第26話 最強の敵
エドガーの背後の調教師がスッと消える。そして、また別の人物に切り替わろうとしていた。
「させるか!」
エドガーが死霊を切り替えるタイミングに隙ができるはず。その一瞬の隙を突き、エドガーを倒す。俺は剣を手に取り、エドガーに斬りかかる。
「無駄だ。やれ」
棚の影から犬のぬいぐるみが飛び出てきて、俺に襲い掛かってきた。
「な!」
「僕がスキルの弱点を克服してないとでも思ったか? 既に僕の言うことを忠実に聞く番犬をこの倉庫に配置していた。僕の命令1つで僕が気に入らない人物に飛び掛かる最高の番犬さ」
しまった。ネクロマンサーは自分に死霊を宿すだけではない。物体にも死霊を宿して操ることができる。その基礎中の基礎を俺は忘れていた。
「そして、終わりだ」
俺はエドガーの背後の人物を見て戦慄した。肩までかかったボサボサの茶髪。瞳の色は純粋な黒。その人物は狂気に満ちた笑いを俺に向けてきた。
ありえない。だって、あいつは……最強の……
「アルバート。かつてこの世界を救った英雄だ」
エドガーは平然とそう言ったのけた。もしかしたら、俺には最初から勝ち目などなかったのかもしれない。やつは……エドガーは暗黒騎士アルバートの力までもを手に入れていたのだ。
マーク、ラッド、マスターは数の内に入っていない。それは誇張ではなかった。たった1人で魔王軍を壊滅させた英雄アルバート。その魂を手に入れた時点でエドガーがこの世で最も強いのと同義だ。
「リーサ……逃げろ。勝ち目がない」
「え? どういうこと?」
調教師のスキルが効かなくなったことで完全に正気に戻ったリーサ。だが、この状況をイマイチ飲み込めてないようだ。
「ちっ。ようやく俺様を呼び出したのか? ひよっこが。さっさと俺に人殺しをさせろ」
アルバートは舌なめずりをしながらそう告げる。威圧感が半端ない。なまじ、アルバートの恐ろしさを知っているからこその恐怖だ。何も知らなかったのなら、それはそれで幸せだったのかもしれない。知っているからこその恐怖がここにはあった。
「リーサ! いいから逃げろ! 俺が時間を稼いでいるうちにな!」
俺はエドガーに突撃した。しかし、エドガーの左手が漆黒の手甲に覆われる。俺の剣をエドガーの左手が防ぐ。
「なに!」
「お返しだ」
エドガーが手甲で俺の顔面を殴打した。鈍痛が俺の顔面に伝わる。幸い、鼻や陣中、目などの急所は外れていた。脳が揺れているような感覚もないし、致命傷は避けられたようだ。
「リック! アンタを置いていけるわけないじゃない! だって、アンタはスキルがないんでしょ! 戦闘能力を持つ私が守ってあげなきゃダメじゃない」
リーサはエドガーにハイキックを入れようとする。エドガーはその蹴りを手甲で受け止めた。
「うーん。理想的な脚だ。この脚を撫でまわしたい気分だ。この手甲さえなければ、リーサの脚の感触を直接確かめられたのだろうけど」
「え、ちょっと待って。寒気がするほど無理なんだけど」
リーサがエドガーの手を振りほどき、軽やかなステップをして距離を取った。
「エドガー。早くどっちか殺せ。そして、俺様のその殺しの感覚を共有してくれよ!」
アルバートが前のめりになり、息を荒げる。
「黙れ」
「あ?」
「お前はただ力を貸していればいい。僕に指図するな!」
エドガーが持っている杖で俺の右腕を強打した。俺の右腕から痺れるような痛みが伝わる。そして、そのまま右手に持っていた剣を落してしまった。
「あが……」
剣を持つ握力すらなくす一撃。かなりとんでもない。ただ杖で殴っただけでこのダメージだ。もし、暗黒の力を解放したジェノサイドモードになったら……想像しただけで恐ろしい。
「やれやれ……エドガー。お前さんは自分の立場がわかってないようだな」
「なんだと」
「中途半端な覚悟で暗黒騎士の力を手に入れたことを後で悔やむんだな。くっくっく」
アルバートは不気味に喉を鳴らした。なんだ? どういうことだ? 仲間割れか?
