい! おお! 久しぶりだなアイザック君! それにオスカー君! うわひっどいなこりゃ! 蘇生か!? 治療か!? 蘇生なら金貨二十枚! 治療なら金貨二枚! どっち!? まだ生きてる!? ギリ生きてるね! なら金貨二枚だよ! よかったな! 十八枚得したな! 神の御加護だ!」
すごい勢いで怪我人と金の勘定が行われる。
俺たちが寺院に入ってわずか5秒の出来事である。司祭であるトーマスさんだ。
「フォーマフふぁん。ふぁのへふね」
「とりあえずしゃべれるようにしないとね」
俺の顔にかざしたトーマスさんの手から淡い光が放たれる。それと同時に口の中の痛みがゆっくりと消えていく。
口の中の痛みと違和感が綺麗残らず消え去ったし歯もしっかりと生えてきたようだった。
だってのにトーマスさん……治ったのは口だけで鼻はひしゃげたままだし、顔のアザも残ったままだよトーマスさん!
狙った部位だけ治してるよトーマスさん!
トーマスさんのクレリックとしての腕前と商売人としてのしたたかさが感じ取れる超絶テクニックだ。 すごいよトーマスさん!
「あ、ありがとうございますトーマスさん。それで治療なんですけど僕らもボロボロでして……ほら。これ右手。そこの300歳エルフにやられたんすよ!」
「298歳!!」
「あーひどいねえこりゃ。それなら金貨まとめて八枚ね!」
トーマスさんは左手の指を四本。右手の指を四本立てて見せる。はいはい八枚ね!
もはや神聖という言葉からかけ離れた雰囲気でトントン拍子に話が進んでいくよトーマスさん!
神もへったくれもない勢いだよトーマスさん!
昔、トーマスさんが髪も生えてて痩せてた頃は
『神の子よ……それでは祈りなさい……そして感謝するのです。全てのどうたらこうたら云々』
とかいった感じで神聖かつ厳おごそかに治療を行っていたのだが、余りにも冒険者が矢継ぎ早にやってくる為に治療も蘇生も間に合わず、利用者とトーマスさんのストレスが溜まりに溜まった結果……
トーマスさんの精神は吹っ切れることを選択した。今のような回転重視なスタイルになってしまったのだ。
『なんか真面目に祈らずにササッとやっても大して変わんなかった。神よ感謝します』
と、満面の笑みで話すトーマスさんに俺は何も言えなかった。
そこから僅か二年で頭は禿げ上がり、太り始めた。
神のいたずらか不摂生か。それこそ神のみぞ知るところだろう。
「オスカー君の治療にはちょっと時間かかるからあっちで待つか祈るかしててよ!」
トーマスさんが礼拝堂の椅子を顎で指す。
司祭が治療に専念している間、俺達は礼拝堂内の椅子に座って待つことにした。祈らずに。ワタシムシューキョウ。
椅子に腰を降ろした瞬間、限界まで張り詰めていて見えなかった疲労感にようやく気づくことが出来た。
もう二度と立ち上がれないのではないか、椅子と自分の尻が一体化してしまったのではないかと錯覚する程の疲労感だった。
「めちゃくちゃ体力落ちてるなあ俺」
「年か?」
「ちっげえよギフン! 俺はまだピチピチの二十五だっての!」
「ピチピチ? 頭皮が油でペタペタの間違いじゃないんか?」
「てめえ~ギフンてめえ~。首切りは侍の専売特許じゃねえぞ~。本気だしゃファイターだって首切りできんだぞコラァ~」
と、ギフンとしょうもないやり取りをしても疲れが取れるわきゃあない。
たった二分で人はここまで疲れることが出来るのか……今までの人生で最も濃密な二分間だったかもしれない。
ネズミとの死闘に罠の解除失敗。
未熟な技量で死線をくぐり抜けることはもう二度とごめんこうむりたいものだよ全く。
「あ゛~う゛~」
ふと隣を見ると、ガニ股で天を仰ぎながら変な声を上げているダークエルフがいた。ベルティーナだ。
両腕を椅子の背もたれにまで広げて、まるで風呂に入っているおっさんだ。
ローブもはだけて胸元が開いていても全く気にしていない。
疲れが最高潮に達して何もかもがどうでもよくなってしまっているのだろう。
エルフは300代を超えるとそこら辺の恥じらいもなくなるのだろうか。
あーあーあー。胸がこぼれるこぼれる! 神よお許しください! いやどうでもいいか……
もうベルティーナがポロリしようがしまいがどうでもいい……そのくらい疲れてんだよこっちは
「どうしてこんなことになったんだか……」
静かな礼拝堂にズタボロになった顔面と右腕の痛みが響き渡る。
天井に飾られたステンドクラスを見上げながら思わず呟いてしまった。
少なくとも俺たちの身に降り掛かったことを思い出すだけで神を信じる気なんてなくしてしまう。
アレが起きたのは昨日の朝だったな
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