人を殺せば強くなる業を背負った暗黒騎士は平穏に暮らしたい

第15話 暗黒騎士VSモノノフ

　俺はモノノフのスキルを持つ野盗と対峙していた。モノノフのスキルは刀の扱いに長けたもの。当然刀を使った剣技も使ってくるだろう。

「拙者の剣技を受けてみよ！　朱鳥斬（しゅちょうざん）！」

　野盗の持っている刀が赤く燃える。そして、炎を纏った刀で俺に斬りかかってきた。山猿のような軽快な動き。容易く見切れるものではなかった。

　俺はなんとか持っている剣で応戦した。お互いの刀と剣がぶつかり合う。通常のスキルを持った剣士同士の場合、お互い有効打がない状態であろう。しかし、俺は通常のスキル持ちではなかった。

　俺はいわば暗黒騎士の補正の上澄みを受けてるだけの一般人に過ぎない。通常の戦士は自分の持っている武器に属性や強化を付与することができる。俺も暗黒騎士の力を解放した状態、つまりジェノサイドモードの時には同じことができる。しかし、ジェノサイドモード以外の時には俺はちょっと強い一般人でしかないのだ。

　戦闘能力自体は俺の方に分がある。俺も決して少なくない人を殺してきた。暗黒の力を解放せずとも並みの戦士には負ける程弱くない。だが、俺の持っている剣はあくまでも普通の剣。戦士系のスキルを持っている奴の強化を受けた剣に比べると見劣りする。

　やはり戦士は当人の戦闘能力以上に装備している武器に強さが左右される。武器性能に差がある状態では、俺の方が少し不利か？

　俺は力を振り絞り、なんとか野盗の刀をはじき返した。しかし、今ので俺の剣にかなりダメージが入ってしまった。一方で相手の刀は耐久も強化されているのであろう。このまま切り結び続けていれば、いずれ俺の剣の方が先に壊れる。

「へへ。兄貴ィ！　助太刀しやすで！」

　後ろで杖を持っているもう一人の野盗がぶつぶつと呪文を唱え始めた。まずい。後方にいる如何にも下っ端感がある奴は武器通りの魔術師か。

　すると俺の肩にずっしりと重い何かがのしかかってくるような感覚を覚える。な、なんだこれは……目に見えない石を背負っている。そんな感覚を覚える。

「くけけ。兄貴ィ！　オイラの呪術（じゅじゅちゅ）をやつにかけてやったで！　金縛りの術をかけてやりやした！　時間と共に段々動きが鈍くなってくるはずです。だから時間を稼げば確実に奴を追いつめられますで」

　奴のスキルは呪術師か……。くそ。呪術すらまともに発音できない滑舌の癖になんでそんなスキル授かってるんだよ。

「ほう。それはいいことを聞いたな。では、拙者はこのまま受けの姿勢を維持しようか」

「やめろ！　今すぐ呪術（じゅじゅつ）を解け！　でないとお前ら死ぬことになるぞ」

「へへ。あの野郎なんか言ってますで。どうせハッタリでえ！　ちょっと呪術（じゅじゅちゅ）の発音が上手いからって調子に乗って」

　本心から忠告してやっているのに……なんて奴らだ。だが、俺もできれば奴らを死なせたくない。手加減ができる内に奴らを倒さなければ……

　結論から言えば奴らを倒すのは容易い。俺がジェノサイドモードになれば一瞬でカタが付く。暗黒騎士の力は呪われた力。幾人もの人間の呪われた感情を引き連れて強くなる存在だ。いわば、自身に向けられた呪いを力に変えることができる。元より呪いに耐性があるスキルなのだ。むしろ、呪いを逆利用して自身の強化に当ててると言ってもいい。呪術師の呪いなんか生ぬるく感じる程、暗黒騎士に殺された人間の怨念は強い。

　ジェノサイドモードになり、奴の呪いを力に変換すれば勝ちは確定する。だが、それをやると今度は殺人衝動が抑えきれなくなり、ここにいる全員の命はなくなるだろう。俺はもう人を殺したくない。いくら相手が悪人でも、関係ない。俺は……もうこの呪われた力で強くなるのは嫌なんだ。

　モノノフ野盗は再び、刀を鞘に入れて杖の状態に戻した。モノノフのスキルには居合いと呼ばれる技がある。相手の攻撃を反撃することに長ける技だ。不用意に近づけば俺は居合いの餌食になってしまうであろう。

　お互いの間に緊張が走る。このまま待ち続けていても、俺にかけられた呪術が力を増して俺が潰れるだけであろう。なら……

「俺から仕掛けるしかないようだな！」

　俺は剣を両手に構えて力の限り突っ走った。金縛りでいつもの身体能力を発揮できない。それでも、やるしかない。

「愚かな！」

　モノノフ野盗が刀を引き抜こうとする。刀の軌道を読むんだ。そこに勝機はある。

　俺は左手を前に突き出した。すると金属同士がぶつかる音がする。俺の暗黒の左手甲（ノワールゴーシュ）で奴の刀を防いだのだ。

「何！　バ、バカな！　拙者の太刀筋を読んだと言うのか！」

「これで終わりだ！」

　俺は右手の剣でモノノフ野盗を斬りつけた。野盗は血を流して、その場に倒れる。

「あ、兄貴ィ！」

　呪術師野盗がモノノフ野盗に駆け寄る。呪術師野盗が近づいたところで、俺は奴の首筋に剣を当てた。

「解呪しろ。そうすれば命までは取らない」

「ひ、ひい……お、お助けを……」

　呪術師野盗はすっかり腰を抜かしてしまった。最早戦意を喪失しているが、また不意打ちで呪術を使われては厄介だ。俺は、左手で思いきり野盗の顔面を殴った。

「へぶし」

　暗黒の左手甲（ノワールゴーシュ）の一撃を食らい、呪術師野盗は気絶してしまった。これで俺に襲い掛かって来た野盗を全て倒した……否、一人だけ取り逃がしてしまったか。

　こいつらに止めを刺せば俺はもっと強くなる……これからの相手のことを考えると少しでも戦力を増強するべきなのでは……いかん。何を考えているんだ俺は。そんなことしてはいけない。相手がいくら悪人だろうと命を奪ってはいいわけないのだ。

　俺は確かに暗黒騎士のスキルを授かってしまった。けれど、俺は殺人をすることは望んでいない。

　かつて数多の命を奪ったとされる暗黒騎士アルバート。奴はジェノサイドモードを使わずとも魔王を討伐した程の実力を持っている。技や術を使わない素の戦闘能力だけでだ。それほどの可能性を暗黒騎士は持っているのだ。

　力に溺れるなリック……この力は本来、人間が持っていい力ではないんだ。