第21話 エドガーの正体

 俺は剣を手に持ち、エドガーに斬りかかった。エドガーは全く微動だにしない。なんだこいつ。俺を舐めているのか?


 俺の剣がエドガーに命中する寸前で、その衝撃が俺に跳ね返ってきた。俺は後方に吹き飛び、尻もちをついてしまった。


「バカな。今のは結界……魔術師にも合成術士にも扱える代物じゃない。守護騎士か陰陽師が扱える技だ」


 魔術師でも簡単な防御壁は張ることはできる。けれど、攻撃を跳ね返す結界レベルになるとより高位な守護に特化したスキルでないと発現することができない。


 結界を張っている間はエドガーは動けない。また、結界内には限られた量の酸素しかない。このまま、エドガーがなにもしなければ相手は勝手に酸欠で死ぬ。けれど、そんな間抜けなやつはいないだろう。やつはなにかを仕掛けてくるはずだ。


「さて、問題だ。リック。僕は守護騎士か陰陽師。どっちのスキルを持っているでしょうか?」


「なんだと」


 ここでクイズか? 守護騎士は物理職で陰陽師は魔法職だ。エドガーはさっきから、魔法攻撃を多用してくるから恐らく持っているのは陰陽師だ。


「どうせ陰陽師なんだろ」


 陰陽師は霊属性の相手に特効を持っている。まだモンスターがいた時代なら、霊のモンスター相手に対しても殴ることはできた。霊相手なら下手な物理職よりも破壊力はあった。そして、陰陽師にはもう一つ特性がある。それは式神と呼ばれる存在を操ることだ。だとすると、エドガーの次の攻撃は式神を操ることか?


「正解は……」


 エドガーの左手が盾で覆われた。なんだと。俺は完全に虚を突かれた。その一瞬の隙をついて、盾から光線が発せられた。まずい。俺は反応して、体を逸らした。俺の左肩が光線に貫かれる。さっきまで俺の心臓があった位置だ。危なかった。後、刹那反応が遅れていたら俺は今の攻撃でやられていた。


 ありえない。今のスキルは――


「正解は守護騎士だ。僕は魔法しか能がないやつだと思ったか? 攻守のバランスに優れた守護騎士の才能も僕にはあったのさ。これにより、僕は物理で殴ることもできるし、防御面も完璧だ。もちろん、本職は魔法使いだ。完全に隙がないのさ」


「そ、そんなわけないだろ! 与えられるスキルは一人一つのはずだ! お前は……一体なんなんだ」


 確かに物理も魔法もいける魔法剣士のような存在もいる。だが、魔法剣士が使えるのは基礎的な魔法と剣術だけだ。高位の魔法である、ナノ・メテオもサンドストームも使うことができない。聖属性限定で魔法が使える聖騎士や魔法に近いブレス攻撃を使える竜騎士なんかも物理と魔法を兼ねそろえた存在だが、エドガーはそのどちらでもない。ありえない。高位の魔法も結界も使えて、物理でも殴れるスキル。そんなのあるわけがない。


「僕の恐ろしさがわかったかい? キミには万に一つの勝ち目もないのさ。マークもラッドもマスターも僕に比べたら、赤子も同然! 最初からあいつらは戦力としてカウントしてないのさ!」


 悔しいがエドガーの強さは本物だ。魔術師は騎士系のスキルに比べて、防御面が手薄だ。前衛に騎士を配置してこそ輝くタイプ。だからこそ、俺はタイマン勝負でエドガーに負けるはずがないと思っていた。だが、エドガーはそんな常識を覆すほどの実力の持ち主だ。どうする。どうすればいい……


 ドクンと俺の心臓が脈打った。この力に頼ざるを得ないのか。暗黒騎士の力の解放ジェノサイドモード……! 俺の実力を数十倍にまで跳ね上がらせる最強の形態。俺の中の暗黒騎士の力が、力を解放しろと囁いている。


 ドクン……ドクン……また脈打つ。なんだ俺の視界がぼやけてきたぞ。俺はまた意識を失うのか――一瞬視界がブラックアウトした。そして、次に目がハッキリと見えるようになった時、エドガーの背後におさげ髪で鎧を纏った女騎士の姿が見えた。


「な、なんだ……?」


 女騎士のシルエットは青白くて、半透明で後ろの背景と同化している。その表情はどこか生気がなく。目に光が宿っていない。なんだこれ……なんだよこれ……


「エドガー。お前の後ろにいる女騎士は誰だ」


 俺は思わずそう口にしてしまった。次の瞬間、エドガーは目を大きく見開いて驚いた顔を見せた。


「な……キミにも見えるのか! ふっ……だが、彼女が見えたところで状況は何も変わらない。僕の力の正体を見破られたところで、対策なんてとりようがないのだからね!」


 エドガーの背後の女騎士がスーっと消えた。そのタイミングでエドガーの左手の盾も消える。そして、変わりにエドガーの背後からローブを身に纏った男性が現れた。この男性には見覚えがある。かつて、魔王軍との戦いで命を落とした英雄、魔術師フーガだ! 他人の空似にしては似すぎている。まさか本物なのか?


「食らえ! ナノ・メテオ!」


 エドガーが魔法を唱えると、また四つの石が俺に向かって放たれた。俺は剣を持ち、先程と同じように跳ね返す用意をした。


「ハハハ! その傷ついた肩でさっきと同じように跳ね返すつもりかい!」


 俺はまた四つ同時に石を剣で跳ね返した。その衝撃が傷ついた左肩に響く。とても痛い。涙が出そうだ。だが、俺は歯を食いしばって痛みを堪えた。


 エドガーの背後にいた人物が変わった途端、エドガーの攻撃方法が変わった。間違いない。後ろの人物が関係しているんだ。そして、後ろの人物の体が透けている。まるで幽霊、死者みたいに……ということは答えは一つしかない。信じられない。この時代にこんなやつが生き残っていたなんて。根絶やしにされていたと思っていた。


「エドガー。お前の正体はネクロマンサーだったのか」


「ふ、バレたらしょうがない。そうだ。僕はネクロマンサー……そして、魔族の血を引くものだ」

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