「え? 暗黒騎士の力? どういうこと?」
リーサはようやく事の深刻さに気付いたようだ。そう、この戦いは最強のスキル暗黒騎士との戦いなのだ。盗賊のリーサが安易に出てきていい場面ではない。
「そうだ。リーサ。僕は今暗黒騎士の力を手に入れている。その気になればいつでもキミを殺すことができるんだ。ねえ、リーサ。僕に殺されたくないよね? だから、僕の言うことを大人しく聞いて?」
エドガーは縋るようにリーサに語り掛けた。しかし、リーサはそんなエドガーに対して中指を立てるのであった。
「
リーサの発言にエドガーは肩をぷるぷると震わせている。そして俯いて訳の分からない呪詛をぶつぶつと呟いたの後に顔を上げた。
「そうか……ならば、リーサ。キミの魂を僕の中に取り込んでやる! この暗黒騎士のスキルを使ってなあ! キミは僕の中で永遠に生き続けるんだ。何をするにしても一緒。正に一心同体。あはは。楽しくなってきたね。こんな幸せの形もあったんだ」
両手を広げて狂気じみた笑いをするエドガー。だが、そんなエドガーの顎にリーサの蹴りが炸裂する。
「が……」
エドガーは思いきり後方に仰け反り、倒れた。そりゃそうだ。顎に思いきり蹴りを食らって無事な人間は早々いない。特にリーサの鍛え上げられた筋肉による蹴りは下手な成人男性の蹴りよりも数段上だろう。
「1人で盛り上がってんじゃないの。アンタもしかして、恋人とかいたことないの? ムードってのは2人で作るもんなんだよ!」
リーサが蹴りで更に追撃する。とても痛そうだ。俺はあんな蹴りを食らいたくない。だから。リーサは怒らせないようにしよう。そう肝に銘じた。
「止めだ!}
リーサがかかと落しでエドガーの頭をかち割ろうとした。しかし、エドガーはリーサンの脚を左手の手甲で受け止めて攻撃を防ぐ。そして、ギチギチとした音がする
「な! くう……」
リーサは必死にもがいてエドガーから逃げようとした。恐らく、リーサの脚はエドガーに思いきり握られているのだろう。正に握力の暴力。思わぬカウンターを食らったリーサは冷や汗をかいて焦っている。
「リーサ!」
俺は痛む右手に鞭打って剣を拾い、エドガーに向かって走り出した。そして、エドガーの左腕に思いきり叩きつける。斬撃ではなく打撃。金属製の剣の重みを利用した一撃だ。
手甲を通じて衝撃が伝わったのか、エドガーはリーサから手を離した。リーサはその隙にエドガーを蹴飛ばして距離を取り、ナイフを逆手に持ちファイティングポーズを取った。
「ありがとうリック助かった」
「ああ。礼には及ばない。それより逃げるぞ」
「逃げるったって。開拓地村はどうなるの?」
リーサも開拓地村を心配している。俺たちがここで逃げたら、開拓地村は野盗達に滅ぼされてしまうだろう。エドガーも健在だし、マスターだって控えている。正直言って開拓地村の存続は絶望的だろう。
だが、それでも俺は冷酷な判断をしなければならない。
「開拓地村は捨てる。そして、王都に行き、聖騎士団を派遣してもらうんだ。でなければ、エドガー……いや、暗黒騎士アルバートに勝てない」
「そんな……」
そうだ。俺たちがしなければならないのは意地張って朽ちることではない。未来に繋がるための行動をするんだ。俺たちが必死になって戦ったところで負ければ開拓地村は滅びる。ならば、敗走でもいい。暗黒騎士を倒すための対策を講じるべきなんだ。
「くっくっく。そこの坊主。お前、どうしてエドガーと正面切って戦わないんだ?」
エドガーの背後のアルバートが俺に問いかけてきた。
「リックが戦えるわけないじゃない! 彼はスキルを持ってないの!」
「はっはっは。スキルなしか。そいつは傑作だな。最強のスキルを持っているのに隠してるんだからさ」
アルバートは高笑いをする。やめろ。やめてくれ。そのことをバラさないでくれ。
「リック? どういうこと?」
「そこの坊主……リックはな。俺と同じ暗黒騎士だ。同類はにおいでわかんだよ。こいつも血なまぐさい人殺しだってな!」
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