第22話 魔族の血統
スキルを手にすることができるのは何も人間に限ったことではない。かつて、この世界には魔族と呼ばれる存在がいた。その魔族も人間と同様にスキルを扱うことができた。それ故に、人類と魔族は拮抗した力を持ち長きに渡り争いを続けていた。
基本的に人類も魔族も得られるスキルは共通している。だが、人類には人類の。魔族には魔族にしか発現しないレアスキルというのも存在していた。魔族専用のスキルの1つ。それが
魔族の長たる魔王。それを暗黒騎士アルバートが討伐したことにより、数十年に及ぶ戦いは人類の勝利に終わった。
魔王が敗れた後の魔族は、アルバートを主軸にした人類が根絶やしにした。アルバートは魔族を次々に拷問にかけて、仲間の居場所を喋らせて戦う意思がない者や
アルバートは自身の手間を省くために、実力が拮抗している魔族たちを密室に閉じ込めて殺し合いをさせたりもしていた。最後の1人は解放するという条件を提示して。だが、魔族が根絶やしにされたことからもわかる通り、その約束が果たされることはなかった。
そんな非道な行いに民衆はアルバートに対して良くない感情を抱いていた。政府連合の方針も降伏した魔族は見逃すように伝えていたはずだ。しかし、人類最強の暗黒騎士たるアルバートに誰もが逆らえなかった。
魔族しか発現しないスキル『ネクロマンサー』。絶滅したスキルのはずが、それを持っているエドガー。そのことが指し示すのは1つしかない。魔族の生き残りが存在している。
ネクロマンサーは死者の魂を物体に憑依させることできる。スキルは肉体ではなく、魂に宿るもの。それは死後も変わらない法則だ。魂を宿せる物体には色々と制約があり、低位のネクロマンサーは生前の姿を模した物体……人間なら人形の。犬なら四足歩行で可動する玩具など無生物にしか憑依することができない。
だが、高位のネクロマンサーにもなれば、依り代にする物体の範囲を生物にまで広げることができる。そして魂が宿った生物は、その魂の能力を引き出すことができる。犬の魂を入れられたら嗅覚が犬並なるし、スキル持ちの人間の魂と共鳴すればその人物のスキルを扱うことができる。
「とんでもないバッドニュースが飛び込んできたな。魔族の生き残りがいたなんてな」
「残念ながらそのバッドニュースは誰の耳にも届かない。民衆に届く悲報は、開拓村が占領されて住民が全員死亡するニュースだ。キミ含めてね!」
エドガーの背後に新たな背後霊のように立つ。その霊には見覚えがあった。俺がついさっきまで戦っていた聖騎士ラッド。自害したはずの彼だが、エドガーのスキルにより呼び出されたのだ。
「ラッド……!」
俺は戦慄した。聖騎士と暗黒騎士は相性が悪い。辛うじてラッドに勝つことはできたが、ラッドの強さは戦った俺が知っている。もう1度戦って勝てる保証はどこにもないのだ。
「どういうわけかラッドの魂が見つかった。まあ、死んだんだろうね。本来なら死者の魂と交渉、契約をしなくちゃいけない。だけど、ラッドとは生前に契約を交わしていた。『もし、私が死ぬようなことがあればキミにその力を託す』とね」
仲間が死んだ事実がわかったのに、まるで意を介さない反応。やはり、こいつは魔族だけに人間とは少しかけ離れた感性の持ち主なのだろうか。
「気を付けなさいエドガー」
ラッドの霊がエドガーに語り掛けてきた。
「やつのスキルは暗黒騎士です。殺した相手の魂を自身に取り込み肉体を強化するスキルを持つ。私は奴に殺される前に自害したから取り込まれずに済みました。だから、こうしてキミの力になることができます」
「なるほど……キミにしては上出来だ。ラッド。そこまで考えて動いてくれるとは、流石に学者だけあって聡明だね」
「な……ラッド! お前が自害したのは、まさかエドガーのためだったのか!」
点と点が線で繋がった。ラッドは自身が敗れたことを悟った。その時、後方にネクロマンサーのエドガーがいることは当然知っていた。そのエドガーに、全てを託すために自ら命を絶ったんだ。暗黒騎士の俺に殺されれば、魂が取り込まれてネクロマンサーのエドガーに助太刀することができなくなるから。
「リック。今度こそ決着をつけましょう。学者生活が長引いていて肉体的に衰えていた私だが、魔法職とはいえエドガーは若い肉体。聖騎士の剣技を扱うなら私より適任だ」
エドガーの右手に白く輝く聖剣が宿る。その輝きはまるで太陽のように眩しくて直視が出来ない。聖剣にはエドガーの魔力が込められている。魔法系のスキルを得意とするエドガーだけに込められる魔力の量はラッドの比じゃない。
俺はその光を見て思わず尻込みをしてしまった。だが、ここで退くわけにはいかない。エドガーがラッド以上に聖騎士を使いこなせたとしても、こいつらは絶対に許せない。俺を! 仲間を! 裏切ったんだ。こいつらのせいで、俺の開拓地村での平穏な生活は水泡に帰した。その恨みを剣に託して斬る!
なんの付与もされていない単なる剣。それを頼りに俺はエドガーに斬りかかる。当然、エドガーもそれに反応する。
「直線的な動き。悪くないが、良くもないね」
エドガーが聖剣を俺の剣にぶつけて切り結ぼうとする。だが、予想外の事態が発生した。
カキーンと景気のいい音が鳴り響いて、剣が折れて吹き飛び床へと突き刺さる。俺はその音を聞いて死を覚悟した。だが、俺の手の感覚はここで攻めろと言っていた。
ザクっとした肉を切る感覚。俺の剣での一撃がエドガーの腹部に命中する。エドガーが咄嗟に仰け反ったせいか傷は浅いが十分すぎるほどのダメージを負わすことが出来た。
「がは……バ、バカな! 僕の魔力が宿っている聖剣だぞ! どうして、スキルを解放していない暗黒騎士の剣に負けるんだ!」
エドガーは腹部を抑える。聖騎士が扱える簡単な回復魔法で応急処置を施そうとしている。だが、ここで奴を回復させるわけにはいかない。追撃で更に痛手を負わせてやる!
「食らえ!」
だが、それは迂闊な行動。エドガーは自身の左手を光らせて、俺の目を眩ませた。しまった。奴の剣は弱くても魔力を光に変換すれば、閃光を放つことができる。俺は怯んでしまい、攻撃のチャンスを逃した。
「ぜーはー……とりあえず簡単な治療は終わった。だが、ラッド。どういうことだ。キミの聖騎士のスキル全然役に立たないじゃないか!」
「エドガー。お前は相当悪いことをしたようだな。聖騎士は断罪の力。自身が悪に染まっているのならば、その効力は失う」
「なんだと……」
なるほど。ラッドは自身のスキルが聖騎士であることを把握していたからこそ、悪事を働く時はスキルの制約に引っかからないように工夫していた。だが、エドガーは聖騎士である前提で動いていない。今までの悪行が積み重なって真の力を発揮できなかったのだ。
「はは。なんだか拍子抜けだな。どうしたエドガー。お前の悪行のせいで、仲間の死が無駄になったぞ」
「ぼ、僕がなんの悪行をしたって言うんだ! 僕は人殺しなんてしていない」
「なにも人を殺すだけが悪行ではない。お前はリーサを連れ去っていやらしいことをしようとしたな」
「それの何が悪いんだ。僕とリーサは相思相愛なんだぞ!」
「相思相愛じゃないから悪行としてカウントされてんだろ。セクハラ野郎が!」
まあ、それが原因かはわからない。俺はエドガーの過去を知らないし、リーサを監禁した以上の罪があるのかもしれない。だが、とりあえず思いついた罪があったのでそれを指摘しただけだ。
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